第4話 二人はこうして結ばれた
「おめでとうございます。新魔王様。」
こそこそと不可視結界を張って、息を殺している二人の前に魔族の貴族達が、1人の魔族の男を中心に集まっていた。
「あの売女は、くたばったんだろうな?馬鹿だが、力だけは強い奴だからな。それに、生きていては面倒だ。」
“新魔王”は、もう魔王のような態度で、二人の魔族に尋ねた。確認のために、魔王と勇者が戦った広間を見に行った者達である。
「死体は見つかりませんでしたが、魔力の痕跡はありませんでした。勇者の死体も見つかりませんでした。あの様な状態でしたから、死体は灰になったかと。」
皆は安堵したという感触だった。
「あの女に未練がありそうね。」
二つの角を持った女の人間型魔族が、カラカイ半分、嫉妬を半分込めて言った。男は笑った。
「あんな色気のない女のことなぞ、誰が未練を持つものか?夜の方だって、全く良くなかった、つまらなかったさ。」
じっと見る勇者=弟の視線の痛さに何をどうしたらいいか分からなくなった。“そんなこと言うな~!”
思わず立ち上がってしまった。
「ちがうのー!」
その叫びで、魔族の有力者達の視線が集まった。不可知結界も壊れていた。
「へ?…。魔王さま?」
間の抜けた言葉が、何人かから漏れた。
「うわー!」
“もう破れかぶれだ!”彼女は目一杯の攻撃魔法を発動した。
「ウォー!」
勇者も飛び出して、次々に魔族達を殺していった。あっと言う間に、広間は魔族の死体と血でいっぱいになった。
「姉さん…。」
「違うのよ。親が勝っ手に決めたことなのよ。仕方なく…。だって進がいないから悪いのよ…。だから違うんだってばー!」
すがりつくようにして、弁解にもならない弁解を続けようとする姉=魔王の手を握り、
「そんなこと気にしていないよ。魔王だもん、僕とは事情が違うくらい分かるよ。姉さんは姉さんだよ、全く僕は気にしていないよ。姉さんは、僕が大好きな姉さんだよ。」
そう言って抱きしめた。彼女は幸せそうに身を任せていた。
“姉さんは、本当にブラコンなんだから。”“進はシスコンで困っちゃうわ。”2人で、しばし、相手の責任にしながら、幸せに酔っていたが、
「姉さん。これからどうしようか?」
その言葉に、姉が我に返った。
「すぐに…、そうだ、あの服を着て。血がついてるけど、我慢して。」
親衛隊員の死体から、剥ぎ取り身につける。その場で裸になる姉を見て、“転生してもいい身体をしている。”と思わずつばを呑み込んだ。“いかん。そんなことを考えている場合ではないんだぞ!”急いで、姉に習う。
「着たけど、どうするんだい?」
「風の谷の魔王に襲撃されたと叫びながら逃げるのよ。」
「風の谷の魔王って?」
「私達…こいつらが対立している部族の魔王よ。」
大体の意図が分かったので、それに従った。叫びながら走り、城の外に出て、それから全力で走った。飛んだほうがいいが、魔力を感知されなくないし、目だつ。
「あれで少しくらいは、混乱が大きくなってくれるわ。」
風の谷の魔王達にとっては、はた迷惑なことだったろうが。
「どうせ混乱を見て、すぐ攻めてくるわよ。少しくらい痛い目にあわせないと。」
それから、姉は魔王城内の自分の秘密倉庫に行って、必要と思われるものを取ってきた。魔王城を脱出すると、弟の荷物と馬をおいている場所に行った。馬も荷物もあったが、余計な2人がいた。
「僕の荷物を如何するつもりだい?2人揃って、僕の匂いを嗅ぎたいと言うわけではなさそうだけど?」
その言葉に2人は、固まった。そして、ゆっくりこちらを見た。猫耳の美少女は、恐怖に真っ青になって震えながら、
「へ…。死んだはず…。」
男の方は、後ろに手を持っていった。猫耳の男である。20だい半ばくらいだったはずである。“こいつとできていたのか、最初からかな?。”そう思うと、心当たりが幾つも頭の中に浮かび上ってきた。
「あんたも趣味が悪いわよね。こんな、こ汚い猫を相手にするなんて。」
その言葉に、猫耳女が怒りで真っ赤になった時、猫耳男の腕が動いた。彼の手には短剣があったのだが、それは地に落ちた。
「分かっていたはずだよ、勇者の力がどんなものか。」
血を噴き出して彼は倒れた。それに、猫耳女はすがりついて泣き始めた。それもすぐに終わった。
「うるさいのは嫌いよ。」
魔剣が、彼女の脳天から突き刺されて、即死だった。
「こんなに貰っていて、まだ欲しがるなんて、馬鹿なんだから。」
哀れむように彼は、彼らの懐から金貨の袋を取り上げて言った。
「死体が残っていては困るでしょう?灰にしておくわね。」
高温の炎に包まれて、2人の体はあっという間に灰になり、風で散っていった。
「姉さんの方は、両親とかはいいの?」
「両親はもういないし、あれだけクーデターまがいのことをした幹部連中を殺したから、私の一族を粛清する力のある奴は、いないでしょう。それに、そっちはどうだっていいし。」
そんなやり取りをしたのは、弟の両親の様子を見に行ってからしばらくしてからだった。秘かに国に帰ってみると、勇者は魔王を相打ちで倒したということ、その喪に服すようにとの布告も出されていた。死んだ以上、現王太子が彼を讃えることで人気が上がるということなのだろう。彼の両親にも年金が払われることになっていた。
「勇者様が亡くなる前に、もしものことがあれば、ご両親にこれをと、お約束していました。」
猫耳女が、勇者の両親のもとやってきて、金貨の袋を置いて、何処かに消えていった。魔王の変身した姿であった。
第一王子、王女の幽閉先にも侵入した。彼らは彼が生きていることを喜び、自分達の不幸な状況に構わず、逃げてくれるように言った。
「私達のことに巻き込ませて悪かった。本当は、栄光に包まれた人生を送るはずだったのに。こんなことになってしまって。」
美しい兄妹は、悲しそうに微笑んで見送ってくれた。
「それで、ねえ。」
「え?」
「だから、私のことはどう思っているの?」
「どうって…。」
次の瞬間、彼女は弟を押し倒した。
「もう、肉体的には姉弟じゃないのよ!魔族じゃ、臭くて嫌だと言うの!あんな、あんたを裏切った女の姿をさせて!それとも、あのクソ聖女に未練があるの?」
「何言って…。」
言い終わらないうちに唇を押し付けられた。舌が唇を押し開き、侵入して、自分の舌に絡みついてきた。“姉さん、やっぱり上手い。だって、経験者だものな。”そう思うと、あの魔族の男の顔か脳裏に浮かび、嫉妬心を感じて、反撃を試みるように、舌を絡ませ、一層唇を押しつけた。“わ!上手い!誰かとやっていたんだ、やっぱり!”何度か、唇を奪い合ったあと、弟は態勢を逆転させ、姉に覆い被さった。そして、服を脱がせ始めた。ずっと体全体を洗えなかったことが急に恥ずかしくなってきた。
「だめ、汚れているから…。」
「もう止まらないよ。姉さんが悪いんだよ。ぼくは、ずっと前から、姉さんが好きだったから、もう止められないよ!」
「え?私も好きだったのよ!」
2人はそのまま突き進んだ。何度も激しく動き、声を張り上げた後、荒い息をしながら、
「愛してる。」
「私も愛してるよ。」
“そんな、なりそめなんか、言えないわよね。”と茶をすすりながら思った。その表情に、優越感を感じさせる微笑が浮かび、4人をさらに苛立たせた。
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