第4話 喫茶店

案内された席は窓側で、

茜の座った席からは先ほどまで自分たちが居た場所が良く見えた。

少し前のバタバタを思い出して気恥ずかしくなり、チラと前に座った環を見たが、

当の環は嬉しそうにメニューを吟味していた。



「つまり、ノーマルとハイグレードのどちらを買ったら良いのか聞きたかったって事ね?」


美味しそうにフルーツパフェを頬張りながら、環は何度も首を縦に振っていた。


「そうなの。調べてみたら余計に分からなくなっちゃって。ハイグレードだとなんか映像がきれいなんでしょ?」


注文時、寒い外から来たのに即決でパフェを頼んだ環を茜は呆然と見ていたが、

食べている姿を見ていると、なんだかパフェの冷たさが自分に襲いかかってきた気がしてくる。

手を伸ばしてカップの温もりを確かめ、茜はゆっくりとコーヒーを啜った。


「確かにきれいだけど、環の部屋のテレビって4K対応?」

「ん?ウチで4Kなのはリビングにあるテレビだけ。わたしの部屋のは対応してないよ」


茜の思っていた通りの返答がきた。


圧倒的な映像美!革新的なゲーム画像!と、満を持してハイグレードはその様な謳い文句で発表されたが、実際には4Kテレビに出力しないとそれ単体では能力を発揮できないというのがネックとなり、マニア向けな機体となってしまった。

ただ、4Kテレビと組み合わせた場合、その映像は圧倒的なポテンシャルを持っていると明記しておく。


「なら、無理してハイグレードを買う必要は無いよ。確かに映像はきれいだけど、あくまで4Kに対応してるテレビと組み合わせた場合だから。テレビが対応していないなら宝の持ち腐れ」


確かに!とでも言いたそうな、感嘆の表情を浮かべる環。


「ほんとだ!そこ忘れてたよ」

「でしょ?多分そうじゃないかと思ったよ。と言うわけで、買うのはノーマルに決定ね」


ちなみに・・と茜は前置きし。


「PCでプレイするって選択肢は無いのよね?」

「ちょっと考えたんだけど、流石にパソコンを買うには予算が足りないしね。それに、今の所使い途もないから」

「ん。了解」


茜はPCとラフステでのFLHのプレイ環境の違いなども説明するつもりだったが、

現状の環では混乱する要素が多くなると考え、今回はスルーする事にした。


「でね。年明けに買いに行きたいんだけど・・・・茜ちゃんも一緒に来てくれない、かな?」


照れくさそうにモジモジと話す環、茜はコーヒーを啜りながら。


「良いよ。どうせ5日まではこっちに居るつもりだし」


やった!と手を合わせ、喜ぶ環。

こういう姿を見ると、まだまだ子供のような気がしてくる。


「なら、2日にお願いします。元旦はさすがにお互い出づらいしね」

「了解、予定空けておくよ」


その後、お互いの年末年始の予定を確認し、二人は喫茶店を後にした。


暖かい店内にいたせいか、冬の空気が一層身に染みる。

ブルッと身体を震わせて手を突っ込んだポケットの中で何かが当たる感触がして、

茜はそれを引っ張り出した。


「一通り買い出しも終わったし、後はこれ引いて帰ろうか」


そう言った茜の手には、ふくびき券が握られていた。

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