異世界転生はお断りっ!

昼神誠

異世界転生はお断り!

 俺は室津藤丸むろつふじまる

 進学校としても全国的に有名な名桜めいおう高等学校の生徒会長を務めている。

 正直、こんな面倒くせぇことしたくは無いのだがな。

 何故、嫌々でもやっているかって?

 そんなもの、将来勝ち組になるために決まっているだろ。

 年に4回ある定期テストは入学してから常に学年1位。

 これだけでも十分だと平凡な奴らは思うだろう。

 だが、単に成績が良いと言うだけでは勝ち組には程遠い。

 そのための実績作りとしての生徒会長だ。

 今日の放課後も生徒会室で下らねぇことをさせられている。

 ちっ、本当なら女子達とカラオケにでも繰り出したかったのだが。

 彼女はいるかって?

 そうだな、絶賛7股中だ。

 最高記録は高2の頃の10股だったのだが、10股はダメだ。

 身体が2つあっても足りないくらい忙しかった。

 だから、10人の中でお気に入りの女子7人を厳選し他3人はばっさり切り捨てたって訳だ。

 これで週に一度はデートをしてやれるからな。

 

「室津、ちょっと良いか?」


「はい? 何でしょう?」


 ちっ、また先公から仕事頼まれた。

 今夜は彼女その1とデートの約束があるんだよなぁ。

 さっさとこんな仕事終わらせて帰らせてもらおう。

 おっと……明日、転入生が来るのか?

 ちりりおん……ほう、女子か。

 帰国子女?

 成績はかなり優秀だな。

 ほう、母がカナダ人のハーフだと?

 こりゃいい、一度外国人と付き合ってみたいと思っていたところだ。

 顔も凄い美人だし、俺の落としテクを明日披露してみせよう。

 そうだ、今の内に明日のデートの約束はキャンセル……っと。

 くくく、生徒会長をやって良かったと本気で思ったのは今回が初だな。

 これも先公に媚び売りをしておいた賜物だな。

 後は下らない雑務を済まし、今日の仕事は終了だ。


 翌朝、登校を済ませ教室に入る。


「あっ、藤丸! おはよ――!」


「おう、知ってっか? 今日、転校生が来るみたいだぜ」


「ああ、知っている」


「んだよ、知ってるなら教えろよ? 男か? それとも女?」


 相も変わらず、何か特別なことがあると一喜一憂する奴らだ。

 だが、多感な時期なのだからそれも仕方ないのだろう。

 ん、爺臭い?

 うるせぇ、俺は股間以外は理性的なんだよ。

 自分の席でカバンを広げ、荷物を席の中に入れていく。

 こんな無駄に分厚い本まで毎日持ってこさせるとか頭腐ってんだろ?

 せめて、置き勉くらいさせてくれよ。

 毎日、重たい教科書持って登校とかダルいんだよな。

 俺の成績なら良いだろ?

 おっ、そうだ。

 生徒会長権限で成績10位までは置き勉ありにするか?

 くくく、悪くない考えだ。

 先公共に説得する内容を考えておくとしよう。


「あ……あの、室津君……」


 一人の女生徒が俺の横に立つ。

 彼女その4だ。

 名前?

 んなもん、いちいち覚えていられるか。

 名前なんかより、こいつらの趣味やスリーサイズを覚えておくことの方が大事だ。

 名前は全員平等で「お前」と呼ばせてもらっているからな。


「なんだ?」


「えっと、今日のデート……キャンセルってメールに書いてあったから、どうしてなのか貴方の口から聞いておきたいと思って」


 うぜぇ……。

 こいつもそろそろポイして他の良い感じな女子でも探すか……。


「ああ、今日はすまなかった。外せない用事が入ってな。埋め合わせはするよ。そうだな、生徒会の仕事も色々とあるから俺の方からまた連絡させてくれ」


 顔を近づけ、彼女の耳元で囁く。


「愛してるよ」


 彼女は顔を真っ赤にし、そそくさと自分の席に戻っていった。

 ふぅ、朝から面倒な事聞いてくるんじゃねぇよ。

 因みに他の女どもは別の学年やクラスだ。

 友人関係はしっかりと把握している。

 三角関係はダメだ。

 あれはいずれバレるし、修羅場の面倒臭さを中学の頃に思い知ったからな。

 あの頃は可愛ければ誰でもオッケー、俺の脳内も性欲がすべてだった。

 は、勉強?

