第3話 勘違い

「うん、私。自分のパソコンもゲーム機も持って無いの」


迂闊うかつだった。

元々ゲームに興味が無かった環だ、家にゲーム機がある訳がない。

テンションが上って基本的なことを忘れていた。

そうなると・・・・茜は思考の沼に沈んでいった。


「・・・・・・・・」


黙り込んで考える姿を見て、長考モードに入ったな、と環は思った。

普段は即決な茜だが、こうなるとひたすら長い。


その茜は、現在脳内シミュレーションの真っ只中にあった。


環はゲームをプレイしたいが自由に使えるPCもゲーム機もない。

と、なると。環境から整えなくてはならない。

一番手っ取り早いのは、自分が所有するラフステーション(ラフステ)のセカンド機を貸す事だが、最近ローディングに時間がかかったりと調子が悪い。

とは言え、購入を勧めるのも気が引ける。

安くなったとは言え、ノーマルなラフステは3万弱、ハイグレードなら4万弱だ。

一時的な興味でプレイを始めるにしては投資額が高すぎるだろう。


「あのね、茜ちゃん」


腕組みして考え込む茜に環は声を掛けるが、その声は届かない。


環の家にもPCはある、多分、今でも家族共有だろう。

そこにいきなりゲームをダウンロードして、長時間占拠する。

ダメだダメだ。おばさん達に迷惑をかけてまでゲームをさせる事はできない。

それにPCでFLHをする場合はスペック差が如実に出る。

普段使いのPCでもプレイはできるが、快適さとは程遠い環境だろう。

どうせプレイするなら、やっぱり快適にプレイしてもらいたい。


考えを巡らせるように、急にかぶりを振る茜。

その様子に驚いた環だが、意を決したように手を伸ばし茜の体を揺さぶった。


「茜ちゃん!」


その拍子に我に返り、茜は驚いたように環の顔を見上げた。


「あのね。わたし買おうと思ってるの」


環の発言の意図を飲み込めず、キョトンとする茜。


「買う?何を?」

「ゲーム機!」

「ゲーム機?」

「そう、私ねラフステーションを買おうと思ってるの」


買う?環が?ラフステーション?・・・・段々と意識が覚醒していくにつれ、

茜は今までの思考全てが自分の勇み足だった事に気づいた。


「うわぁぁぁ、ごめん!」


掌を合わせ、茜はひたすら謝った。


「てっきりプレイするために何が必要で、どうやって手に入れるか?って相談だと思っちゃって」

「ごめんね、わたしの聞き方が不味かったよね」

「いやいや、そんな事はない。ひとえにワタシの勘違いが原因」


ワタシが、いやわたしが。と、そんなやり取りを繰り返していたが、

商店街の往来で行われていたやり取りであったため、少なからずギャラリーができている事に二人は気づいた。


「・・・・場所、移動しようか」

「そうだね」


二人はそそくさとその場を後にし、少し離れた喫茶店の扉を開いた。









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