聖騎士デュソーの旅(8)

 なぜ勇者との冒険に加わったのか。当初はデュソーも若く有望な騎士の一人に過ぎなかった。この大陸を魔の手から救いたい気持ちはもちろんあったが、軍に身を置くのではなく、勇者とともに冒険がしたかったのだ。そうして幾人もの志願者に剣技で勝利し、聖王より重要な役目を授かることができた。


 デュソーは活力に満ちあふれた体をガロンのほうに向け、ロミと目配せした。言葉などかわさなくても意図は伝わった。


 ロミは再び光の矢をガロンに向けて構える。ガロンは放たれてからでは避けきれないことを悟り、瞬間移動でデュソーの右横に回り込んできた。闘志を全身にまとったデュソーにガロンの放った黒色の連弾の1つが当たったが、大きな衝撃を発して消える。デュソーが右手で剣をふるうとガロンはとっさに左にける。デュソーが届かない範囲まで離れたガロンに光の矢が突き刺さった。


「ぐわあ!」


 念思ではなく口から声を発したガロンの姿が消えて、すぐに右側に姿が現れる。そこをデュソーは逃さなかった。消えてから現れる距離が一定であることが分かっていたからだ。広くはない空間の中で、ロミとデュソーは互いの距離感を掴み、ガロンの瞬間移動先を共有していた。デュソーの手甲が深々とガロンの体を突き刺す。


「グハッ」


 ガロンはよろめきながら後ずさり、デュソーの脳内に「じゃ、邪魔が入ったな。つ、次は我が暗黒の槍で刺殺して、やる」と言い残して消滅した。絶命させるには至らなかったが、アークデーモンといえども、完全回復にはしばらくかかるだろう。ただ、デモンロードのグレンガに事が知れれば宣戦布告と捉えられることは必定だ。早急に備えていく必要がある。


「ロミ、改めて感謝する」

「ああ、間に合ってよかった」

「しかし、なぜここに?」


 長髪のエルフは直前の激戦など無かったような涼しい顔を浮かべてデュソーに微笑みかけた。


「パンネル殿が我々のもとにやってきてな」

「またパンネル殿か・・・しかし、森にロック鳥は降り立てないと」

「ああ、上空から飛び降りたと言っていた」

「なんと」

「それで急いで来たのは確かだ。しかし、実は我が主人であるグリアノール様も魔王の力が復活していることを感じ取っていたので、ガルロー山を調査するようにお命じになった矢先だったので、すぐに来られたということもあった」


 デュソーは間髪入れずに今回の旅の目的を告げた。新たな勇者カノンを補佐するために手を貸してほしいと。


「すまないが、それはできない。この一帯もかなり危険になってきている。魔族が力を取り戻せば、大陸で真っ先に狙われるのはエルフの里だろう」


 ロミの言葉には普段クールなエルフが滅多に見せない落胆が入り混じっていた。デュソーに同行し、新しい勇者の旅に加わりたい気持ちに疑いはないのだろう。


「代わりと言ってばなんだが、リアンに協力をお願いしようかと思う」

「リアン・・・あの変わり者の侍女か。確かに彼女であれば戦力として心強いが、グリアノール様を守護する任務があるのではないか」

「ああ、それに関してはイリアがいれば問題ない。そもそもリアンはエルフの里にじっとしていることができない性格だ。それで女王様も諜報活動ちょうほうかつどうという役割を与えて自由行動を許しているのだ」

「しかし、勇者一行に加わると行動が制限されはしまいか」

「ああ。彼女の性格からして四六時中、行動をともにすることは嫌うだろうな。諜報活動ちょうほうかつどうを辞める訳ではないしな。だからこそ、彼女なりのやり方で補佐してもらうさ」


 デュソーはその意図を完全には理解できなかったが、ロミを引き連れることができない以上、その提案をありがたく飲むことにした。思案するデュソーに「それと」とロミが語りかける。


「これは聞いた話なんだが・・・」


 デュソーはロミから聞いた情報から今後の行動を整理する。まずは聖徒シャイロンに戻り、カノンと合流して聖王に謁見する。正式な勇者として認められたのち、もう一人、魔王討伐まおうとうばつに必要な仲間を加えるために、を目指す。実はこのガルロー山から遠くなかったが、まずシャイロンに戻ることが必定だ。そこから改めて目指すしかない。


「ところでロミよ」

「なんだ」

「これからパンネル殿と合流するため、山頂に戻らねばならん。しかし、私一人であそこに戻るには体力的に心許ないのだが・・・」

「ああ、同行すれば良いのだな。承知した」

「すまない」


 うなずき合うと、デュソーとロミは山頂へ進行を始めた。

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