第2話 環と茜
「マジ!?」
環から発せられた信じられない言葉を、茜は頭の中で
今まで一切、ゲームに対して興味を持たなかった環が、
自分からプレイしたいなどと言う事は初めてなのだ。
そして、これはチャンスだ!と茜は考えていた。
上手くいけば、環にゲームの面白さを伝えられるかもしれない。
だがそれと同時に、
あれだけゲームに興味を示さなかった環に、プレイしたいとまで言わせた動機が気になっていた。
「環、何があったの?」
唐突な質問だが、他に聞きようがない。
問われた環は少し恥ずかしそうな顔をしたが、意を決したように。
「茜ちゃんの配信が格好良くて・・・私もやってみたいかな・・って」
イチ配信者として飛び上がるほど嬉しかった。
自分の配信を観て、そのゲームに興味を持ってもらえた事が単純に嬉しい。
自分が楽しい事はもちろんだが、その楽しさを観ている人に伝えられたら、
そう茜は常々考えながらプレイし、配信をしてきたからだ。
すなわち、それが茜の配信におけるモチベーション、原動力なのだ。
ましてや、それがゲームに興味の無かった環に響いたのだ。
その嬉しさは例え様がない程だった。
「ありがとう。めっちゃ嬉しい!」
「えへへ」
嬉し泣きしそうになるのをグッと堪え、茜は続けた。
「ちなみに、環は何の配信観てくれたの?」
環は少し考えこみ。
「んっとね、あの桃太郎とか金太郎がバンバン撃ち合うやつ」
「フォークロア・ヒーローズか」
「そう!それ」
FOLKLORE HEROES[FLH](フォークロア・ヒーローズ)は国産のバトルロイヤルFPSで、海外産から火が点いた同ジャンルに、日本のゲーム会社である『スタジオ・オトギ』が参入し、後発の強みを生かした丁寧な作りとゲームバランスの良さで人気急上昇中のタイトルである。
桃太郎や金太郎と言った、日本人に馴染みの深い昔話の主人公を大胆にアレンジしたキャラクターも人気の要因で、そのキャラクター性は日本人のみならず、外国人プレイヤーをも魅了していた。
「まさか、環がFLHに興味持つとはなぁ」
おっとりとしている環が意外なジャンルに喰いついた事に、茜は驚いていた。
FLHはPvP、すなわち対人戦のゲームなので、やる事と言ったら人を倒すことである。
銃で撃ち、時には殴る・蹴るといった荒々しい場面のオンパレードだ。
「あれ、環的に大丈夫なの?」
「あれってゲームのこと?全然平気だよ、実際に暴力振るうのは問題だけど。あれはゲームで、しかもスポーツみたいなものでしょ?」
環は保守的なイメージだったが、案外考え方が柔和だったことを改めて知った。
ならば話は早い、茜は一気に本丸に攻め入ることにした。
「ならさ」
「それでね!」
今度は環が食い気味に話を振ってきた。
驚いた茜は、手振りで話しを続けるよう促す。
「あのゲームやるには、どうしたら良いかな?」
あのゲームとは、もちろんFLHであろう。
茜は考え込む。
現在FLHがプレイできるプラットフォームはPCと家庭用ゲーム機であるラフステーション。
ゲーム自体は無料でダウンロードできるから敷居は低い。
環が始めるのは丁度良いかも知れない・・・・そう考えた茜だったが、ハッとした顔で環を見る。
「うん、私。自分のパソコンもゲーム機も持って無いの」
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