第20話 蛍火

「あれ?結局二人は付き合う事にしたの?」


 ギャル子がようやく公園に顔を出した。


「別にギャル子には関係ないでしょ。ほっといてよ」

「あーその感じだと、先送りにしたな?まったく、こじらせすぎなんだよ二人ともさ」


 呆れ顔で私を見つめてくる。

 やめろ、そんな哀れみの目で見るな。


「ひょっとしてさ・・・・・・ジジイの他に好きな人でもいるの?」


 冗談交じりに問いかけられる。

 問われてすぐに『いない』答えられると思ったが、自分の考えに反して唇はそう動くことはなかった。

 何故か志成の顔が頭をよぎった。一体何故だろう?


「嘘?まじ?!」

「え?そ、そういうことでは・・・・・・」

「なーんだ、そうならそう最初に言ってよ。ジジイが無駄に自爆しただけじゃん」


 そういうつもりではない、はずだ。

 私の中で気持ちの整理がついていないのだろうか。

 曖昧で終わらすのでは無く、キチンとした答えをその場で出すべきだったのか。


 いや、今の心持ちでは出る答えも出ない。

 まだそういった関係を築こうと思えていない、私の問題だ。

 どこか人との距離を未だに上手く取れずにいる。


 どうしたら人を好きになれるのだろうか?

 それとも、もう人を好きになれているのだろうか?

 答えはこれからの人生の混沌の中で見つけ出していこうと思います。


「集ったか、若人達よ」


 狙い澄ましたかのように、長老が会話に割って入ってきた。


「祭りは人生の交差点だ。様々な運命が交錯する」

「あ、長老おひさー」


 ギャル子は基本的に長老の話を聞かない。


「ねえねえ、長老は祭り見に行かないの?」

「ううむ・・・・・・あまり人の多い所は苦手でな」

「そんなこと言ってたら一生お祭り行けないよ。ほら、行こ!」


 ギャル子は長老の手を取り、無理矢理祭りに引き入れていった。


「待て、まずは心頭滅却のヨガを行ってから・・・・・・」

「そんなことやってたら朝になっちゃうよ!ほらほら!」


 長老はケンケンの様相でそのまま祭りへ引きずられていくのであった。

 

 そういえば、微笑みデブはどこ行ったんだろう。

 ギャル子と一緒に祭りを楽しんでいたはずでは?


 辺りを見渡し行方を捜すと、聞きなじみの甘ったるい声が聞こえてきた。


「まあまあ、これからだって」


 微笑みデブは、ジジイとベンチに座って慰めていた。

 

「これからか・・・・・・」

「そうだよ。人生何が起きるか分からないんだから。チャンスは願っている者にしか来ないよ」

「ああ、そうだな。ありがとう微笑みデブ」


 二人は抱擁を交わし、一緒にチョコバナナを頬張った。

 何ともそういうアレに見えてしまう。はらちゃん呼んでくれば良かったな。


 とはいえ、ジジイにはなんだか申し訳ないことをしてしまったな。

 遅かれ早かれ、私の気持ちにもちゃんとした結論を出さなければ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 祭りも最高潮に達し、空を花火が覆い尽くす。

 空に散った光は、やがて蛍のように淡く消えていく。


 同じ夏は二度と来ないと言うが、今年の夏はまさしくそうなったと思う。

 人間観察サークルの面々と久々に会うことが出来たし、ジジイから今の思いも聞くことが出来たし。


 私自身、根無し草のように何も考えずに、その時その場で面白い事ばかりやって来た。

 自分の今やりたいことを全力で、妥協すること無く突っ走ってきた。

 あまり将来のことはどこか頭の隅っこに置いて、日々をガムシャラに生きて来た。


 私はどう生きたいのか。

 他の人のことは、話したり仕草を見たりすれば何となく察しが付くが、いざ自分自身のこととなると、途端に分からなくなる。


 無意識に人に合わせて生きている自分がいて、それが本当の自分なのかが時々分からなくなる。

 今を生きるのに精一杯なのに、将来を考えられるのだろうか。


 自分自身を振り返ることなんて、今までしたことなかった。

 どう生きれば正解なんて、誰も正解は持っていない。

 今世間が考えているような人生のロードマップなんか、その人に合っているとは限らない。


 どれが幸せでどれが不幸せなんか、人それぞれの価値観で簡単にひっくり返る。

 杓子定規で人の幸せを計ろうとするのが、そもそも間違いだ。


 ギャル子は世間一般で言う『幸せ』に導こうとアドバイスをしてくれたのだろう。

 でも、それは自分で考えて至った結論ではない。

 それが自分にとって本当に正しい選択なのか、それはギャル子と結論が異なって当然である。


 果たして、ジジイは私と付き合うことで『幸せ』なると信じているのだろう。

 私はそれで『幸せ』になれるのだろうか。


 具体的に想像してみよう。

 付き合い始めて、ジジイと何が起こる?

 多分今までと変わらない、ジジイの趣味に付き合ったり、私の趣味に付き合う日々が待っているだろう。


 であれば、付き合うという意味は一体なんだろうか?

 将来のパートナーを見据えての関係の締結ということだろうか。


 ジジイがパートナーか・・・・・・どうなんだろう。

 色々抜けてたり常識が危ういところが多々あるが、それも愛嬌というのであれば、もはやそれはその関係性を許容しているも同義かもしれない。


 誰をパートナーにするかなんてことも、考えたことも無かった。

 一瞬頭をよぎった志成とかはそもそも立場が違いすぎるし、愛嬌とかはそもそも無いし、常識が欠落してるし。


 どうすれば良いか分からないのであれば、まずはやってみること。

 何が『幸せ』なんて、いくら考えても答えは出ない。

 考えても結論が出ないことには、そうやって結論を出していくしかない。


「ジジイ、やっぱり私達付き合ってみる?」


 その言葉にジジイは持っていたチョコバナナを地面に落とし、呆然とした。

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