第31話 ゆうべはおたのしみでしたね
結局2人で飲み歩いて、そのあと記憶を無くした。
気づけば私の家でジジイと2人で寝ていた。
「なんだよ、酒臭いぞジジイ」
背中から抱きついてきているジジイを振り払い、ベッドから起き上がる。
なんて目覚めの悪い休日なんだ。
頭が針で刺されたように痛み、鉛のように重い。
久々に記憶が消えるまで飲んだ。
何か考えるだけでも気持ちが悪い。
早く水を飲んで、落ち着かせなくては。
「う~あ~」
言葉にならない声がベッドからこだまする。
ジジイがゾンビのように這い、私の方へ近づいてくる。
「き、気持ち悪い・・・・・・来ないで!」
「あああ、ぐるおーん」
「何言ってるか分かんないよ!とりあえず家に帰りなさい!ハウス!」
もの悲しげな表情を浮かべ、這ったまま玄関の扉を開け帰っていってしまった。
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二日酔いが落ち着いて来た午後。
はらちゃんからお見舞いの電話がかかってきた。
『大丈夫?昨日ジジイと街に消えてからどうなったのか心配してたんだよ』
「とりあえず生きてるから。ありがとう」
『ジジイは?』
「ゾンビみたいになって家に帰ってった」
『へ~それはおめでとうございます』
「うるさい」
そりゃ夜に2人で逢い引きなんて、はらちゃんの大好物だもんな。
延々と電話口でからかわれ続けた。
『今日出掛ける元気ある?』
「頭は重いけど、体は動きそう」
『じゃあ、凄い人に会いに行かない?』
「凄い人?どうしたのいきなり」
『この間取引先に、うちの会社動画配信始めたって話したら、知り合いにインフルエンサーが居るって紹介受けて、今日会える事になったんだよ』
「そりゃビックリだわ・・・・・・って、今日?!昨日言ってくれればこんな二日酔い状態まで飲まなかったのに」
突然の提案に寝ぼけていた頭が冴え始めた。
はらちゃんが自信満々に引っ張って来た人だ。
かなりいい人に違いない。
「今から準備するから待って。何時までに行けばいい?」
『あと30分に秋葉原』
「マジで?」
昨日のままの乱れた衣服を急いで脱ぎ捨て、カジュアルスタイルに光の速さで着替え、外に出る。
家から秋葉原は約20分。急げば間に合う。
化粧は現地のトイレで済ませて、戦闘態勢を整えよう。
今日の話でもしかしたら数万単位で再生回数が変わってくるかも知れない。
どんなインフルエンサーなのか大して聞かずにとりあえず行くことだけ伝えてしまったが、まあいい。
まずは話してみれば分かる事だ。
駅まで猛ダッシュし、最短時間で着ける電車に乗り込めた。
遅刻は回避出来た。が、体へのダメージが甚大だ。
上がりすぎた呼吸数と脈拍は、二日酔いの頭をこれでもかと刺激する。
やはり、体は良くても頭はダメだ。
運良く車両内で開いている座席を見つけ、秋葉原駅までしばし体を休める。
吐いちゃダメだ、吐いちゃダメだ・・・・・・・
現地に着いて、トイレに駆け込み化粧という名の兜を顔に
集合場所はヨドバシカメラAkibaの正面口。
ここに、はらちゃんと共に現れるという。
無数の群衆からその人影を探す。
それらしき人は見かけるが、どれも違う。
酒が抜けきっていないのか、さっきの全力疾走の疲れからか、たまに人が二重に見える。ちょっと座って待っていよう。
中央口近くのベンチに腰掛けようとしたところ、見覚えのある顔を見つけた。
私の弟だ。既に大学に進学して、実家に暫く帰って来ていなかった、我が最愛の弟だ。
「あれ?もしかしてジンイチ?」
「ね、ねえさん・・・・・・?」
やはりこの顔は見間違えない。弟のジンイチだった。
実家で暮らしていた時もそうだが、かなり痩せていて高身長である。
もう大学では相当モテているんだろう、とは思いたいがファッションセンスが壊滅的なので、多分無理だろう。
今日はへのへのもへじが書かれた黄色ベースのチェック柄Tシャツに黄土色のチノパンを穿いている。
なんなんだこの色彩感覚は!親譲りかもしれない。
「久しぶり~元気にしてた?」
「そっちこそ、なんか顔色悪いみたいだけど」
「これは二日酔いよ。大人の女性は色々あるのよ」
私は髪の毛を掻き上げ、デキるキャリアウーマンっぽく格好付ける。
ジンイチには鼻で笑われた。
「今日はどうしてここにいるの?」
「実は知り合いの知り合いに動画をやっている人が居て、その人に色々教えてあげてって言われて」
「嘘?!私もそんな感じ」
「奇遇だね。そんなことってあるんだ」
用事が同じで、同じ場所に集合している。
これはもしかして、もしかするかもしれない。
「ごめん!遅れた!」
「急遽呼んでおいて遅刻とは、けしからん!罰金100万」
「外に着ていく服が無くて・・・・・・って、あ、この人だよ、インフルエンサーの『OneGene』さん!」
はらちゃんが紹介してくれたインフルエンサーというのは、なんとあろうことか私の弟であった。
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