第5話 幻魔法の記憶
ミラはハッピーハーブティーを二つ頼んでから、魔術師ガルフの居場所をライアンに尋ねた。
「ガルフ? あー、名前は聞いたことある。アストラールでも指折りの魔術師という評判だ。ただ、聖都っていうくらいだからなァ、シャイロンにいるのはほとんどが聖魔法の使い手だぞ? 他の属性の使い手は、大半が第二の都市グラダに
「あ、たしかに! それでは、そのガルフもグラダにいると?」
ライアンがポットに
「それは分からない。ただ、グラダには風火水土の自然魔法はもちろん、
「幻魔法っ?!」
「幻魔法・・・」
二人してライアンの台詞を食ってしまう。しかし、その声色は対照的だった。
いつにも増して弾んだ調子のミラは、カウンターに身を乗り出して目を輝かせている。聖魔法と並ぶ
一方のカノンは、魔術師ソーサーが戦いのさなかに放った最大魔法を思い出し、苦虫を
その後は出されたハーブティーを飲みながら、グラダまでの道のりをライアンに
馬を使えば半日の距離だが、あいにく馬車を借りられるほどの路銀は渡されていない。他の手段としてはキャラバンに同行する
「グラダまで歩くか」
「そうですね」
ミラは、着替えと旅に必要な道具を宿舎まで取りに戻りたいと申し出た。彼女は女性神官向けの共同宿舎で
その間にカノンは武器屋へと向かう。ダンジョンへ挑むにあたって最低限の装備は必要だと考え、ハードレザーのチュニックと大刀を調達した。
『天使の
一刻ぶりに見る彼女は、どんな長旅をするつもりかと聞きたくなるほどの大荷物を抱えていた。デュソーがいたなら、今すぐ置いて来いと追い返されたことだろう。
「よいしょ、よいしょっと」
「それ、絶対重いだろ・・・」
「だ、大丈夫ですっ!」
気丈に振る
たしかに少なくとも一晩は野営をすることになるが、ただ寝る分には地面に敷くシートと保温用のブランケットがあれば十分である。テントを張るにしたって適当な岩を背にロープを通して、二本のポールを立て、幕をかければちょっとした風雨は
しかし、なんとミラはひと通りの
「二日もかからねーんだから、パンとチーズでも買って
「でも〜、夜は冷えますからシチューとか作ったほうがいいかなって思いまして」
ミラは大きな
うぐ、と言葉に
「はぁ、デュソーに魔法のカバン的なやつ借りとけばよかったな・・・しょうがない。
カノンはミラのリュックを奪い、おもむろに
先ほどの倍以上に重くなったカバンを持ち上げると、
「なんか腕の中に大きなたまごがあるみたいですね〜。
「え? あ、ああ・・・」
そっと
「あ、また赤くなった」
鈴を転がすような声で笑うミラ。やはり悪い気はしなかった。
「(先が思いやられるな)」
カノンはそうは思いながらも、この旅が少し楽しみになってきていることは
そんなカノンを
「ノアル・・・」
ひときわ強くなる頭痛にカノンは呻き声を漏らした。
「カノン?」
「よしよし、大丈夫。大丈夫ですよ〜」
「・・・すまない」
カノンはなんとか言葉を返す。子供扱いされている気がしなくもないが、今は
「(目的は・・・魔王の器を取り戻すこと。余計なことは何も考えなくていい。勇者を
人間として生きる選択肢など万に一つもない。その現実を改めて突きつけられたカノンなのであった。
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