第41話 最高のグルメ
ホテルに帰る頃には、既に夕食の時間を迎えていた。
急いで指定の宴会場に向かう。
「ごめんなさい~遅れました」
「おそーい!もうあじめえるよ~」
はらちゃんは朝から酒を飲んで、更にこの会場でも浴びるように飲み続けていて呂律がロクに回っていない。
ハメ外し過ぎだろ、はらちゃん・・・・・・
「アタシを待たないで始めるなんて不届き者の集まりのようね」
「アンタを待っても誰も得しないでしょ。いい加減わきまえなさいよ」
「あなたね・・・・・・」
神は二の句が継げなくなり、大人しく席に着いた。
「もうすっかり扱いに慣れたみたいですね」
私と神との一連のやりとりを微笑ましく志成は見守っていたようだ。
「いや、この人がおかしいだけで、それを言ってあげてるだけだから。超親切ですよ私」
「確かに普通は無視しちゃいますよね」
「そうそう、それだけ私の人としての器が大きいという事です。あなたも世話したりしましたし」
「・・・・・・ありがとうございます」
志成はそのまま俯き黙りこんでしまった。
下らない話のやり取りはさておき、肝心の料理はというと、既に自席にセットされていた。
魚、肉、野菜それぞれの高級食材がバランス良く配分されており、贅を極めたコース料理であった。
海の幸代表選手は、マグロや伊勢エビ、アワビなどの刺身、タコやホタテをふんだんに入れた混ぜ込みご飯、そしてフカヒレの姿煮であった。
肉は牛、豚、鳥の各所名産を取りそろえている。
牛は松阪牛、飛騨牛、近江牛、豚はつがる豚、日向豚、金華豚、そして鳥は比内地鶏、名古屋コーチン、薩摩地鶏と豪華絢爛。
牛はステーキ、豚はしゃぶしゃぶ、鳥は焼き鳥串でいただく。
そして野菜も各所の名産を取り寄せ、どれも甘みや旨味が抜群で、サラダや添え物として単独でも抜群の存在感を出してくる。
箸の休む暇が無い程の旨味のラッシュに、私はすっかりパンチドランカーになってしまった。
「や、やばい・・・・・・今まで食べてきた中でダントツで一番美味い。このまま天国に連れて行かれても、もう思い残すことは無い・・・・・・さらばだみんな」
「ダメだ、美味いもの食べ過ぎて頭がおかしくなってる・・・・・・ぶふっ」
ギャル子が私の様子を見て大爆笑している。
「ダメだよギャル子。今まで良いモノ食べて来られなかったから、そういうものに免疫が無かったんだと思うよ。そっとしてあげよう。バクバクもぐもぐ」
微笑みデブがサラッと失礼な発言をして自らの食事に素早く戻る。
確かに今までこのレベルの良いモノは人生で一度も食べた事が無かったのは認めるけど。あえて口にしなくても良いだろ!私が恥ずかしいわ!
「あ~ら貧乏風情がいい気味!まずは『高級』というものがどういうものなのか、見極める目を今日で養ってちょうだいな」
「うるさい!黙りなさい!今まで高級から縁遠い人生だったんだからしょうがないでしょ」
「あ~ら?いつもの威勢はどうしたのかしら?ぐうの音も出ないのかしら?」
ぐぬぬ。
まあでも私は世間一般の常識的な生活を送って来たから、いわゆる普通が何なのかをよく知っている。
『普通』がどれほど尊いものであるか。志成も神も、家を飛び出して初めてそれが分かった事だろう。
でも少なくとも神はまだ、『普通』のありがたみは分かっていないようだ。これからアパートで生活していく内に分かっていく事だろう。
貯金が底をついて白飯すら食べられなくなって要らない革靴を煮て食べたり、畳のい草を焼いて胡椒で味付けして食べたり、レディー・○ガリスペクトで黒いビニール袋を着て街へ買い物に繰り出したりしてみれば、ようやくわかることだろう。
コンビニや飲食店から出るあの匂いは最高のグルメだって、神は知らないだろうな。
その匂いをビニール袋に入れて家で嗅いで水を飲んで空腹をしのいだ事も何度もあった。
人間は空腹の時が一番想像力が働くのだ。欠乏こそ創造の元である。
「一度一週間断食してみると良いわ。どんな食べ物でも極上の高級グルメになるから」
「そんなことしな・・・・・・でも最近体重増えたしちょっとやってみようかしら」
皆さん、今のセリフ聞きましたか?
神がついにデレた!まさか体重をそんなに気にしているなんて!
もう小枝レベルで痩せてるからこれ以上痩せたら骨皮スネ○ヘアーだよ!
でも、断食完遂してどんな聖人に生まれ変わるか、ちょっと興味がある。
「是非やってみて、感想を聞かせて。きっと体重減少以外の素晴らしい出会いが待っているはずよ」
「まるで宗教の勧誘ね・・・・・・でもそうね、何事もやってみることは良いことよね。ありがとう」
神も家を飛び出してちょっと考え方が変わった気がする。
つっけんどんなところはあんまり変わってないけど、少しずつ他人を理解しようと努めようという姿勢になり始めている。
やはり人間、殻を破った奴は強くなるってことですな。
そんなこんなで夕食は賑やかな団らんの中幕を閉じた。
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