第17話 踏み出していきたい
長老の不可思議話をボーっと聞いていたら、いつの間にか集合時間から1時間が経過してしまった。
他のメンバーは一向に来る気配が無い。
「まあ、いつものことか」
「時は人によって流れる速さが違う。仕方の無いことだ。彼らにとっての定時に来るのを待とう」
長老はベンチに腰掛け、道行く人を眺め始めた。
「お、観察開始ですか?長老」
ジジイが長老の隣に座り、持ってきていた双眼鏡を使って観察し始めた。
「今日はどうも賑やかだ。何故だろう」
「近くで祭りをやっているみたいですよ」
「ほう、祭りか」
そういえば、この街では『だいだん祭り』というものが毎年開かれている。
なんでもかつて流行った疫病退散を願ってアマビエ様を神輿で担いで街を練り歩くというものだそうだ。
だそうだ、というのは私自身がこの祭りに参加したことが一度も無いからだ。
祭りは人が多すぎて行く気には一度もなれなかった。
「もしや、あの二人、約束を忘れて祭りに繰り出しているのでは?」
「それは・・・・・・ありそうだね」
私とジジイは残る二人を探しに、不本意ながら祭りの会場に足を運ぶことにした。
長老は入れ違いになるの防ぐのと、人間観察に夢中になっているのでソッとしておくことにした。
ーーーーー
それにしても、人が多すぎる。
これ程人が来る事が分かっているのに、何故祭りに繰り出してしまうのか。
そこに何か価値を
祭りの価値とは一体何なのだろうか?
こぞって屋台の料理や遊びに興じて、
終いには盆踊りで踊り狂い、夜の街へと消えていく・・・・・・
元来からそういったものだったかもしれない。けしからん。
「本当にこの中に二人がいるのかな?」
「おそらくはな。それこそ、二人は在学中からアベックだったしな」
人間観察サークルという、いかにも根暗な団体の中にも不本意ながらリア充は存在していたのである。
私よりも一学年上のコンビで、聞いたところ高校からの同級生同士だったようだ。
なぜこのサークルに入ろうと思ったのか、在学中に聞くことは叶わなかったのだが、おそらく人間に対して思うところがあったのだろう。
こんな休日に、なぜあのカップルの為に時間を割かなくてはいけないのだ。
というか、長老から集合時間と場所は伝えられているのだから、それくらいは守って欲しい。
集合した後は自由にしてても誰も文句言わないからさ・・・・・・まあ集合しなくても特に何も無いんだけど。
「あの二人だったら、どこに行くと思う?」
「そうだなあ、やっぱり高台とかに居るのでは?」
「祭りに来てまで人間観察かよ・・・・・・せめて綿飴とかお面とか金魚とか買って楽しめよ」
「そういえば、あまり祭りで楽しんだ思い出が無いな」
ジジイが哀愁に浸っている。
華やかな学生生活なんか絵に描いた餅であると思っていた我々にとっては、祭りはどこか異世界に存在する幻想の概念のような扱いだった。
祭りに行くには転生するしかない。人生をやり直せば、きっと祭りに辿り着けるだろう。そういう風に考えていた時期が私にもありました。
今は半強制的に祭りに行くチケットを手にしているようなもの。
ジジイと一緒だから、ぼっちではない。
他の人から見れば、カップルに見えてしまうかも知れないが。
「せっかくだから、何か屋台で買って食べる?」
「おお、それは良い」
ジジイが珍しく乗り気だ。
こういうのには昔は興味を示さなかったのに、どういう風の吹き回しか。
「どうしたの?やっぱり気になる?ん?」
「・・・・・・こういうのも悪く無いなと思ってな」
「ついにリア充への階段を上り始めたか、ジジイ!良かったな」
そのままジジイは俯き、赤面してしまった。
そんな恥ずかしいこと、言ったかな?
「まあまあ、一個ずつ慣れていこうよ。とりあえず屋台で何か食べない?」
「金魚」
「は?金魚の踊り食いしたいの?引くわー」
「二人で金魚獲ってみたい」
「どうしたの?祭りの思い出作り?」
「祭りといえば金魚すくいと相場は決まっている!」
ジジイは思いついたように、私の手を取り屋台の方へと引き連れていった。
そんなに私と金魚すくいをしたかったのか。なら先に言ってくれれば良かったのに。
屋台に群がる人は無秩序に蠢き、私達の金魚への道を塞ぐ。
それでも、ジジイは私の手を優しく握り、群衆を掻き分け前へ進んでいく。
無骨で特に語る事も無く普段は何も男らしいところはないが、こういう時にはいつも男らしさを出してグイグイ引っ張ってくれる。
特に私は金魚すくいを求めたことは一度も無いが。
志成との一件の時も、私からの無理なお願いに特に嫌な顔せず付き合ってくれた。
いつも何かあればジジイの顔が思い浮かんでいた。
頼れる男子はジジイくらいしか居ないし。
困った時につい頼ってしまう、付き合いの良い友達。
ここまでしてくれる友達なんか、中々探しても居ないぞ。
ずっと雑に扱ってしまっているが、もっと大切にしないと。
「あれ?二人とも、どうしたの?」
ジジイがエスコートして辿り着いた先には、探していた残るメンバーのカップルが楽しそうに金魚と既に戯れていた。
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