すくらっち がーる

ろくろだ まさはる

第1話 Scratch


「あのたまきが大学生なんて、私も歳を取るワケだわ」


 商店街を並んで歩きながら、倉石くらいし あかねはボヤいていた。

 隣を歩く依知川いちかわ たまきとは実家が近所で、

 母親同士が幼馴染という事もあり、家族ぐるみで昔から仲が良かった。

 環の母親に頼まれ、高校受験の際は家庭教師を引き受けた程だ。


 晴れて環は志望校に合格し、茜は就職の為その春に上京した。


「そんなこと言って、まだ3年だよ?」

「もう3年だって」


 こうやって二人で歩くのも久し振りになる。

 今日は大晦日。

 商店街は年末の慌ただしさの真っただ中で活気に満ち溢れている。

 行き交う人々はどことなく忙しそうに歩を進めていた。


 環は身長が高く、茜は低い。

 環は大人しく、茜は騒がしい。

 二人で並んで歩くと、背の高い姉が騒がしい妹を連れていると思われたものだ。


 二人はあれやこれやと昔話に花を咲かせていたが、

 いつしか話題はお互いの近況報告になっていた。


「観てますよ、茜ちゃんのゲーム配信」


 唐突に発せられた環からの意外な言葉に、茜は目をしばたたかせた。


「え!?嘘?」


 茜は趣味が高じて一年ほど前から配信サイトでゲーム実況を始めていた。

 得意とするのはいわゆるシューティング系で、

 矢継ぎ早な実況をしながら、小気味よく相手を倒す配信でジワジワと人気が出てきていた。


「なんで?あんたゲームとか興味なかったじゃん」


 事実、環の家にはゲーム機は無く、

 茜の家で遊んでいる時もテレビゲームには興味を示さなかった。

 いくら勧めても手を出さなかったのである。


 その環が自分のゲーム実況を観ている。


「年末にきて、今年1番の衝撃だわ」


 天を仰ぐ茜を見て、環はクスクスと笑っていた。


「たまたまなんだけどね。友達に実況とか好きな子がいて、

 いくつか見せられてたら、その中に茜ちゃんの実況があったの」


 ビックリしたよ、と環はまた笑った。


「でも、私顔出しとかしてないのに?」

「しゃべり方聞けば分かるよ。

 それに、配信みたいなことやってるのは晶子しょうこおばさんに聞いてたし」


 リーク先が母親という更なる衝撃を受けつつ


「・・・・マジか」


 絞り出した茜の呟きには、二重の意味が込められていた。


「それに、アカネのクライシスちゃんねるって名前。

 アカネはそのままで、倉石をもじってクライシスでしょ?分かるよ」

「良いんだよ、酔った勢いで付けちゃったんだから。それに結構気に入ってんの」


 そうは言いながらも、自分でも安直につけたかな?と思っていたタイトルをズバリ指摘され、茜は気恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

 環に気づかれないよう俯く。


「それでね」

「まだなんかあんの!?」


 更なる追い打ちをかけてきた環に、茜は食い気味に反応した。


「いや・・・・やっぱり、良い」

「もう良いよ。ここまできたんだから全部言って、お願い」


 今度は環が俯き、照れくさそうにしていた。


「あのね」

「何?」

「私もやってみたいなぁ・・・って思って」

「・・・?・・・何を?」

「茜ちゃんがやってたゲーム」


 5分ほど前に受けた今年一番目の衝撃が、一瞬の内に更新された瞬間だった。


「マジ?」










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