聖騎士デュソーの旅(6)

 以前の旅でロアードラゴンには何度か遭遇そうぐうしたが、勇者シャインや射術士ロミというデュソーよりも攻撃力、機動力に優れた仲間がいたので、デュソーは敵の攻撃を引き付けることが多かった。ソーサーの風魔法やノアルの聖魔法によるエンチャントの支援も無い状況では闘気を駆使していくしかない。


 デュソーは右手持ちの剣に意識を集中させて白色の闘気をまとわせた。そして鳴き竜の第二撃を左側にかわしながら鋭く剣を振るう。ヤイバが鱗ごと巨体を切り裂く確かな感触があった。


「ギュワアアアアア!!!!」


 戦いに慣れていない常人なら、この鳴き声だけで気絶してしまう絶叫をデュソーは身心滅却しんしんめっきゃくにより耐え抜き、手甲てっこうをはめた左手を加えた両腕の力で第二撃目を喰らわせた。ドラゴンは泣き叫びながらデュソーに全速力で体当たりに来る。一発でも喰らえば全身の骨が砕けてしまうであろう破壊力を感じながらも、次第に研ぎ澄まされるデュソーはギリギリのタイミングでかわしながら、さらなるダメージを与えた。


 少しずつ弱らせているが致命的なダメージを与えるには心臓を貫くか、太い首を落とさなければ難しい。しかし、研ぎ澄まされていく感覚と反比例するように激しい疲労感がデュソーに危機感をつのらせる。次に仕留めなければ・・・デュソーは右手の剣を構えながら手甲をはめた左手に闘気を込めた。そして今度はデュソーから突っ込んでいく。


「うおおおおおお!!1」

「グアアアアア!!!!」


 ドラゴンの鋭い爪を右手の剣でいなしながら、懐に飛び込んで闘気を帯びた左の手甲をドラゴンの右胸に突き刺す。ロアードラゴンの心臓が右側にあると教えてくれたのは、今は亡きソーサーだった。鳴き竜がその場にバタッと倒れると巨体は霧散むさんし、六本の爪が残された。鳴き竜の爪は強力な矢の素材として重宝される。良い手土産になるだろうと疲れた体に鞭打むちうって爪を拾うデュソーは背後に殺気を感じた。


 振り返るとそこには不敵な笑みを浮かべた悪魔が地面から少し体を浮かせて直立していた。


「お前は・・・」と思わず声を発したデュソーだが、すぐに意識を切り替えて集中を高めた。そうしなければ危険な相手だと知っているからだ。


「騎士よ、久しぶりだな。随分ずいぶんと年老いたようだが」


 その悪魔は笑みを浮かべた口を動かすことなく、デュソーの頭の中に語りかけてきた。


ガロンだったか・・・グレンガというデーモンロードの第一の部下であり、暗黒の槍を操る武力はグレンガをしのぐ。今はその槍をたずさえていないようだが、現在のデュソーには過ぎた強敵であり、命の危機にあることを悟る。それと同時にデーモンがこのような場所で活動していることが魔王の復活あるいは再臨を物語っていた。


「騎士よ、お前はここで何をしている」

「知ったことか」


 デュソーはすでに体力的な限界に近付いていた。闘気は魔法ではない。体内の魔素ではなく体力と気力を集中させることで起こすものであり、自分の身を削るのと引き換えにパワーを増強したり、普通の武器では不可能な攻撃もできる。若い時のデュソーは極限まで心身を鍛え上げることで、闘気の最大値と持続力をおそらく大陸で1、2を争うレベルに達していたが・・・

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