第5話 抽選と因縁
福引会場は商店街の中ほどにある
看板には大きな文字で「抽選会場」と書かれ、至る所に紅白の飾り付けが施されており、年末の賑わいに花を添えている。
ただ、あまりに広げ過ぎたせいで店への入り口が極端に狭くなっていた。毎度の事だが、これで良いのだろうか?と茜は心配になる。
紅白の幕に隠れて分からなくなっているが、ウインドウディスプレイがあった場所の前には長机が設置され、その上には年季の入った抽選機が置かれていた。
机の後ろにスタッフが立ち、さらにその後ろの棚にはテレビやロボット掃除機、自転車、洗剤、トイレットペーパー等などが所狭しと収められている。
毎年恒例だが、いかにも抽選会場!といった仕上がりに、設営した人物のこだわりが見て取れる。
棚の横には大型冷蔵庫があり、恐らくあれが今年の目玉なのだろう。
景品の中にはリボンが付いたものがあり、それが当たったかどうかの目安となる。
さすがに大晦日なのでリボンが目立つが、冷蔵庫には貼られていない。
「茜ちゃん、あれ」
そう言って環が指さした先には等賞の書かれた立て看板があり、案の定1等の冷蔵庫はまだ残っている。
狙いはあれだな、うちの冷蔵庫も年季入ってるし・・そう考えた茜だったが、1等の上に書かれた「特等」の文字に目が行った。
「特等?あんなのあったっけ?」
「2年前から始まったんだけどね、何が商品なのか出るまで分からないのよ」
「なにそれ?良いの出るの?」
食い入るように特等の文字を睨みつける茜。
「去年はグアム旅行ペア、一昨年は花の都パリ旅行ペアよ」
不意に後ろから掛けられた声に二人は振り返る。
そこには真っ赤な法被を纏った、ふくよかな女性が立っていた。
「来たね、環ちゃん。茜ちゃんも久し振り」
「お久し振りです、典子おばさん」
声を掛けてきたのは敷島電機社長夫人、敷島典子だった。
社長の忠雄が商店街の会長を務めている為、こういった行事には欠かさず出てくる名物おばさんだ。
実は忠雄より人望があり、商店街の皆からは影の会長と言われている。
「・・・お疲れ様です、典子おばさん。今年も盛況ですね」
「お陰様で。でも今年は大晦日まで1等と特等が出ないんでね、おかしいと思ってたのよ」
申し訳なさそうな環と、目を爛々と輝かせる典子。
二人の間には異様な緊張感があった。
「いつ来るか、いつ来るかと思ってたら、大晦日に来るなんて大した役者だよ」
にやりと笑う典子。
その様子を見た茜は環の袖を引っ張り、小声で尋ねた。
「環、まだ続いてたのか?」
「うん、まだずっと」
申し訳なさそうに環が答え、正面に立つ典子に目をやる。
それを合図と受け取ったのか、典子はビシッ!と環を指差し。
「さあ!福引クイーンの環ちゃん、今年も勝負だよ!」
その掛け声とともに、後ろのスタッフが一斉に鐘を鳴らしたのであった。
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