第8話 魔法の原理
この世界には、風、火、水、土、音、幻、聖の七つの曜日がある。
これは魔法の
本日は聖曜日。聖都シャイロンの周辺は晴れ渡り、青空が広がっている。こんな日なら徒歩での長距離移動も大して苦にはならない。
カノンとミラは魔術師ガルフを探すため、ここから一日半をかけてグラダへ向かう予定だ。グラダには冒険者ギルドもあるとのことなので、ついでに盗賊の仲間もそこで探す予定だ。途中どこかで野営をすることになるが、一箇所を除けば平和な道が続くとのことで心配はいらなさそうだった。
結局、カノンはほぼ二人分の荷物を持たされている。何か頼み事をされる度に
道すがら二人はさまざまなことを話した。
おしゃべりなミラは、生い立ちから好きな食べ物、
彼女は自分のことをひと通り話し終えると、今度はカノンを質問攻めにした。もちろん魔王の記憶を持っていることは伏せたし、この先も知らせることはないだろう。どのみち、彼女は魔王の器を取り戻した後に殺さなければならない存在だ。
「チェリーパイ、今度作ってあげますね! 私はアップルパイのほうが好きですけど」
「なら、アップルパイでいい。りんごも
「神に
いや、聖女ともあろう者がそんな砕けた感じで神に
カノンはミラのペースに乗せられまいと、
「・・・カノンには優しいお父さんもお母さんもいて、ちょっとだけ
先ほどまでの能天気さとはかけ離れた声のトーンに
彼女に両親と過ごした記憶はなく、物心つく頃にはすでにシャイロンの
「(たかが人間ひとりの命、俺が気にする必要なくないか?)」
カノンは
下を向いていたカノンの視界に、ぬうっと何かが入り込んでくる。
「うわっつ?!」
「また考え事ですか〜?」
カノンの顔を
勢いよく後ろにのけぞったカノンを、彼女はクスクスと笑いながらからかった。
もう三刻ほど休まず歩いただろうかというところで、カノンはミラに
街道の脇に広がる草地に腰を下ろし、簡単な魔法で火を起こして、『聖女の
「カノン、魔法で火を起こせるんですね!」
「まあな。ただ、独学だからこれくらいが精々だ」
この世界に生きるたいていの人間は、風火水土の
もっとも、カノンにはもともと火の魔素しか流れていないので、習得したところで失うものは何もなかった。それも、
なぜそれだけ火魔法に適性のあるカノンが魔法を教えられなかったのか。それは、神聖国家アストラールが定めた勇者を育成する際の規則にあった。
勇者の資格を持つ者は、成長期に魔法を覚えることで聖剣の能力を引き出す力が弱まってしまうという言い伝えがある。ただし、これはあくまで言い伝えに過ぎず、何の
幼少時の教育係だったドランは、カノンがちょっと火を起こしただけできつく
一方で、後任のデュソーは堅苦しく見えても
そもそも、ランスに火魔法の専門書など存在しない。魔術研究所も書物院もない。村では生活に必要な魔法しか使われなかったため、見られる魔法といえば、カノンが使っていたような簡単な火魔法がほとんどだった。他の属性では、農地の管理を任されていた水魔法の使い手が村人の田畑を巡回し、水を
カノンは、いずれは火魔法を本格的に学びたいと幼い頃から考えていた。
シャインも勇者として認められてから風魔法を習得し、筋力だけでは不可能な高さまで
「(グラダなら火の魔術書もありそうだな)」
勇者として認められれば、魔術書へのアクセスも容易になるだろう。カノンが持つ魔素の量なら、上級魔法も使えるようになるはずだ。
「ごちそうさまでした! はぁ〜美味しかった〜」
ハーブティーを飲み終えたらしいミラが、顔を
「よし、行くか」
カノンも残りのお茶を飲み干し、荷物をまとめて立ち上がる。
再び歩を進めようとした矢先、ミラが何やらもぞもぞと体を動かしていた。
「あ、あの、カノン。ちょっと・・・」
「ん?」
「ちょっと・・・」
「あ?」
「その・・・」
カノンにも察しはついた。しかし、いつ誰が襲ってくるとも分からないこの状況で、どこか適当なところまで離れて済ませろとは言えない。ミラは自衛の訓練こそしているものの、外での実戦経験は皆無だという。
彼はちょうど自分の目線より少し高い岩を見つけると、その反対側に回って声を掛けた。
「
「あの・・・」
「なんだ?」
「耳、
「・・・すまん」
カノンはそっと両手を耳に当てた。
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