第40話 I Love You からはじめよう
ギャル子とあまりに長い時間湯船に浸かり過ぎて、すっかり湯あたりしてしまったので、出歩くのは控えて自室で夕食まで暫く休むことにした。
夕食まではあと2時間程ある。
このままベッドで寝転んでダラダラ過ごそうか。
まどろみのなかを漂っていると、いきなりドアがノックされた。
誰だよ、こっちはゆっくり休みたいのに。空気読めない奴だな。
重たい体を起こして、ドアを開ける。
そこにはドアの枠を敷き詰める程の微笑みデブが立っていた。
「おーい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ。見ての通り湯あたりだよ」
「随分長く入ってたみたいだしね。ギャル子も辛そうだったけど『スッキリした』って言ってたよ」
「そりゃ良かった。こっちも何だか胸のつかえが取れたよ」
微笑みデブは満足そうに微笑んだ。
「そういえばジジイはどこに居るか知らない?」
「いや~見てないな」
「どこに行ったんだろう・・・・・・ありがとう」
ロビーで別れてから部屋にも入った形跡が無い。
一体どこに行ってしまったのだろうか。
「まあ、自分が良いと思う方向に進めばいいと思うよ。ギャル子が半ばプレッシャー掛けたみたいな感じだし」
そう言い残して、微笑みデブは部屋から去っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部屋で少しクールダウンも出来たので、せっかくなのでジジイ捜索も兼ねて温泉街を出歩くことにした。
既に日は傾き、街全体がオレンジ色に染まり始めていた。
やはり温泉街と言えば、温泉まんじゅう。
これを食べずして温泉に来たとは言えない。
温泉の熱で絶妙にふやけた黒糖の皮にこしあんの甘さが加わって、口の中が幸せになる。
ああ、やはりスイーツは人間が生みだした最大の発明品だと私は思う。
スイーツは食べた瞬間に人生のあらゆる汚点を洗い流してくれる。
辛かった事やムカついたことがあった時に、スイーツを食べれば全て浄化される。
もしや、スイーツは神なのか?もちろんマウンティングする方じゃ無くて、本当に救ってくれる方の。
「全く、この街には品性が無いわね」
噂をしていたら、神が降臨した。
「何また街に対してマウンティングしてるの?志成の財閥がプロデュースしたんだから文句言えないでしょ」
「アタシだったら、もっと絢爛豪華にするわ!それこそ世界のVIPに選ばれるように温泉街の道に赤絨毯を敷いて、建物も金で装飾して・・・・・・」
「風情の欠片も無いわね。そんなの温泉街に誰も求めてないから」
神は相変わらず止めどないクレームを言い続ける。
本当に何も変わらないな。
「そういえば、ジジイ見なかった?」
「そういえば・・・・・・あの射的場で見たわよ?」
「射的?ホテル飛び出してたんか・・・・・・許さん」
神は近くの建物を指差す。
昔ながらの商店街の建物にブリキの看板。
これはジジイたまらんだろうな。
「何だか昭和の古びた施設を探しているようだったから、アタシがホテルから案内してあげたらとても喜んでもらえたわ。でもあの古びた建物になんの・・・・・・」
「そそのかしたのはアンタか!」
ホテルから失踪した原因が、この場で明らかとなった。
やはり神は災厄をもたらすのだ。くわばらくわばら。
建物の中で楽しそうに射的に興じるジジイに後ろから近づく。
「ちょっと、いつまで待たせるの?」
「おうっ・・・・・・カエル、カエルがもう少しで」
「貸しなさい」
標的はタバコの箱やミニカー、フィギュアなど小物が等間隔に並べられている。
どうやらジジイは一つも射的の標的物を落とせていないようだ。
イライラしていた私は、ジジイの持っていた射的用の銃を取り上げ、的を狙い構える。
呼吸を整え、銃口を反動を考慮して少し下に向ける。
引き金を引き、軽快なコルクが弾かれる音がした後、カエルのフィギュアは為す術無く地面に落下した。
「どうよ」
「す・・・・・・すごい!そんな特技があったんだ。まるでの○太みたい」
「例えが良くない」
的を落とした景品として、ミルクキャラメル一箱をもらえた。
それを2人でホテルの帰り道、一緒に食べた。
不思議と今までのイライラは無くなり、幸せな気持ちになれた。
やっぱりスイーツは神。崇め奉れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます