第14話 がんばりましょう
「上を目指すとかは考えたことないですね。別に普通に暮らせれば充分なんで」
思えば私はこの会社で何を成し遂げるとか、そういったことを考えたことは無かった。
とりあえず大学を卒業して、実家に仕送り出来るくらい稼いで、あとはのんびり暮らせればそれで不足は無い。
「あらそう。ならなんであんな『アロマジック』なんかに精を出していたのよ?」
「それは、単純に作りたいと思ったからよ。ああいうのがあったら面白いでしょ?」
話は平行線を辿ったままだ。
そもそも仕事に対するモチベーションがお互い違うんだから、いくら説得しても無駄だっての。
「・・・・・・まあいいわ。とはいえアンタの腕は確かだから、今のポジションで収まって良い人材じゃないわ。気が向いたら言って」
神は溜息を漏らし、目の前に出されたフォアグラのソテーを口に運んだ。
「それにしても遅いわね。いつになったら来るのかしら」
「誰か呼んでるんですか?」
「アンタの名前出したら、行くって。アタシよりも好かれてるわね」
一体誰が召喚されたのだろうか?
こんなところへ何の躊躇も無く来れる人物・・・・・・もしや、はらちゃん?
「ごめん。遅れた」
やはりというべきか。ここに堂々と乗り込める『格』を備えている志成が姿を現した。はらちゃんではなかった。残念!またの機会に。
「もう食べ始めちゃったわよ。待たせないでよ」
「いつもの事じゃ無いか。何を今更」
怒鳴り散らすかと思いきや、少し笑みが混じっている。
2人のいつもの距離感、というやつか。
「随分仲良くなったのか?昼食まで一緒にするなんてさ」
「色々調べてたら、マトモな人間だったって分かっただけよ」
神が私を一瞥し、微笑む。
その笑顔がどうもまだ慣れない。
「最初からマトモだったってば。むしろ自分を助けてくれた恩人だよ」
「そうなの?」
「家出して一文無しになった時に、家で匿ってくれたりしたんだ」
「家に・・・・・・ですって・・・・・・?」
それが神の怒りに触れる行為であることは、私でも想像は出来た。
何故、志成は神を目の前にしてそれを懺悔しまったのか。やはり天然である。
「ちょっと!一体どういうことなの?説明なさい!」
「いや、それが泊まるところが無くて、喫茶店で時間を潰していたら、彼女が見かねて・・・・・・」
「アタシに連絡してくれれば、そんなの何とかしたわよ!なんの為の許嫁なのよ!」
「神に頼るのはちょっと違うかなと思ってね」
神はあの一件については何も知らなかったのか。
許嫁とか言いながらも、思ったよりそこまで距離は近くないのか。
確かに、会社に出て来た時もどこかよそよそしかった気がする。
きっと親から強制的に決められた相手なのだ。
何か政略的なもので無理矢理結びつけられたのだ。
とはいえ、二人が今までどのような時を過ごして来たのかは、私の知る由ではない。
そこに信頼たる何かがあったのかもしれないし、その逆のことがあったのかもしれない。
いくら色々と世話をしたといったところで、所詮は赤の他人なのだ。
「あの時、一度も神の話してなかったよね」
私は志成を言葉で刺す。
これで何かが見えるはずだ。
「それは、色々と精一杯だったから・・・・・・」
「なら、尚更神に連絡取るべきだったんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、あの時はしがらみから距離を取りたかったんだよ」
その言葉に、神は目を鋭くした。
「一体どうしたのよ?今まで問題無く順調に二人でやって来たじゃない!」
「上手く行っていたように見えていただけで、中身はまだまだだよ。自分なんか足りない所ばかりで、知らないことばかりだ。今の殻から飛び出さないと知れないことがたくさんある。実際に飛び出して見て、色々なことを知れたし、新しい人とも知り合うことが出来た。でもいざ飛び出して見ると、自分は何も出来なかった。無力なんだよ」
志成は嘆息し、神は目を丸くして二の句が告げなかった。
「無力っていうんなら、アタシを頼りなさいよ。アンタがどう思おうと、アタシはアンタの許嫁なんだから」
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