第32話 偶然ってあるもんだね
「『OneGene』って・・・・・・名前ダサっ」
「うるさい!その場で付けたからそんなに突っ込まないで」
私とジンイチのやりとりを、はらちゃんが目を丸くして私達を見つめる。
「あれ?2人って知り合いだったの?」
「知り合いもなにも、姉弟だよ」
「うそ!マジで?!」
「自分もここに来た時に会って、まさかと思ったけど・・・・・・まさか我が弟がインフルエンサーになってるとは」
思わずジンイチの背中をバンバンと叩いてしまう。
ジンイチは怪訝な目で私を見てくる。
良いじゃん、久しぶりに会ったんだし、これくらい。
再会トークはこれくらいにして、早速本題を話すために近くの喫茶店『ベローチェ』に入る。
店内はちょうど昼下がりということもあり、かなり賑やかである。
テーブル席を確保して、カウンターでエスプレッソを注文する。
ジンイチはコーヒーが苦手なので、ルイボスミントティーを頼んでいた。
はらちゃんはというと、ホットブレンドコーヒーとバジルチキンサンドと軽食モードだった。
「ご飯食べて無かったから、ちょうどいいかなって」
「私もなんか頼もうかな」
「姉さん苺ジャムサンドあるよ」
ジンイチがメニュー表を指差す。
まるで子供のように、嬉しそうに私に勧めてくる。
変わらないな、こういうところは。
せっかく可愛い弟が勧めてくれたんだ。乗っかってあげなきゃ。
「ほんと?じゃあそれ食べようかな」
「あれ?二日酔いで気持ち悪いんじゃなかったの?」
「いいの!甘い物食べると元気になるの」
頼んだものはすぐに手渡され、そのままトレイに乗せて席につく。
「早速見たよ動画!凄い面白いと思うよ。特に神のキャラは最高だね」
「まあ神は傍から見れば面白い人に映りそうだしね」
「あれは炎上リスクもあるけど、ギリギリの線で姉さんが制御していて、バラエティとして上手く成立させていると思うよ。さすが姉さん!」
「・・・・・・ありがとう」
他人の前で身内に褒められると、とても恥ずかしい。
「実際めちゃくちゃ面白かったよ。ジワジワとだけど毎日再生回数が増え始めてるからね」
はらちゃんが会社のチャンネルのページを見せてくれた。
確かに少しずつだけど、増加のペースが早くなり始めている。
「SNSでも『何だこの上から美女』『女王様で草』『踏んでください女王様』って結構この動画に関するコメントも増え始めてるよ」
「おお、これはすごい。やっぱ神は人気だな」
するとジンイチが持っていたリュックからドヤ顔でMacを取り出し、何かのデータが記載された図を見せてきた。
「これは各SNSや動画の動向をまとめたグラフ。他のケースと比較すると流行期の兆候が既に出始めているけど、この時期から少しずつ伸びが鈍化していくのも実際ある」
「飽きられる、ってことね」
「面白い社員とか商品の紹介も良いけれど、それだけだと話題性に欠けてこの鈍化パターンに入る可能性が高い。そこで・・・・・・」
ジンイチはドヤ顔でMacを操作し、何かの画像を表示させた。
「もちろん自分のチャンネルでも宣伝はするんだけど、僕の提携先の事務所のYoutuberとコラボして、そっちのコミュニティの人にも、この会社チャンネルの面白さを知ってもらうってのも良いんじゃないかなって思って」
「・・・・・・迷惑系じゃないよね?」
「迷惑系はまず提携すら断られるから大丈夫だって。まあ、普通にチャンネルを運営してても、再生数が伸び悩んで炎上で稼ごうってなり始めちゃう場合もあるけどね」
ジンイチが運営している『OneGeneチャンネル』は間も無く登録者数も100万人に到達する勢いである。
提携している事務所『DAMMIT』には登録者数100万人超えのチャンネルを保有している人達がゴロゴロと所属している。
さすがにジャンルが違いすぎるところとは組めないが、それぞれの利点を生かして面白いコンテンツを作り出せれば、更に多くの人に見てもらえる可能性は上がる。
「ちょっとどういう風に進めるかは要検討だけど、この話は是非やっていきたいな。可愛い弟からの話だし」
「ありがとう!早速事務所に連絡入れて、契約内容をまとめるように言っておくね」
コラボするに当たってはやはりお金がある程度発生するという。
ジンイチについては、自分はノーギャラでやるといってくれたが、さすがにそれはプロとしてやっているジンイチに失礼だ。心ばかりは渡すことは予め伝えておいた。
とりあえず、出演料をどんな形式で取られるかにもよりそうだ。
出演した際の払いきりになるのか、それとも出演した動画広告収益の按分になるのか。
聞いた感じは前者になるようだが、金額感や流行の確度が高いのなら後者で話が付くかも知れない。
うちの会社は濃いキャラばっかりだから、このコラボを機にYoutuberになって各々稼ぎ始めちゃうかもな。
まあ、それはそれでうちの会社らしいけど。
その日は契約内容を来週早々には出す所まで決まって、お開きとなった。
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