 そんなものしなくても一位なんだよ、俺は。


 好みの女性を見つけたら、付き合う前に事前調査をみっちりと済まし、現在付き合っている女子やその友人が近くにいないかを徹底的に調べる。

 いなければ万々歳、めでたく俺と付き合えるということだ。

 いれば、どちらが可愛いか検討した上で可愛い方を優先し、もう片方は遠慮なく捨てさせてもらう。

 数人の彼女を持つというのは大変な事だ。

 だが、今回の転校生は帰国子女。

 友人はいないどころか知人も恐らくいないだろう。

 くぅ、早くHR始まらないかな?

 楽しみだぜ。


 キ――ンコ――ンカ――ンコ――ン


 チャイムが鳴った。

 みんな、席に座り始める。

 

 ガラッ


「うぉ!」


「すっげぇ……」


「可愛い……」


「髪金女子キタ―――!」


 担任と共に入って来たのは昨日、写真で見た女生徒だ。

 グラビアアイドル顔負けの容姿に男子どころか女子も思わず見入ってしまうほどの美しさ。

 

「早速だが転入生だ。この度、父の転勤に伴いこの学校に通うことになるちりりおんさんだ。散さん、自己紹介を……」


「はい……えっと、散りおんと言います。アメリカのミシガン州から来ました。日本は初めてなので分からないことだらけですが、よ……よろしくお願いします」


「帰国子女? すっげぇぇぇ!」


「マジ!?」


「先生、質問タイム下さい!」


「ウォォォ! それだ!」


 小学生か、お前等。

 ここは天下に名高い名門校だろ。

 だが、情報を得るにはちょうど良い。

 せいぜい、お前等の低知能を利用させてもらうとするか。


「質問タイム? まぁ、五分だけなら……」


「よっしゃぁぁぁ!」


「誰か彼氏がいるか聞けよ!」


「もう、丸聞こえじゃん」


「「あはははは!」」


 男子共が最初に聞くのはそれだろうな。

 予想通りだ。

 ま、いるかいないかは後でじっくり調べる必要があるがな。


「え? 彼氏? えっと、えっと……いません」


「うぉぉぉ! 誰か告れ!」


「まだ早いだろ」


「あっしからも――。散さんはハーフ?」


「は、はい。パパが日本人でママがカナダ人です」


 ほう、父親が日本人で海外で生活していたと言う事は、それなりの仕事をしているんだろうな。

 いいぞ、もっと情報を引き出せ。


「俺も! 好きな食べ物は何ですか?」


「お前、小学生かよ!」


「「あはははは」」


「あっ、お寿司が大好きです!」


「じゃぁ、今度俺とシースー行く?」


「てめぇ、何デートに誘ってるんだよ!」


「「あははは」」


「はい! 良いですよ」


「「え?」」


「マジで?」


「お寿司好きなので! 今度、連れて行ってください」


「「うぉぉぉ! 俺達も付いて行くぜ!」」


「ちょっと、男子! 私達も誘いなさいよね」


「てめぇら、俺と散さんが二人で行くんだよ!」


 なんて、アホなやり取りだ。

 だが、アメリカ育ちだからか?

 内気なように見えて、意外とオープンな性格のようだ。

 質問タイムの五分は馬鹿なやり取りのせいであっという間に終わってしまった。

 引き出せた情報は両親の事と好物だけか。

 低能な猿共め、使えん奴らだ。


「それじゃ、散さんの席は室津君の後ろに」


「はい」


 彼女がこっちにやって来る。

 近くで見ると本当に美人だ。

 何としても手に入れてやらんとな。

 

「よろしくね」


「ああ、こちらこそ」


 適当な挨拶を交わし、先生の話が続く。


「え――、既に知っていると思うが定期テストが一週間後に控えている。君たちは高校三年生だ……」


 既に周知の連絡事項ばかり。

 テスト対策?

 するまでも無い。

 

「散さんも入学テストを受けたばかりだが例外ではない。頑張りたまえ」


「はい」


 ほう、こいつもか。

 ご苦労な事だ。

 ……いや、待てよ。

 これは使える。

 テスト勉強、生徒会室、二人きり……いいぞ。

 これだ。

 まだ決まった訳では無いが、これはいけるかもしれん。


「前の席の室津は常に学年一位で生徒会長だ。分からないことがあったら彼に聞くと良い」


「え、一位? 凄いです!」


 ナイスだ、先生。

 昨日、本来なら教員がするような仕事を手伝ってやっただけの事はあるってか?


