第48話 ノーとは言えない
はらちゃんとはそのまま部屋で一晩飲み明かした。
最後はクロスカウンターを決めて、頬を腫らして帰宅の途に着いた。
翌日、二日酔いでトイレとズッ友となって会社は休んだ。
意識が朦朧とする中、スマホが小刻みに二度震えた。
こんな気分の悪い日に、連絡してくる奴は一体誰なんだ?
もしかしてジジイからの復縁の願い出か?それはさすがにないか。
泥が纏わり付いているような体を無理矢理動かし、スマホの画面を覗き込む。
通知の内容を確認すると、会社からの呼び出しだった。
そういえば欠勤の連絡してなかった・・・・・・
『口から過去の後悔と懺悔が生まれそうなので休みます』
これで送信っと。上司ならこれで分かってくれる。
二日酔いで休むのは過去にもいっぱいあったしね。役得。
これで今日の仕事は終わったわー。
あとはいかにこの不快な気分を抑えるかだ。
ひたすら水を飲んでアルコールを薄める作業に入る。
水で胃がパンパンになった頃、再びスマホのバイブが作動した。
今回は二度だけではなく、周期的に震え続けた。
電話で呼び出されているようである。
さっき気持ち悪いって言ったばかりなのに、電話で喋らせる鬼畜が世の中には居るもんなんだな。
このまま留守電に切り替わるまで待つのも良いが、とりあえずこの出る気がない電話をいつまでも掛け続ける不届き者は一体誰なんだと気になってきたので、試しに出てみる。
「はい、なんですか。こっちは世界の終わりみたいな気分なんだから放っておいてください」
「ごめんなさい突然。急用で電話してしまいました」
電話口から聞こえてきたのは、志成の声だった。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「孝造御爺様から呼び出されているんだ、あなたと共に」
え?どういうこと?なんで志成と一緒に?
まさかこの間の温泉旅館での騒動を問題視して、孝造じいさん直々に叱責ですか?
でも場所だけ使っただけで、志成が首を突っ込んでいる話は無いはずだ。
「何故ですか?心当たりないんですが」
「とにかく来てほしい。迎えのものを手配したので、あと三分くらいで家に到着するかと」
「はあ?いやちょっと、今日二日酔いでまともに動けないんですけど」
「頼みます。では」
志成からの電話は一方的に途切れた。
よりによってなんでこんな日に・・・・・・
針が何十本も刺されたような頭の痛みと、今にも口から飛び出てきそうな胃液の応酬に苦しみながら身支度を整える。
化粧のノリもヒドいもんだし、髪も全くまとまらない。パサつきまくって毛先が遊びまくっている。
一張羅の服はクリーニングに出したまま、取りに行っていない。
辛うじて、よそ行きの服が数点。まだマシなものを選び取る。
ああ、これなら週末家から出て活動すれば良かった。
志成の前でくらい、もう少しキレイな自分を見せたい。
ジジイとの一件があって吹っ切れたのか分からないが、いつの間にかそんな心持ちになっていた。自分がそんなことを思う日が来るなんて。
着替えを終えたところで、志成が言っていた通り迎えが来た。
今日は前のように監禁されないことを祈ろう。
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屋敷に着くやいなや、謁見の間に連れて行かれた。
そこに志成と孝造じいさんが待ち構えていた。
「どうした?顔色が悪いぞ?」
「ごめんなさい。二日酔いです」
「ハッハッハ!やけ酒か」
「深くは聞かないでください」
孝造じいさんはヤケに上機嫌だ。
頭に響くからこれ以上笑わないでくれ。辛い。
「人生悩んだ時間が多い方が、良い選択を出来るというものじゃ。大いに悩め!」
「・・・・・・それで、用件は何ですか?早く横になってゆっくりしたいので」
「そう急かすでない。お前さんに取っておきの話じゃ」
そう言って孝造じいさんから直接手渡されたのは、知らない会社のサマリーレポートだった。
レポートに書かれていた会社は『癒やし空間を創る』として、インテリアから照明、空間設計などを総合プロデュースする会社のようだ。クライアントは法人のみでかなり大きな会社とも取引実績があるようだ。近年はスレスレ黒字を維持しているが伸び悩みが続いているようだ。
「というわけで、お前ら二人にこの会社を任せることにする」
「「は?」」
志成も初耳だったようだ。
「待ってください!既に自分は会社を一つ経営している身です。掛け持ちは流石に・・・・・・」
「何を言っておる?経営するのはお前じゃぞ」
そう言って指差されたのは、私であった。
いやいやいやいやいや、孝造じいさんも遂に
「待ってください。私ですか?今まで会社を経営したことなんて皆無ですよ?そう言う話でしたらお断りいたします」
「まあまあ、まずは話を聞いてくれ」
孝造じいさん曰く、志成と私の居る会社『アロマジック』と組むことで相乗効果が出ると思って買収したとのこと。癒やし空間の演出に『アロマジック』の香りが重宝しそうであり、なおかつ法人に販路を持っているので今までに無い販売相手を多く開拓出来るチャンスということだ。
とはいえ、その会社を経営するのが私というのは話が別だ。
「お前さんは『アロマジック』を開発した天才と聞いておる。本来であれば取締役にでも付けるのが普通だが、小さい規模の子会社であれば運営出来るんじゃなかろうかと思ってな。なに、不安なのは分かる。志成の『アロマジック』の子会社になるから、色々融通が効くはずじゃ。教えを乞うて自ら考え、『アロマジック』と遜色ない会社にしてみるのじゃ。そこまでしたら認めてやる」
「何を認めるんですか?実力ですか?別に認めてもらっても何の得も・・・・・・」
「志成の嫁に認めるというとるのじゃ。許嫁もおらんからちょうど探しておったら、志成が薦めてくるもんでな」
ん?聞き捨てならぬ言葉を聞いた気がする。
志成が私を嫁に薦めただって・・・・・・?
「いや、まあ、自分が知っている親しい女性って限られてますから、その場で挙げてみろと孝造爺様に言われまして、つい」
確かに志成がまともに女性と友達とかそういう関係になっているのは神か私くらいだ。他とはまともに会話したところを一度も見たことない。
私で本当に良いのか、志成さんよ。世の中にはもっと上品で才能溢れた女性はたくさん居るぞ。志成位のスペックがあれば取っ替え引っ替えだろうに。
「別に私でなくても、孝造じいさんの知り合いから素晴らしい女性なんかいくらでも紹介出来るのでは?」
「いやな、志成が珍しくお前さんの話を楽しそうにするのでな。『好いているのか』と問うたら頷きおって。全く、素直でないのも困りものじゃ。わしはきっかけは作ったからな。後は二人で好きにやれ。口を出すのはあまり好きではないのでな。ただし、結婚するのであれば高井家として相応しい実力を見せよ。それが条件だ」
志成の方を見ると、顔が林檎のように紅潮していた。
じいさんに強制告白をさせられたようなもんだ。しかも会社を婚約祝いであげるとか。スケール違い過ぎだろ。
いやまて、もっと気にするところあるだろ、私!
「志成が私のこと、好きなんですか?」
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