第39話 風呂と人間
部屋に入るや否や、人間観察サークルの面々が突撃してきた。
「いや~誘ってくれてありがとう!」
ギャル子が私に飛びつき、抱擁を交わす。
「うぉ~別に私のチカラじゃないから~感謝するなら御曹司にして~!」
「やっぱり財閥の息子は住む世界が違うんだなって改めて思ったよ。街ごと買い上げるなんて、規模が違い過ぎて・・・・・・」
部屋のふかふかベッドに私より先にギャル子が寝転がる。
「うわ~いいわ~!ねね、早く温泉行こうよ!」
「賛成!ちょっと準備するから待ってて」
「うーっす。じゃあ露天風呂の入り口の前で集合ね」
着いて早々温泉に入って日々の喧噪から離れるというのも良いだろう。
他のはらちゃんとかジジイの動向は気になるが、まずは温泉を堪能したい。
一分一秒が惜しい。
用意していた温泉キットとホテルから貸し出してくれる浴衣を携え、現場に足を運ぶのであった。
服を脱ぎ、全てが開放された状態。
いざ、露天風呂へ・・・・・・
「うお~広ーい!景色最高!」
ギャル子が目の前に広がる光景に圧倒されている。
それもそのはず、25mプール並の広さに枯山水の庭、そしてその向こうには紅葉した山々。まるで一幅の絵画のような光景が眼前に差し出されているのである。
興奮を抑えきれないのも無理はない。
「これを見ながら時間を忘れてボーッと出来るなんて・・・・・・贅沢過ぎる」
「うぇーい」
いい歳こいて風呂が大きいのを良いことに、ギャル子はクロールで泳ぎ始めている。
「他のお客さんが来たら恥ずかしいからやめなさい」
「えーいいじゃん、二人っきりなんだから」
泳ぐ方向を急に変え、私に後ろから抱きついてきた。
「ぎゃっ!く、苦しい」
「最近ジジイとは上手くいってるの?」
なんだ、結局それが聞きたかったのか。
「ジジイは相変わらず自由人だから、飽きないよ」
「そりゃあの性格だからね。結構大変そう」
「今日も私からどんどん離れて自分の興味のある方に勝手に言っちゃうし」
「それはヒドくない?」
「そうでしょ?もうちょっと彼氏面して私のことを見てくれても良いんじゃないのって思うけど、それがジジイなんだろうなって諦めてる自分がどっかにあるんだろうな」
自分で思い返して、嘆息をついてしまった。
私自身ジジイの思いに応えて付き合い始めたのは良いものの、いざ付き合い始めるとジジイ自身がそこまで人を思いやったりするとか、甲斐性がない所に自ずと欠点に目が行くようになってしまった。
それは友人であれば無かったことかもしれないと、最近ふとしたときに思うようになってきた。
あまりに時間を持て余しているので色々なイベントや仕事に駆り出しては2人で居る時間を増やしてみたりした。
でも、それは付き合って無くても出来ることなんじゃないか?
付き合うことが、むしろ私にとって重荷になってしまっているのではないか。
そうであれば、付き合う状態ではなく元のさやである友人関係に戻した方が、2人にとってはベストな関係なんじゃないか?
そんなことを思い始めていた私に、ギャル子が優しく話しかける。
「アタシもね、微笑みデブのこと、最初はむしろ大嫌いだったのよ。どんくさいし、デブだし、汗っかきだし・・・・・・第一印象は最悪だったわ。でもね、色々話したり一緒に出掛けて行く内に、そういった欠点が愛おしくなってきたのよ。それもいつの間に。やっぱり親しくなればなるほど人の欠点って見えてきちゃうんだよね、どうしても。でもさ、人は必ず完璧じゃないんだから、それを受け入れてこそ『付き合う』っていうのが成立するんじゃないかって、最近は思うようになるくらい、アタシも成長したってわけよ」
「なにいっちょ前に語ってんだギャル子!うるさい!だまれ!」
いまだに後ろに抱きついて演説を繰り広げているギャル子を背中から風呂に堕とし、振り払った。
「ありがとう。私自身がまだギャル子より未熟な人間だったみたい」
「そんなこたない。アンタは立派にやってんじゃん。自身持ちなよ」
2人で風呂にプカプカ浮いて、湯あたりするまで満喫したのであった。
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