第23話 ふわっとした感じで

 はらちゃんにアロマジックについて一通り引き継ぎをして、結局一日が潰れてしまった。

 内容が多岐に渡っているので、正直一日じゃとても足りない。


 結局引き継ぎ延長戦と私の企画会議も込みで、また私の家で飲み会を開く事になった。


 特に呼ぶつもりも無かったが、ジジイもこの飲み会の話をしたら、あっさり身支度を整えて私の家に乗り込んできた。


「どうも」

「別に呼んで無いけど」

「さっきは思わせぶりな感じで連絡してきたくせに」

「なんか言わなきゃなって思っちゃって」


確かに、会社での飲み会があるんだっていう話をジジイに連絡してしまった。

 別に同棲とかしているワケじゃないのに、何故か断りを入れなければという義務感にさいなまれた。

 友達で居たときは、特にそんなことは一ミリも思わなかったのに、付き合い始めた途端にこれだ。


 これが付き合う、ということなのか・・・・・・?


「そんなの気にしなくて良いのに。はい、酒」

「シーバスリーガル 12年だ!ありがとう~。買うお金あったんだ」

「まあ、まだ仕送りがね」

「早く働け」


 てへへとごまかすような笑いを浮かべ、我が物顔で私の冷蔵庫を漁り始める。


「この間買ったつまみが残ってたはずだけど」

「もう昨日食べたよ。よく覚えてたわね」

「いつ家の食料が無くなるか分からないから、一応把握しておこうってね」

「平然といざとなったら他人の冷蔵庫を頼ろうとするの、やめなさいよ」

「いやいや、もう付き合っているし、お互い様でしょ」

「お互い様と言うより、私に依存しようとしてるでしょ」


 そんな下らないやり取りをしているうちに、はらちゃんが家に到着した。


「おまたせ~!あれ?もう二人で始めている感じ?お邪魔かな?」

「いやいやいや、なにも始まってないし」

「別に隠さなくても良いのに~」


 ジジイの姿を見て、心なしか物憂げな表情を浮かべた。


「他のメンバーは?」

「まだ仕事。もう少ししたら来るって言ってた」


 はらちゃんも何か持って来ているようだ。

 バッグに手を突っ込んで、ドラえもんよろしく秘密道具を出そうとしているのか。


「実は二人にプレゼントがありまして」

「何?そういうの別に良いのに」

「じゃ~ん!」


 はらちゃんが出して来たのは、なんと求人誌だった。


「この間ジジイさんが無職だって飲み会で言ってたから、持ってきました」

「うそ!やさし~ありがとう!」


 私の友達からもついに心配されるようになったのか、ジジイ。

 とはいえ、今までここまで言って職に就かなかったジジイが、こんな求人誌一冊で就職が決まるとは到底思えない。

 とりあえずまずはハローワークで職業訓練を受けた方が良いのでは?


「まさかはらちゃんから就職の心配をされるとは・・・・・・かたじけない」


 ジジイは深々と頭を下げた。


「まあまあ、彼女も出来たんだしちゃんと働かないとね。お金無いと昭和歌謡喫茶行けないしね」

「うおおお!頑張ります!」

「なんで私に言われるよりやる気出てるのよ」

「あれ~もしかして嫉妬?」


 はらちゃんが私をしたり顔で見てくる。

 もしかして、ジジイのこと狙っているのか?

 いや、それは無いかな。ジジイだし。


「なんで嫉妬しなきゃいけないのよ」

「ジジイさん良く見ると身長も高いし、顔立ちも良いし、就職したらあっという間にモテ始めるんじゃないかな~」

「そう?根が腐ってるからダメじゃない?」


 はらちゃんはその言葉に目を尖らせた。


「根が腐っているように見えるけど、物事を見る目は純粋で正直なの!今就職しないのも自分に正直なだけ!」

「それはネガティブな部分をポジティブに捉えているだけでは?」

「そうともいえる」

「きっとダメンズウォーカーだな、はらちゃんは」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 飲み会に際して、つまみと酒、そしてみんなで食べれる出前を用意した。

 今回はチーズだらけというかチーズしか無いピザLサイズを3枚頼んだ。

 

 アロマジックメンバーがもう間も無く到着するというので、酒を用意して待つ。


「あーやっぱウイスキー旨いわ~」


 辛抱堪らず私はフライングして酒を飲み始める。


「今日はいきなり新プロジェクト任されて、ホント自分の人生なんなんだろうと思うよね」

「アタシは少し前に神から耳打ちされたから驚かなかったけど」

「なんで私に教えてくれなかったのよ!」

「多分知ってたらアロマジックチームを守ろうと動き出すかなと思って」

「・・・・・・そりゃ当然でしょ」


 当時神に対するイメージが最悪だったから、はらちゃんの言うとおり徹底抗戦に動き出していたかもしれない。

 長年一緒にやって来たメンバーだったから、思い入れもひとしおだ。

 中々今日言われて割り切れるものでは無い。


「でもまさか、はらちゃんがアロマジックを継ぐ話になってたのは驚いたな。他の商品とかもやってたでしょ」

「そりゃ、アンタの企画なんだから、何も言わないで引き受けるのは当然でしょ」

「ありがとう。持つべきものは友達だな」


 示しを合わせたワケでも無く自然に、二人で拳を突き合わせた。

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