「では、これでHRを終わる」


 終わると同時にみんなが寄って集って、彼女の下に歩み寄る。

 俺は席に座ったまま、身体を横にし、その輪の中に入る。

 まずは情報収集だ。

 さて、低能共を利用させてもらうとするか。


「ねぇねぇ、ミシガン州ってどんなところ?」


「そうですねぇ……」


「俺、知ってるぜ! 五大湖の近くだろ」


「五大湖?」


 そんなことも知らんのか?

 名門校の生徒がこれではこの学校も先が思いやられるな。

 

「デトロイトって都会なんだよな」


「あ、それ聞いたことある――!」


 くだらねぇ……そんなことはどうでもいいんだよ。

 ミシガン州のことは昨日の時点ですでに情報を収集している。

 俺の彼女候補になる女だ。

 事前に得ている情報の詳細は昨晩の間に済ませているのだ。

 低能共、もっと良い情報を引き出せ。


「なぁなぁ、藤丸? あいつのことも狙ってるのか?」


 俺の唯一の弱点である幼馴染の秋冬玲於あきふゆれおだ。

 幼少の頃から俺を知っているという時点でも嫌なのに、進学先も同じと言う二重苦を味わされている。

 まさか、こいつもこの高校に合格するとは夢にも思わなかったからな。

 玲於は俺の中学時代の女癖の悪さを知っている。

 そのため、玲於には高校一年の頃に近くの女子校との合コンをセッティングし、彼女ができるまで補佐してやった。

 その恩を俺に感じてくれているのは良いのだが……。


「なぁなぁ、りおんちゃん。こいつのことどう思う?」


 馬鹿野郎が!

 こうやって余計な世話をしてくるせいで、逃した女が何人もいるんだ。


「一位って凄いと思いました!」


「「あはは、それな――!」」


 ふぅ、この女も素がこうなのか分からないが、まだまだ下調べをしなければ。


「でも……」


「「でも?」」


「室津くんには勉強を教えてもらいたいです!」


 なっ……!?

 だが、みんなの前で俺から口を開くことはできない。

 それはこの後の展開が読めているからな。

 

「んじゃ、一週間後にテストだし、いつものところで勉強会でもすっか!?」


「「賛成!」」


 ほらな、まぁ良い。

 テストまで一週間もある。

 それまでに生徒会室に連れ込めれば……くくく、俺のものとなる。


「でも、藤丸は今日も生徒会の仕事があるんだよな?」


「ああ、俺のことは気にしなくていいよ。散さんもこれからよろしく」


「こちらこそ――」


 一限目が始まる。

 後ろの席に絶世の美女がいるというだけで、みんなの視線がこちら側に向いてくる。

 彼女その4も俺のことをじっと見つめている。

 そうだな……散と付き合うことになった場合、同じクラスに二人の彼女がいることは俺にとって動きにくくなる。

 次に捨てるのはあいつだな。

 テスト後にでも、別れを告げて捨ててやろう。


 二限目、三限目とその後も散の情報収集に全力を出す。

 四限目が終わる頃になると、初期段階での友達ができ、散も例に漏れず女子たちの輪の中に入る。

 そうなると俺を含む男どもはなかなか声を掛け辛くなる。

 これも想定通り。

 くくく、良い感じだ。

 

「じゃ、食堂に行こう」


「りおも後でおいでよ!」


「うん、先に行っておいて」


 あだ名がりお?

 「ん」くらい付けていても同じだろうが。

 それにしても、一緒に飯を食う約束をしていたのは知っているが、散が教室前で友達と離れどこかへ行く。

 先公に呼び出されでもしたのか?

 まぁ、良い……俺も生徒会室で弁当でも食うとしよう。

 今日は友人と飯を食う約束もしていない。

 飯を食いながら生徒会の仕事を済ませたいからだ。

 これも全部7股のおかげで、放課後に時間を有効に使いたいためだからな。

 生徒会室で一人寂しく飯を食いながら仕事を片付けているときだった。


 コンコン


 こんな昼時に誰だ?

 俺は忙しいし、そもそも一人で飯を食っているところなんて見られたくないから無視しておくか。


「あれ? 誰もいないのかなぁ?」


 この声は……散!?

 どうしたのだろうか?

 だが、二人きりになれるチャンスだ。

 まだまだ、情報収集が足りていないがこの女だけは是が非でも手に入れたい。

 急いで弁当を片付け机の中に入れる。

 

「ああ、開いているよ」


「あっ、いたんだ――。失礼しま――す」


「どうしたんだ?」


「えっとですね――、その……あの……」


 俺を探していたのか?

