第18話 会いに行くよ

「ちょっと、何してんのさ二人とも」

「何って、今日は祭りだよ?楽しまないと!」


 探していた二人は爽やかな笑顔を私達に見せる。

 サークル内では、男は微笑みデブ、女はギャル子と呼ばれていた。

 

 微笑みデブは、垂れ目で風船のように膨らんでいる頬、だらしなく垂れた胸とダルマのように丸々と膨れた腹の持ち主である。

 普段から周りに対する関心が疎くぼーっとしていて、いつもドーナツなどお菓子を持ち歩いては頬張っていた。


 一方女はというと、金髪ロングにつけまつげ、黒色のジャージの上下、かかとが潰れたスニーカーを履いている。背丈は微笑みデブよりちょっとだけ低い。

 元々運動部に入っていて運動神経抜群だが、大学に入り男を食い漁るため数々のサークルを渡り歩いてはクラッシュさせた問題児である。


「長老が公園でずっと待ってるよ」

「あ~長老!懐かしー」

「懐かしいとか言ってる場合じゃないよ。待ってるんだから長老が独りで!」

「長老はほっといていいよ。どうせ良く分かんないことしか言わないし。ささっ、ほら、ジジイも待ってるよ」


 既にジジイは、金魚すくいの屋台のおっちゃんからポイを貰ってスタンバイしている。


「てか、なんで金魚すくいなの?」

「やっぱり昔から祭りの名物と言えば、金魚すくいと相場は決まっているのだ!」


 ジジイが謎の自信で鼻息荒く私に訴える。


 いやいや、祭りの名物はもっと他にもあるだろ。

 絶対高価な物は落とせない射的とか、小物しか繋がっていない千本引きとか、子供が気軽に大人の世界を知れる遊戯達があるでしょ!


 金魚すくいだって、まともなポイ使っているとは限らないぞ。

 水に浸せば直ぐに破れるような奴かも知れない。

 金魚は永遠にすくえない、賽の河原の可能性もある。


 目の前にはジジイに差し出されたポイと金魚を入れる皿。

 金魚すくいなんか、小学生以来やって無いぞ。


 とはいえ、ここで引き下がるワケには行かない。

 ジジイたっての希望だ。良いところを見せなきゃ。


 私は意を決してそれらを受け取り、戦場という名の金魚が漂う池へと赴く。


 ジジイは一度戦いを挑んだが、金魚の尻尾が暴れて一瞬にしてポイが敗れ去ったようだ。


「ちくしょう・・・・・・こんなはずでは・・・・・・」

「ポイを水に浸けすぎなんだよ。最低限の時間で仕留めなきゃ」


 金魚の行動を固唾かたずを飲んで見守る。

 進路を予想し、その先に的確にポイを入れ、皿に入れる。


 上手くいった。金魚は皿の中であたふたしている。


「おおお!すげえじゃん!」


 ギャル子が私の背中を思いっきり平手で打ってきた。

 その勢いが強すぎたせいで、せっかく皿に入れた金魚は、綺麗に池にリリースされてしまった。


「あ、ごめん」

「ちょっと!逃がしちゃったじゃん」


 こんなゲームにマジになってどうするの、と言わんばかりにギャル子はヘラヘラしている。まあ、別に金魚獲っても持ち帰るのは面倒だったし、丁度良かったかな。


 一方ジジイはいつまで経っても金魚が獲れず、無限課金を始めていた。


 全く、意固地になっちゃって。


「ちょっと、大人げないよジジイ」

「今度こそ、行ける!」


 と言いつつ、先程と全く同じ動きを見せ、見事にポイを破った。

 ジジイは見事にポイを秒速で破る職人と化していた。


「もう・・・・・・やり方教えてあげるから」


 私はジジイの背後に回って腕を掴み、強制的に獲り方を覚えさせることにした。

 

「ポイは金魚に対してこう立てて、一瞬で、ほら!」


 私のガイドで鮮やかに金魚は獲れた。

 しかし、ジジイの様子がどうもおかしい。先程から小刻みに震えている。


「どうしたのジジイ?トイレ行きたいの?」

「あっ・・・・・・ふっ・・・・・・ふぁあああああああ!!!!!」


 ジジイは獲った金魚をその場に置き、走り去ってしまった。


「え?ちょっと・・・・・・そんなに我慢してたのか」


 残された金魚を独り眺める。

 せっかく二人で獲ったのだからということで、おっちゃんに袋詰めしてもらった。


「相変わらずだね」


 その様子を傍から見ていた微笑みデブ。

 手には綿飴とチョコバナナに焼きそば、頭にはヒーローもののお面がくくりつけられていた。

 小学生かよ!


「もう、そんなことしたらジジイが耐えられなくなるでしょ。分かってあげてよ」

「何が?別に金魚の獲り方教えただけじゃん」

「はぁ・・・・・・これだから今の今まで何も無かったわけね」


 ギャル子が溜息をついて私の肩をポンポンと叩く。


「鈍いわね相変わらず。あれはどうみてもアンタに惚れてるでしょ。今まで気づかなかったの?」

「まさか、からかわないでよ。そんなワケ無いでしょ」

「いやいや、行動とか表情とか、見てれば分かるよ」


 今までそんな目で見たことは無かった。

 他の人から見れば、ジジイの挙動はそう映るということなのだろう。


「そうなのかなぁ。長いこと過ごして来たけど、そんなこと一度も無かったから」

「アンタが気づかなかっただけでしょ?普通好きじゃ無い相手とそんなに一緒に居ないでしょ」


 気にも止めていなかったが、常識で考えればそうだろう。

 その『好き』という感情は友情なのか、それとも愛情なのか。

 それは本人に聞いてみなければ分からない話だ。


「そうか、そうだよね。ありがとうギャル子」

「アタシはカップル歴長いから、そういうのに聡いのよね」

「なんだよ、万年留年女」

「言ってろ」


 私は、意を決してジジイの後を追うことにした。

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