第24話 新しいサムシング

 「こんばんわー」

 

 ようやくアロマジックのメンバーが私の家に到着した。


 1人は黒縁眼鏡に黒髪ロングヘアーに黒ずくめの衣服を身に纏う、デザイナーの犯澤さん。土下座や左遷は未経験だが、職務質問は一日一回は必ずされる。


 もう1人は全身の衣装はゴシックロリータの世界観を維持したまま頭頂部をダイヤモンドのように輝かせている素敵なオッサンになった、メルヘン矢口。メルヘン矢口は普段は小売店や卸店に売り込みを行う営業活動を担当している。


「ういっす~もう始まってる?」


 日本酒の一升瓶を片手に持って上がり込むメルヘン矢口。

 

「まだ何も始まってない。とりあえず、一杯行きますか」


 メルヘン矢口から貰った日本酒は冷蔵庫に入れ、とっておきのウイスキーであるマッカラン18年をダブルの水割りで参加者に振る舞う。


「今日は集まってくれてありがとう。じゃあ、飲みますか」

「かんぱーい」


 宴が静かに始まった。

 乾杯をするやいないや、ジジイは私の冷蔵庫を漁り、砂肝とチータラを勝手に取り出しつまみ始めた。


「あ、それ私が食べようとしてたやつ!勝手に食べんなよジジイ」

「良いじゃん、どうせ食べようと思ってたんでしょ」


 ジジイが私にチータラを袋から取り出し、目の前に差し出す。

 それにつられて、池に居る鯉のようにパクッと頬張る。


「うわー見せつけてくるね・・・・・・」


 傍からはらちゃんが一部始終を目撃していた。


「何よ」

「まあ、前からそんな感じだったか。そういやそうだよね」


 下らないやり取りはさておき、本題に入る。


「ついに新製品の開発を社長直々にお願いされました」

「え~アロマジックがもうあるのに?」


 メルヘン矢口は自分で持ち込んだビーフジャーキーをワイルドに引きちぎって口に入れる。


「アロマジックしか無いじゃん、うちの会社」

「まあ、そうだけどさ。でも他やるとしたら、うちって何できるのさ?」


 犯澤さんが嘆息する。

 それを言ったら、あとはオカルトグッズぐらいしかないんだよな・・・・・・


「まずは、会社としてどう社会に貢献したいか、何かしらの理念とかミッションとかに沿うモノじゃなきゃダメじゃ無いの?」

「随分まともなこと言うねはらちゃん」

「こう見えて会社じゃかなりまともな方だって自覚ありますからね」


 はらちゃんの言うとおり、会社全体としてのコンセプトが未だ皆無の状態だ。

 いくら自分たちがやりたいことを会社に押しつけても、それは後々会社の足を引っ張る存在になりかねない。


 志成とか神と話している感じだと、それを決めかねているような感じだった。

 具体的なコンセプトの話は一切されなかったし。

 むしろそういったモノを現場から出して欲しい。そういった意味合いで命令してきたのか・・・・・・?


「うちの会社は、何で社会の役に立てばいいんだろうな」

「既にアロマジックでみんなの生活を豊かにしてるんじゃないの?」


 犯澤さんがカバンからアロマジックを取り出して来た。


「それもそうだね。香りでみんなの生活をより良いものに出来ている、はずだよね」

「それはわたしのミニマルで飽きの来ない、セクシーなデザイン故のこと。もっと褒めて!」

「あーはいはい偉い偉い。流石犯澤さん。現行犯逮捕だわ」

「逮捕は余計だわ!何も悪いことしてないでしょ?」


 隙あらば直ぐに自慢を始める。その内本当に土下座させられないか心配だ。


「会社がどう社会と関わっていくか、か・・・・・・中々決めるに決められないな」


 メルヘン矢口がウイスキーグラスが空になったので、お待ちかねの日本酒を冷蔵庫から取り出し、グラスに注ぎ始める。


「自分なんかは、こんなキテレツな格好して社会で面白がられているけど、社会の役に立っているかって言われたら、あんまりそうは思わないな」

「いや、充分みんなを楽しませてるでしょ。そんな人が身近に居たらそれだけで楽しいでしょ」

「はらちゃん・・・・・・キュンです」


 メルヘン矢口が手でハートマークを作ってはらちゃんに愛を送る。

 しかし、はらちゃんは見向きもしなかった。


「やっぱりうちの会社って、変な人がほとんどじゃん?そういった個性で世の中を面白くしていく、みたいな感じで良いんじゃ無いかな」

「ああ、最近流行りの、なんだっけ?セクシーコマンドー?」

「それはマサルさんでしょ。全然違うよ。もしかしてダイバーシティのこと言ってるの?」

「そうそう!ダイバーシティ!」

「確かに、うちの会社はダイバーシティの権化みたいな感じだよね・・・・・・」


 自由気まま過ぎて、ダイバーシティの権化のようになった会社か。

 メルヘン矢口みたいな社員とかも普通に誰からも何も言われないもんな。他の会社だったらボロカスに馬鹿にされて、真面目にスーツを着させられて営業活動させられるんだろうな。


「個性を生かす、っていうコンセプトはいいんだけど、それを製品とか、サービスにどう落とし込んでいく?」


 はらちゃんが私の空いたグラスを見て、新しいウイスキーを持ってきてくれた。

 シーバスリーガルだ!イヤッホウ!


「何かバラエティ番組的なのをインターネットでやってみるとか」

「ああ、確かに色々な分野で超マニアが揃ってるからね、うちの会社」

「会社の知名度もそれで上がるから、まずはそれでやってみるか」

「わたしの知り合いで動画制作やってる人知ってるので、紹介するよ」


 犯澤さんがあっさり動画制作スタッフで当たりを付けてくれた。


「ありがとう・・・・・・!まずはこれで企画、作ってみるか」


 何も無かったアイデアが、みんなと話してなんとか形になってきそうだ。

 やはり持つべきものは仲間だ!ドン!

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