第35話 天の岩戸

「軟禁って・・・・・・人権は存在しないんですかね」


 誰かを捕まえて閉じ込めるのは、お金持ちの道楽でスタンダードなのか?

 私は嘆息を漏らし、その場に座り込む。


「何か言うことを聞かなかったら、お仕置きみたいな感じですね」

「貴方の時もそうでしたけど、手間がかかりますね・・・・・・」


 高井財閥と犬猿の仲になったとはいえ、家から出さないというのはいくら何でもナンセンスである。

 そもそも大の大人を家に閉じ込めるなんて、法律的にアウトだし倫理的にもどうかしている。

 

 そんな親だから、高井財閥と対立したんじゃないのか?

 あ、でも高井のじいさんも同じような感じだから、似たもの同士か。


 いずれにせよ、神の意志を尊重せずに何事も決めてしまうのはあってはならないことだ。

 

 私は、志成に神の家の場所を教えて貰い、一緒に現地へ足を運ぶことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 会社からはそれ程遠くない、閑静な高級住宅街の中に、神の家はあった。

 面積は東京ドーム2個分ほど。この立地でそれ程の土地を持っているのは、やはりドが付くほどの金持ちであることは紛れもない事実である。


 絢爛豪華な金の竜の装飾が門から庭から、更に屋敷に至るまで纏わり付く蛇のようにビッシリと敷き詰められている。

 これだけ見れば明らかに反社会的勢力の御殿である。

 そういう家業もやっているのか・・・・・・?


 どうやって屋敷に入ろうか?

 警備員は10m感覚で怪しい動きが無いか見張り続けている。

 

 警備員の目が何かに集中し、門を開けさえすれば屋敷に入れる。

 ここは私が・・・・・・


「自分が行きます」


 何も言わず、こちらの考えを察したのか、志成が私を制止し、門の前に立つ。

 そして、大声で叫び始めた。


「神最高殿!高井志成です。貴方にお話があって来ました。中に入れてはいただけないでしょうか」


 少しの静寂の後、静かに門は開かれた。


「行きましょう」


 あんな大声出せるんだ。ビックリし過ぎて心臓が飛び出るかと思った。


 やはり志成は信用されているのだ。

 私なんか神の父親を挑発するような言葉を放って一騒動起こした隙に侵入、なんてことを考えていたが、それを試すまでも無かった。

 というか、試していたら自爆で終わっていた。


 門から屋敷へ堂々と入る。

 一瞬警備員が光の速さで私に駆け寄って来たが、志成が付き添いであることを継げると、静かに身を引いた。

 何も言わなかったら、一瞬でメッタ刺しにされてたのかな。おー怖っ。


 神の父親の名は神最高というらしい。

 神は最高である。神グループの会長は最高。自画自賛である。

 きっと子供に似て超高飛車な性格なんだろうなと推察してしまう。

 

 自分の子供の名前に最高と名付けるような一族である。

 おそらく開戦直後に矢継ぎ早のマウンティング攻撃が繰り出されるに違いない。

 心理防壁をマックスにして挑もう。

 私は私。よそはよそ。関係ない話だ。


 屋敷の応接室に案内された。


 そこには広々とした空間に赤い絨毯と白地に色とりどりの宝石に彩られたテーブルと椅子、数々の骨董品コレクションが棚に所狭しと鎮座している、まさに栄華ここに極まれりといった様相だ。


 その部屋で1人、佇んでいる男が居た。


「やあ、どうも。大きくなったね志成君」

「お久しぶりです最高殿。いつ以来ですかね」

「許嫁を紹介した時以来じゃないかな。私も忙しかったもんでね」


 最高に促され、対面で着席する。

 ヤケに椅子がふかふかしている。これはもしかして、毛皮のクッション?


「それで、用件はなんだね」

「実は香奈さんのことなんですが」


 志成が開口一番で核心に触れる。


「ああ、あいつのことか。会社にも行っていないのだろう?」

「最高殿が、私の父親と言い争いになった件は知っております。それで香奈さんを家に閉じ込めるのはあまりにも・・・・・・」

「それとこれとは別だ。あいつは自分の意思で家にこもり始めたんだ」

「え?どういう事ですか?」


 てっきり最高の圧力で出社を止められたのかと思っていたが、本人の意思でそうしているとのことだ。

 その言葉が本当なら、なぜ一切連絡にも応答がないのか。


「それは、本人に直接聞いてくれ。私には話してくれないんだ。私からの連絡も一切受け付けてくれないんだ」


 最高でも孝造じいさんと喧嘩して破談になった時から、香奈と連絡がついていないという。


「分かりました。香奈さんの部屋へ案内いただけますか?」


 最高は黙って頷き、使いのものに私達を香奈の部屋へと誘導してくれるよう取り計らってくれた。


 最高曰く、直接何か言ったり圧力を掛けたということは一切していないという。

 であれば、一体何故神香奈は引きこもり女に変貌してしまったのだろうか?


 何か身勝手な理由があるに違いない。あいつのことだ。そうに決まっている。

 全く、こんな茶番に付き合わされるこっちの身にもなってくれよ・・・・・・


 いよいよ、神香奈の部屋の前に到着する。

 扉の鍵は閉まったままで、誰も開けることは出来ない。


 何とかして自力で部屋を出て貰うしかない。

 神香奈が嫌がるような言葉で、神経を逆撫でして激昂すれば、出てくるに違いない。

 逆天の岩戸作戦、発動。


「あなた志成と許嫁破棄されたんだってね。もうあなたじゃなくて私が結婚相手になって幸せにしてあげるから、あんたはお払い箱よ。なんか文句あるなら出て来なよ、この身勝手引きこもり女!!!!」


 その瞬間、扉が勢い良く開き、私は腰が抜けてしまった。


「だれが身勝手引きこもり女ですって・・・・・・?ふざけんじゃないわよ!」


 だいぶやつれた姿であったが、神香奈が姿を現した。

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