第26話 これはいかにも

 修正した企画書は、午後一番で志成達に提出した。


 受け取った企画書を物凄い早さで目を通していく。

 本当に読んでいるのか疑わしいが、この間の企画書は確実に全て読んで赤を入れていたから、ちゃんと読めているんだろう。超人過ぎる。人間なのか・・・・・・?

 

「なるほど・・・・・・社長直々に出演ですか」

「過去にも社長が『直接』プレゼンテーションして、効果的な宣伝に繋がった例がありますし、社長ご自身の認知度も大きく向上できる良い機会になるかと」


 志成は黙考し始めた。


「そこまで魅力ありますか?」

「え?自覚無いんですか?ありますよ、魅力」

「どの辺にあると思ってます?」

「突然家を飛び出して野宿し始めたり、知らない女の子の家に転がり込んだりしてお世話になったり、充分魅力的な人間だと思いますよ」

「・・・・・・まあそうですね。その節はお世話になりました」


 お世話になったというより、巻き込まれたと言うのが自然な表現だろうか。

 私なんか、志成の家族に誘拐されて下手したら殺されてたかもしれないんだぞ!

 

「とりあえず、出演については分かりました。企画についても大方問題無いと思います。このまま進めてください。皆さんに楽しんでもらえると良いですね」

「ありがとうございます。この会社の魅力、全力で伝えて行きます!」


 志成出演の部分を中心にまたダメ出しが入るかと思ったがそんなことは無く、あっさりと企画の決裁が下りた。

 ここからがいよいよ本番だ。スタッフを招集して制作に取りかからなくては。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 オフィスに戻るや否や、犯澤さんとメルヘン矢口を招集した。


「無事に動画配信の企画が通ったので、制作スタッフを集めて早速実行に移ろうと思います」

「おお!おめでとう!って言ってもまだスタートラインに立っただけだよね・・・・・・」

「そうなんだよ。これから構成とか機材もそうだし、ちゃんとした体勢を組まないと。というわけで犯澤さん人脈におんぶに抱っこになります!宜しくお願い致します!」

「期待しないで待っていてください」


 犯澤さんは早速スマホを取り出し、知り合いに連絡を取り始めた。


「というか、犯澤さんしかツテが無いから、犯澤さんが無理なら一から頑張るしかないからね」

「誰か社内とか社外でもいいし、暇な奴かき集めれば何とかなるんじゃない?それこそあなたの彼氏なんて無職だし」

「あ、そういえば」


 身近に時間をたっぷり使える暇人がいることをすっかり忘れていた。

 これで万年無職のジジイに仕事を与える事が出来る。


『今何してる?』

『ベッドで転がりながら求人探してた』

『嘘つけ!どうせエロサイト見て時間潰してただけでしょ。仕事あるから私のオフィスに来なさい』

『エロサイトは見てない!断じて!光の速さで向かうから待ってててー』


 動揺が隠しきれないジジイであったが、仕事の内容は伝えていないがこちらを手伝ってくれるようだ。流石暇人彼氏。


「ジジイがとりあえず手伝ってくれます。AD代わりにはなるかな」

「動画制作もだけど、いかに更新頻度を多くしてユーザーの目に触れるようにするかが勝負になる。編集と撮影、脚本/構成/キャスティングは人海戦術で量産出来る体勢を作って、これでもかという程の量を発信し続ければ、PVは伸び始める」

「まずは目に触れないと、見てくれないか」

「そう。インターネットに星の数ほどコンテンツがあるんだから、どれだけ視線を奪って見てもらえるかどうか。ここかかってる」


 確かに、最近の動画は1時間とか長いものが流行ることはまず無い。ほんの数秒だけに絞ったショート動画がかなり流行ることが多い。

 最近はそれこそ暇な時間を大量の娯楽が死ぬ気で奪いに来ている。その中でユーザーが取捨選択するには、やはり短い時間で全容が分かるモノが必然的に求められるのだろう。


「そうなると、ある程度長い製品とかの紹介動画を週一で作って、それらのまとめをショート動画で毎日打っていって、まずは目を引いていった方がよさそうだね」

「その通りかと。もちろん、動画の内容自体が面白くなければ、あっという間に誰からも見てもらえなくなる」

「なんとも辛い世界だ・・・・・・」


 そうこうしているうちに、ジジイがオフィスに到着した。


「ゴメン、光に乗り遅れた」

「光に乗れる人間がどこに居るんだよ、ウルトラマンじゃないんだからさ」

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