カノン成長編6 辺境伯ラミア
ランスを発って丸一日が経過した。
朝から辺境伯のお
この地を治めるラミア伯は在位二十年目。善良な性格で知られ、公的行事以外ではきらびやかな衣服を
ローアン辺境伯領は西側をアストラールと隣接し、北部には海が広がっている。一方で南東部は大森林と山岳に囲まれた地形から、魔物の侵攻を受けやすい。ゆえに、
身分を重視するガルガリアには珍しく、この地の領主は
滅多に他人を認めないカノンが一目置く存在、それがラミアだった。
カノンの誕生以降、彼がランスの村を訪れたのは二度。強くカノンの印象に残っているのはその二回目だ。
魔王ゲラの記憶を取り戻すよりも前、ただの
正直死んだと思ったその時、ラミアが静かに右手をあげて側近たちの動きを制したのだった。彼らの動きが一瞬で止まる。そして、その場で下馬してカノンに近寄ると、
「カノン殿よ、部下の非礼を
と
勇者であるということは、アストラール聖王とガルガリア国王を除き、いかなる公人からも対等に扱われるということ。よって、カノンは幼少よりその
しかし、この時だけはぎこちないながらも応えてしまったのだった。いや、身体がとっさに反応したという方が正しいか。下手な魔族よりもよほど迫力があり、あえて人間から配下を選ぶならばラミアをおいて他にないと考えるほどだ。
屋敷へ到着すると、伯爵はすでに準備が整っているとのことだった。
デュソーは玄関口で待ち構えていた
「ご、ご無沙汰しておりますラミア伯」
赤い
ラミアはカノンに対しては同様のポーズで応え、デュソーには直立したまま右手をあげた。姿勢を戻すことを許す合図だ。
そこからいくらかの型通りの問答が済むと、二人はラミアから一泊の滞在を勧められ、それぞれの客室に案内された。
その日の晩、ラミアはデュソーを自らの
何を
積もる話は山のようにあったが、話題の中心はやはりカノンのことだった。
「前任が
デュソーは
「我が人生で勇者を見たのはシャイン
「ええ。そうでなければ聖王から直々の命で七年もランスに腰を据え、カノンを育ててきた意味がない」
ラミアは腕組みして、しばし押し黙った後に口を開いた。
「デュソー、新たな勇者を再び導いてゆく存在として、やはりそなた以上の適任はいない。人生において二度も勇者に付き従い、補助するなど聞いたことはないが。少なくとも人間の寿命では、な」
もちろんシャインを失った
しかし、聖王が別の者に任を命ずる可能性も否定はできない。
「とにかくカノンを連れてアストラールへ行き、聖王に
「そうか。ランスとここまでの街道は我が軍の
「は、ありがたき」
デュソーはラミア伯の提案を受け入れると、その配慮に短く礼を述べた。
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