第25話 みんな違ってみんないい
「これはちょっとダメですね」
昨晩仲間達と練り上げた企画は、ものの見事に一蹴された。
「え、何がダメなんですか?」
「競争相手が無限に居ますし、これだとあっという間に埋もれてしまいますよ」
このインターネットの海の中には、並み居る強豪を押し退けてきた猛者達が無限に存在している。
それに我々のような学芸会レベルの素人が特攻を仕掛けたところで、望み薄なのではと憂慮しているようだ。
「別にH○KAKINとかトップクラスになろうとは毛頭思って無いですよ。あくまで会社の宣伝です。もっとうちの会社を知ってもらわないと。あとこんなに変な社員がウヨウヨしているのに、このまま泳がせておくのはもったいなさ過ぎます」
志成はそのまま頭を抱え、黙り込んでしまった。
「ちょっと!志成を困らせるんじゃないわよ!」
神がここぞとばかりに出しゃばってくる。
「別に困らせようと企画したワケじゃないよ。結構真面目に考えたんだよ」
「真面目・・・・・・ね・・・・・・、もう一度この企画書を読み直してみなさいよ」
そう言われて自分で作った企画書に、もう一度目を通して見る。
『奇々怪々!魔の会社オフィスに潜む社員達』
『突然深夜に鳴り響く奇声!デザイナー犯澤さん』
まあ、確かに色物が多すぎてすぐにお腹いっぱいになっちゃうな。
最初こそインパクトがデカいので見てもらうことは出来るだろうが、目が肥えてしまって飽きられるのは必至だ。
家に帰ってスマホでこんな動画を毎日見るほど、心に余裕があれば良いのだが、ムシャクシャしている日にこんなものを見たら、思わずスマホを床に叩き付けて粉々にしてしまうだろう。
「確かに、この会社は変わった社員ばかりで、それを生かすというところも良い目の付け所だと思います。しかしながら、そういった変わった人間は、ネットの世界では数多く存在するので、そのままではなかなか難しいかと」
「であれば、どんな感じにすれば視聴者が継続して見てもらえますかね」
志成は俯いて何かをつぶやく。
少し間を置き、落ち着いたトーンで語り始める。
「元々会社の宣伝も兼ねているのであれば、会社の製品や取り組みをメインにして、その隙間で面白社員を紹介して、スパイスみたいな感じで作るのはどうだろう?動画数を稼いで露出数を稼いで目に触れるようにすればいいし、恐らく目を引くのは面白社員の方でしょうし」
「あくまで会社の宣伝をメインにして真面目さを確保しつつ、客寄せパンダとして面白社員を使って目を引いて、その面白社員が宣伝をすれば相乗効果も狙えると」
「そういうことです。良い感じに会社の製品と社員の魅力が同時に伝わって、メリットがより多くなりそうですね」
志成が満足そうな笑みを浮かべ、企画書に再び目を通し始める。
「先程の大枠の部分の修正と、細かい部分について調整が付けば充分良い企画になると思います。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。そう言って頂けて光栄です」
彼の笑顔に私もつられて微笑みを返してしまった。
志成は先程私と喋っているのと同時に、企画書に無数の『赤』を瞬時に入れていた。物凄く細かい部分まで一瞬で見抜いて指摘するとは・・・・・・やはり只者では無い。
「今日中に仕上げて、明日には実行できるように一気にやっちゃいましょう。鉄は熱いうちに打て、ってね」
「無茶振り言いますね・・・・・・」
志成と神は私に無言の圧力を掛けてくる。
「貴女の実力なら、大丈夫だ。自信を持ちなさい」
「速攻で終わらせられるわよね?午後には再審議よ。よろしく」
そのまま会議室から追い出された。
これから超速で企画書直さなきゃ・・・・・・
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職場のデスクに戻り、嘆息をつく。
「おつかれ~なんか色々言われたの?」
はらちゃんが直ぐ様私のところに駆け寄ってくれた。
「まあね。色々企画にダメ出しされて帰ってきましたよ」
「うそ!どれどれ・・・・・・?」
無数の赤が入れられた企画書をはらちゃんが血眼で見始める。
「確かに、会社の宣伝というより、社員のタレント化で一発当ててやるみたいな感じだったもんね」
「割とそれでもいい気がしたんだよね。個性の塊みたいな人が大勢居るし」
「本人達がどう思うのかは別にして、世間に出れば間違いなく好奇の的になるもんね・・・・・・」
「社員も良いけど、うちの社長も大概だからね」
「そういえば家から脱走したり、なんだかんだでこの社員にしてこの社長アリだよね」
はらちゃんと共に企てられた、世にも恐ろしい悪魔の計画がここに誕生した。
企画の中で、どうしてもパンチが足りなかったのは自社製品などの部分だ。
社員をタレント化して目を引く宣伝を行うのはもちろん良いが、やはり会社の顔と言えば社長である。
志成社長は真面目ではあるが、かなり天然な部分もあるお坊ちゃまなので、その部分を入れ込んで自社宣伝部分も面白い味付けに出来るのではないかと。
たまに御自宅紹介などを行って、超一流の金持ちの生活振りを晒してヘイトを稼ぐも持ち前のキャラでそこを穏便に済ます。まさに志成だからこそなせる技だ。
志成からの企画書の赤入れ修正もそこそこに、私は志成社長と魑魅魍魎社員の掛け合いの脚本を急ピッチで書き始めるのだった。
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