第2話 浮気はさせません!
4人からの手紙を見たのは、2人が疲労困憊で居城にたどり着いた時だった。獅子の魔王の軍の侵入があり、今までにない大軍での侵攻に、度々撃退したものの、消耗も大きく、消耗戦の様相を帯びてきたため、意を決して、2人で、精鋭を率いて、獅子の魔王の拠点を急襲した。こういうことは、勇者時代から慣れていたので、相手方が予想して待ち構えていたものの、その裏をかいて、獅子の魔王と親衛隊との一騎討ち?にもちこんだ。こちらの思い通りのシナリオになったとはいえ、相手も強く、紙一重というほどではなかったが、紙三重程度の勝利だった、予想通りではあったが。その後、総崩れにならない可能性もあったが、幸いにも、総崩れになってくれた。しかし、ふたりとも疲れ切っていた。
将兵と共に、城に帰還し、戦勝祝いを部下達のために開いたが、すぐに二人して、その場から姿を消していた。
「ねえ、久しぶりにゆ~っくり、可愛がって~。」
抱きつきながら、甘えてくる魔王=姉に苦笑いをしながら、
「姉さん。勝利直後に抱きついてきて、ちゃんとやったじゃないか。乗り込む前日も、またがってきて、絶対勝とうねと言って上で動いて声を出しまくっていたじゃないか。僕も、すぐにその気になったけど。」
「あれは~、あんたがその気になったのであって…とにかく部屋で、久しぶりにゆっくりね!」
わかってはいたが、そこまで言わせたかった彼は、すぐに頷いて、彼女をお姫様抱っこで抱き上げた。
「コホン!」
わざとらしい咳払いをしたのは、息子だった。疲れている所を、先に帰し、戦勝祝いの準備をさせていた。まあ、留守番をしていた娘が準備の大半はしていたのだが。その娘も、彼の隣に立っていた。
「お楽しみの前に申し訳ありませんが。」
「?」
息子の真剣そうな顔を見て、2人も真顔になった。
「まずこれを見て下さい。」
娘が、羊皮紙の手紙を四通、父に渡した。
「誰~かな~?」
抱っこされながら、器用に覗き込みながら、父を睨みつける母の姿を見て躊躇ったが、
「4人の勇者から、それぞれ。全て女の勇者です。」
「フ~ン。」
魔王=姉=妻の疑うような眼差しに慌てて、彼女を降ろして、2通を渡し、
「分業しようか。」
そして、大急ぎで封を開いた。
「デートのお誘いしら?おもてになること、元勇者様?」
皮肉っぽい表情で見る妻に、
「仕事の相談と、書いてあるじゃないか。」
4人とも以前からの付き合いである。もちろん、恋人達なんかではない。彼女達を助けて、各地の魔獣や魔王退治に協力していただけである。各地に、情報収集も兼ねて旅をしていた。勇者や人間・亜人の諸国がこちらにやってこないように、情報を流し(ここサクラ地方には魔王はいない、魔族の脅威はないとか)、矛先を他の魔王などにまわすなどの情報操作などをするためでもあった。そのためにも、各地の勇者と接触することは重要だったし、彼らの旅に加わり、勇者達を助けることは信頼を得る早道だった。共に戦った勇者の数は手足の指では数えられない。彼女達もそうだった。ただ、最近、何故か女勇者ばかりが出現するためこうなっただけである。彼女達とは、それぞれ異なる場所で知り合い、共に旅をして、戦った。2人だけではない、他の男女のチームメンバーも一緒である。とはいえ、それが、ほぼ同時に呼び出しとは。
「それで行くの?」
疑わしそうに見る魔王に、
「近くの国々に来ているから行かないわけにはいかないだろう?それにこっちに来て、仕事だというのは心配だろう?勇者の仕事と言えば決まっているだろう。」
「その通りね。」
同意してくれたため、安堵したが、
「私も行くわ。」
「え?でも、魔族、魔王とばれたら…。」
「そんなこと、心配いらないわ。ようは、ばれないようにすればいいのよ。」
「でも、国政が…。」
「子供達がちゃんとやってくれるわよ。」
「…。」
「浮気はさせませんからね。」
もう絶対に考えは変えないからね、と強い意志を示す顔に、
「分かったよ。」
同意せざるを得なかった。降参した。
「でも、僕は姉さんしかみてないのに。」
「それは分かっているけどね~、愛しているからこそ心配なのよ~。」
二人は、そのまま手を握りあいながら、見つめ合いを始めた。
「はい、はい。お父様、お母様。仲良くするのは、後にして。」
「そう、そう。自分の部屋に行ってやって下さい。明日、相談しましょう。お二人の旅の支度をしておきますから。」
呆れ顔の娘と息子、あまり父母と年齢が変わらないように見える、が言った。
「分かったよ。明日。」
2人は、そのまま、自分達の部屋に入った。急いで、部屋を幾つか通り過ぎ、寝室に飛び込んだ。先を争うように服を脱ぐと、直ぐに抱き合った。
「この浮気者!浮気なんかさせないから!」
「どうして、浮気なんだよ!」
どちらともなく、唇を重ね、舌を差し入れて、相手の舌に絡ませて、唾液を飲み、流し込んだ。何度も離しては、また唇を重ねた後、ベッドに倒れ込んだ。ベッドが音をたてて軋み、喘ぎ声が上がるのは、さほど時間はかからなかった。
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