第34話 心ぴょんぴょん
素敵な休日も終わり、お仕事の日々がまた始まった。
秋葉原で再会したおやっさんが、早速オフィスにやって来た。
「おう!呼んでくれてありがとな」
「いえいえ。こちらこそ」
おやっさんは恥ずかしそうにしながら辺りを見渡す。
「それにしても、随分変わった職場だね・・・・・・」
「まあ、この会社は個性的な社員がたくさん居ることが持ち味なので」
早速おやっさんはオフィスに飾ってある『アロマジック』に興味を示し始めた。
「なんだいこれは?」
「うちの会社の看板商品の『アロマジック』です。自分好みの香りを自由自在に出すことが出来るんですよ」
「ほう?こりゃすごい」
そう呟くと、持っていたカバンの中から工具を取りだし、その場で『アロマジック』を分解し始めた。
「なるほど・・・・・・これがこうなって・・・・・・ん?これは?」
「気づきましたか?おやっさんの好きな配線です」
「こりゃたまげた・・・・・・あの時教えたことをそのまま生かしたんか。やっぱり姉ちゃんは見込んだだけのことはある」
実は『アロマジック』の一部設計については、おやっさんから以前店先で習った最適化の方法を応用している。
手前味噌ではあったが、開発が難航した際にその教えを思い出し、事なきを得ることが出来た。
「おやっさんとの日々があって、今の私があります。本当にありがとうございます」
「いやそんなこと言われちゃ、照れちゃうな」
おやっさんが顔を紅潮させて恥ずかしそうにしている。
「それで今日は、おやっさんにお願いしたいことがあります」
「なんだい?」
おやっさんを例の撮影スタジオへ招き入れる。オフィスの中にスタジオが突如現れるその光景に、目を丸くしている。
「たまげたなぁ・・・・・・こんなものが職場にあるのかい?」
「今会社の宣伝を兼ねて動画配信をやってるんですよ」
おやっさんはあまりインターネットの動向には詳しくないようで、そのまま口を開けて呆けていた。
「今はこんなので動画が撮れるのかい?時代も変わったな」
「そうですよ。この5年でめまぐるしく変化しましたよ」
私は昨晩から寝ずに考えた、次回動画の企画書をおやっさんに手渡した。
「おやっさんには、ここで『解体ショー』を行ってもらいます」
「か、解体ショー?」
「マグロみたいに機械を解体して、おやっさんの濃密解説を付けて私みたいなファンを大量に増やしたいなと」
おやっさんはその言葉に腹を抱えて笑い出した。
「オイラはアイドルじゃないんだから、ファンを増やしたところでどうしようもねえよ!握手会でもやるかい?」
「おやっさんの動画を見て、絶対『この人に仕事を任せてみたい』っていう人が現れると思うから!うちみたいな何やっているか良く分からない会社じゃなくて」
「・・・・・・まあいいか。お前さんの頼みなら、いっちょ一肌脱ぎますか」
おやっさんは、数あるレンタル衣装の中から何故かバニーガールを選び、それで出演することとなった。
その動画は「バニおじの解体ショー」として、おやっさん独特の軽快なべらんめえ口調とジンイチの宣伝効果もあり、会社動画随一の再生数を獲得するに至るのであった。
あまりの流行具合で各SNSやテレビで取り上げられまくり、会社自体の知名度が急激に上昇した。
その結果、面白い取り組みを続けるイノベーション企業として、お高くとまっている経済番組に志成が呼ばれるなんてこともあった。私も取材対象になってちゃっかり出演してしまった。顔面蒼白の超緊張顔だったけど。
一方、どこぞのワイドショーでは『老人虐待!若者の辱めにされている』などと批判するコメンテーターも居たが、その次の回にその人を呼んで自らの意思でバニーガールを着ていることを説明すると、その人も一緒にバニーガールの格好でウキウキで出演していた。
動画コンテンツが軌道に乗り始める一方で、最初の動画の立役者であった神の姿がここ最近見当たらなくなっていた。
ある日、そのことが気になって志成に尋ねた。
「最近、神が会社に降臨しなくなりましたね。何かあったんですか?」
志成は少し沈黙した後、言葉を発し始めた。
「実は許嫁ではなくなったんです」
遂に志成の堪忍袋の緒が切れてしまったか。よくぞ今まで耐え忍んだ志成。褒め称えてあげよう。
とはいえ仲が悪いにしても、ここで破談にするメリットが感じられない。ましてや志成のことだからそこまで思い切った事はそれ程出来ないはずだ。きっと。
「え?そんなに仲が悪かったんですか?」
「いや、どちらかというと、父親同士で仲違いがあって、許嫁の話が破談になったんですよ」
「嘘・・・・・・お似合いの2人だったのに」
「神とはそこそこ上手くやれていたとは思います。まあ、時々突っ走ってしまうところがあって、その対処には手を焼いてましたけどね」
「でも、会社に出てこないのはおかしくないですか?副社長ですよね?」
「今、神は家から出られなくなっているんだ。親の言いつけでね」
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