 散が友人と離れたとき、俺は生徒会室へ向かう途中だった。

 生徒会室にたどり着けずに迷っていた?

 友人と来れば良いだけだ。

 だとすれば、一人になる口実を作って生徒会室に来たのか?

 どちらにしても、俺としては好都合だ。

 しかし、身体をくねくねさせるな。

 誘ってんのか?

 

「どうした、散?」


「えっと、変なことを聞きます! 室津くんは邪眼の持ち主なのですか!?」


「は?」

 

 邪眼?

 邪眼ってアニメや漫画で出てくるあれか?

 なんなんだ、こいつは?

 まさか、ヲタクなのか?

 

「あっ……これは聞いてダメなやつだったかも? 今のは忘れてください」


「あはは、なかなか面白いことを言うな。邪眼ってなんだ?」


「えっと……目を見てもいいですか?」

 

 散が俺の顔に近付き、目をまじまじと見つめる。

 んほぉ……いい匂いだ。

 

「やっぱり……邪眼だ。ついに見つけた」


 小さい声でまた邪眼を口にする。

 俺にも聞こえているぞ。


「室津くん、一つお願いしたいことがあるのですが……」


 今度は頼み事か?

 くくく、これは丁度良い。

 こいつと接点を持つ良い口実になる。


「頼み事?」


「はい! その……言いにくいことなんですけど……」


「ん、言ってみ」


 こんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 どんな頼み事かわからんが、所詮は高校生だ。

 大した内容では無いだろう。


「えっと……セイントリアのために死んでください!」


「はっ?」


 死んでくれ?

 突然、何を言い出すのだ?

 まさか、あれか?

 サイコパスなのか?

 

「冗談だよな?」


「あっ……そうです! ごめんなさい、言い間違えました!」


 海外で暮らしていたのだ。

 日本語は流暢だが単語の意味をそれほど理解できていないといったところだろう。

 だが、何をどうしたら死んでくれってことになるのかわからん。

 それほど危険な頼み事なのか?


 キ――ンコ――ン


 ちっ、昼休み終了の予鈴か。


「室津くん、今日の放課後……空いていますか?」


 これは頼み事に関する相談で付き合って欲しいというわけか?

 ……まだ、どんな女なのか探りを入れたいし単純な男だと思われるのも癪に障る。

 時間を空け夕暮れにしよう。


「ああ、放課後と言っても18時以降で良ければ空いているぞ」


「はい! それで良いです! あっ、連絡先交換していいですか?」


「じゃ、生徒会の仕事が終わったら連絡する」


「楽しみに待っていますね!」


 んほぉぉぉ!

 まさか、こんなに早く連絡先を交換できるとは。

 こりゃ、今夜が楽し……いや、それは流石に無いか?


 そいて、五限・六限と過ぎ放課後に生徒会室で仕事をさっさと済ませる。


「会長、今日はやけに気合入っていますね? 何かあったんすか?」


「また、彼女とデートなんじゃないの?」


「お前ら、くだらんこと言ってないでさっさと済ませるぞ」


「「はぁい」」

 

 黙々と仕事を済ませた後、スマホを触りながら校門を出る。

 どうやら散は一度家に帰ったようだ。

 だが、この機会だ。

 彼女の家の近くの喫茶店で待ち合わせにするか。

 思ったより遠い場所に住んでいるのだな?

 通学に二時間ほどかかる場所は朝が大変だ。

 ま、これほど遠い場所だと知り合いに会うことも少ないし、ますます彼女候補に近付いたな。

 俺が降りる駅と同じ方向なのが救いだ。


 だが、性格がなぁ……掴みどころのない奴だよな。

 ヲタク程度なら特に構わないが、サイコパスは流石に遠慮願いたい。

 惚れたから殺しましたなんてことになったら割に合わんぞ。


 帰宅のラッシュ時間帯のため電車の中ですし詰め状態になりながらも、彼女と待ち合わせに指定した喫茶店へ向かう。


 カランカラン


「いらっしゃいませ――」


「あっ、室津くんこっちですぅ!」


 私服になっていて、一瞬誰だか分からなかった。

 周りの人もあまりの美しさに目を奪われるようだ。

 付き合うとしたらデート場所の厳選もかなり注意しないといけないな。

 同じ学校の生徒と鉢合わせしないような場所もいくつか候補はある。

 

「遅くなってすまなかったな? その、門限は良いのか? そろそろ20時になってしまうが……」


「別に構いませんよ――。親も帰りは遅いですし」


「かなり忙しい親御さんなのか?」


「……まぁ、そうですね」


 彼女が窓の外を見ながら答える。

 ま、両親が帰ってこないなら門限も関係ないか?


