聖騎士デュソーの旅(7)

 闘気にかけては聖剣や勇者の印が無ければ勇者シャインをも上回ることは他でもないシャインが認めていた。しかし、今のデュソーにそれはかなわない。その代わり闘気の使い所を見極めるための知識と経験がある。


 デュソーは剣に闘気を集中させた。ギリギリまでガロンを引き付けて、一刀両断にかける。そのためには接近戦に持ち込む必要がある。幸い、空間はそこまで広くないが、デュソーから襲いかかっても回避されてしまうだろう。


「無駄話はいい。とっととかかってこい堕落だらくしたレッサーデーモン」

「レッサーデーモンとは聞き捨てならないな。だが挑発してるのなら無駄だ。私はグレンガ様のように余計なプライドを持ち合わせてはいない。要は敵の殺戮さつりくができれば良いのだ」


 デュソーは剣を引き付けると、目の前で振るった。一瞬空間が切り取られ、ガロンが三歩分ほど近付く、その瞬間をデュソーは逃さず、両足に力を込めて一気に前進、間合いに入ったガロンを一刀両断した。しかし、「フフフ」という声と共に、右横に無傷のガロンが出現した。デュソーは極限きょくげんまで達した疲労で右膝を地面についた。


「さすがだなデュソーよ。しかし、やはり今のお前に私を倒すことは不可能だ」

「くっ」

「私の心に哀れみという余計なものは存在しない。しかし、勇者の所在と交換で命は見逃してやっても良い」


 魔王を筆頭とした魔族の欠点の1つがを感知できないことだった。だからこそ勇者一行は圧倒的な戦力差に屈することなく潜伏せんぷくと決行を繰り返しながら、魔王のふところまで到達することができるのだ。もっとも勇者が正式に認められれば、そのことは世間的に広まり、おおよその旅程や足跡は魔王側にも把握できるようになる。そのことが理解できないアークデーモンではないはずだ。


「なぜ、そう欲する?」

「お前に教える筋合いはない。どうするのだ?」

「教えるわけがないだろう・・・聖騎士デュソーの名にかけて」


 正直なところ、もう片膝を付いて体勢を保っているのも限界なほど、デュソーは消耗しょうもうしていた。それでも目の前の敵を倒せなければ生き残れない」


 それでもやるしかない。デュソーが残るすべての体力を集中させてガロンに向き合おうとした時だった。ビュッつと鋭い音を立てて光の矢がガロンを貫く。


「ん・・・ロミか」

「ああ、再会を喜んでいるひまはないぞデュソー。援護えんごする」


 美しい銀髪をなびかせるエルフのロミは左奥に再現したガロンに二本の矢を速射した。光の矢を放つことはロミにも限られているため、おそらく牽制けんせいだろう。すぐに意図を察したデュソーは片膝を付いた体勢から回転で後ろに下がり、同時に腰袋に入れあったポーションの口を指で割り、一気にのどの奥まで流し込んだ。みるみる体力が戻るのを感じる。


「ロミ、感謝する」


 できれば使いたくなかったパンネルのポーションだったが、ガルロー山に降り立った時には想定していなかった強敵の出現、しかも魔王軍の中でも戦闘力に長けた敵を撃つ好機を逃すわけにはいかない。そして頼もしい仲間ロミの出現だ。デュソーは長年ぶりに心をおどらせていた。そうか、自分に最も足りなかったのは筋力でも実戦感覚でもない。この高揚感だ。

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