聖騎士デュソーの旅(5)

 ガルロー山の中にある螺旋らせんの道を慎重に降りていくデュソー。全盛期ならば速度を上げても周りの状況が良くわかるし、少しぐらい足場が崩れても人蹴りで対面の壁に達するぐらいの跳躍力はある。


 もちろん年齢的な衰えも否めないが、それ以上に昼夜のほとんどを野外で過ごしてきた時に比べて筋力や感覚が落ちているのは明らかだった。それはいくら安全な場所で剣を振り回していても決して身に付かないものだ。


 そう思うと教え子であるカノンのことも心配に思えてくる。成長期に多少危ない目にわせてでも野外訓練をさせておくべきだったのではないか。しかし、今カノンのことを考えてもしょうがない。ここを乗り越えて、少しでも聖騎士デュソーの力を取り戻して、勇者になったカノンを迎えよう。


 何度か襲いかかってきたバードマンは先ほどのフライングキラーほどの強さ、危険性はない。ただし、数体の群れで来るため、1体1体に集中できないわずらわしさがあった。それでも、いきなりそこそこの強敵を相手にしたことは大いに生きた。途中、内側の螺旋階段から外に出る道があり、ガルロー山の外側を通ってしばらく降ると、再び内部への入り口がある。


 その入り口の横にある茂みの中にヒーラーマッシュと呼ばれるキノコを発見した。中下級の敵であるバードマン相手にも体力の消費を感じていたデュソーにはありがたかった。本来キノコは毒性のものも多く、素人がうかつに手を出すと最悪死ぬこともある。しかし、デュソーは勇者シャインとの旅路でエルフのロミから植物に関する多くのことを学び、主だったキノコの選別ぐらいはできるようになっていた。


 かつての壮大な旅に追憶ついおくを辿りながら、よもや再び訪れると思っていなかった大冒険に不安よりも期待感の方がいてしまうのは平穏よりも冒険を求めてしまう性なのだろうか。「よし」と声に出して気持ちを入れ直すと、デュソーは山の内部に再び入っていった。


 山頂からの狭い螺旋階段と異なり、かなり幅広の道がなだらかなカーブを描いて下に向かう。それは大きな敵との遭遇そうぐうを予感させる。その予想が的中したことを認識するのに半刻もかからなかった。


「グワアアアアア!!!!」


 まだ姿は見えなかったが、中央の溝から聞こえる叫び声が侵入者に対する威嚇いかくを表している。デュソーには聞き覚えがあった。ロアードラゴン・・・竜族では最下級であるものの、全体の中で上級に位置付けられる危険なモンスターだ。


 間もなく穴の中から浮上してきた鳴き竜はデュソーを睨み付けるように眼差しを向けると、両翼を数回羽ばたかせ、そこからデュソーの方に滑空かっくうしてきた。巨体のプレスをまともに受けたら体が耐えきれない。デュソーは間合いを見極めて右横にステップし、剣を振り抜いた。ガキーンと激しい金属音を立てて、鱗に阻まれたことを痛感させる。


 特殊な金属を鍛えて作られたデュソーの剣でなければ折れていたかもしれない。やはり体力の消耗は承知で闘気をまとわなければ倒すことは難しいようだ。

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