「それより、室津くん。お願い事なんですけど……」


「死ぬこと以外なら手伝ってやらんこともない」


「そうですね……死ぬこととは違うから大丈夫ですよね?」


 死ぬこととは違う?

 やはり、危険な頼み事なのか?

 トラブルに巻き込まれるような仕事でも却下だぞ。

 彼女が続けて口に出す。


「室津くんの邪眼は色欲なんです。昔からモテたでしょうね」


「えっ……ま、まぁな? だが、邪眼ってなんだ?」


 何を頼みたいのか、さっぱり分からん。

 邪眼とやらが頼み事に関係しているのか?

 いや、もしかしてヲタク特有の設定?

 こういう時はどう返事をすれば良いのかよく分からんぞ。


「聞いた所によると今は7人の女の子と付き合っているみたいですね」


「えっ……」


 なっ……なんで、そんなことを知っている?

 こいつとは初対面だ。

 いや、初対面では無くとも俺と彼女たちの関係を知っているのは玲於以外にはいない。

 

「家に帰ってから使い魔に聞きました。女の子泣かせなんですね。中には酷い振られ方をされて自死した子もいるみたいだし……さすが、色欲の邪眼ですね」


「な……何を言っているんだ? 俺には何のことだが……」


「少し歩きませんか?」


 くそっ、訳が分からん。

 俺が振っただけで自殺した女がいる?

 まさか、行方不明になった昔の女のことか?

 あいつが自死した!?

 いや、それよりも、どうして散がそんなことを知っているのか追求する必要がある。

 こいつは危険だ。

 7股のことがクラスに知られたら、すぐに学校中に広まり……ちっ、考えたくも無い。

 喫茶店を出て閑静な住宅街の中を歩く。

 とりあえず情報収集だ。

 こいつが何故、俺さえも知り得ないことを知っているのか問いただす必要がある。

 

「な、なぁ……お前は何故そんなことを知っているんだ?」


「室津くんは異世界の存在を信じますか?」


「異世界? パラレルワールドみたいなものか? そういや、最近のアニメや小説はそんなのが多いらしいな? ま、現実的に考えると証明するには時間がかかるだろう。よって俺は無いと考えている。それよりも俺の悪い噂でも耳にしたのか?」


「小説やアニメで異世界に生まれ変わるのに交通事故ってよく考えましたよね――」


 話がまるで噛み合わない。

 いや、これははぐらかされているだけなのか?

 今は散の話に合わせて、俺の話に誘導していくのが最善策だな。


「俺も詳しくは知らないが、あれだろ? トラックに引かれて転生とか」


「そうですぅ。交通事故のせいにしてしまえば、異世界送りもバレませんよね――」


 住宅街から少しずつ外れ、海岸道路の近くに来る。

 砂浜で話すつもりか?

 海岸沿いの道路もこの時間にはほとんど車は走っていない。

 遠くから、一台のトラックが来るのは視えているが今渡れば問題はない。


「渡るぞ」


 ギュッ


 俺の制服の袖を掴み、道路を横切るのを遮られてしまう。

 トラックはもう近くまで来ている。

 そして、次の瞬間……。

 

 ドンッ


「えっ……」


 散が俺の身体をトラックの前に突き出す。

 嘘……だろ!?

 なんてことをしやがる!


 ブブゥ!

 ギュルルル!


 トラックが急ブレーキをかける音が聞こえるが、制動距離からして間に合わない。

 こいつ、笑っている?

 俺は死ぬ……のか!?

 まさか、頼み事は本当に死ぬことだったのか?

 ふざけるな!


「トラックに轢かれて交通事故……うん、何もおかしなことはないですね。監視カメラの範囲外。指紋も残らぬよう手袋ははめてますよ。でも、こんなので警察を騙せます? ま、いっか。室津くん、異世界ではゴブリンのメスとして生まれ変わり沢山子供を作ってくださいね。滅び間近なセイントリアのために」


 意味が分からねぇぞ!

 このサイコパスがぁぁぁ!


 ガァァァァン


「なんてこった! やっちまった! おい、あんた……あれ? 誰か居たような?」


 ………………。


「……はい、今そちらに送りました。はい……はい……了解しています。ふふっ、異世界転生完了っと……」

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