第13話 褒めても何も出ないよ

 一体何が起きているというのだ?

 あの神が私の事を褒め始めているのだ。


「いやいや、その時にたまたまアロマの需要があっただけだって。買いかぶり過ぎだよ」

「この論文とマーケット需要を結びつけて、実現できる業者も選定して、ここまでのものを作れるのは、他の会社でもそうはないわ」


 神は純真無垢な笑顔で私を見つめてくる。

 ちびっ子みたいなキラキラした目だ。飴はあげないよ。


「というより、私の事良く知ってるね」

「昨日から会社に泊まってアナタのことを調べ尽くしたわ。あれだけ言われて悔しかったから、何か言い負かせるところは無いか徹底的にね。でも、出て来るのはどれも完璧に仕上がった仕事ばかり。お手上げよ」

「・・・・・・それはどうも」


 怖っ!私を完膚なきまでに潰す為に徹夜して調べてたっていうの?

 他にやることあるだろ!私に執着してないで、新しい事業の一つや二つでも考えてくれよ。


「だからアンタと新しい企画を作りたい。『アロマジック』に連なるモノでもいいし、全く違う新基軸を狙っても良い。今までアタシが志成とやって来て培ったコネクションもあるし」

「でもそんなお金、この会社にあるの?」

「もう大資本の傘下になったんだから、お金の心配はしなくていいわ。だからといってオカルト商品とかは許さないけど」


 やはり財閥の力は偉大だ。今までの苦労が嘘のようだ。

 社長がGOサインを出しても、そこから資金を集めるために色々な会社と提携して資金援助を貰ったり、銀行にも頭を下げたこともあった。

 何で自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだと、運命を呪う日も多くあった。

 というか、社長何もしてないし。何の為の存在だったんだ?マスコット?


 とにかく『アロマジック』を生みだした御陰で、大資本の会社に目を掛けてもらえて、今や企画もお金も自由自在に動かすことが出来るようになった。

 今までの血を吐くような努力は、決して無駄ではなかったのだ。


「そんなこと、言ってもらえると思って無かった」

「アンタが良いモノ作ったんだから、当然のことよ。もっと胸張って生きなさい」


 神は私に微笑み掛け、肩を軽く叩いた。

 最初の最悪過ぎる第一印象からは想像出来ないが、こうやって私と神が手を携えて仕事をする日が来ると思っていなかった。

 やはり上に立つ者は覚悟が違うんだろうな。

 態度とか歪んだ努力の方向性はさておき。

 

 志成もこんな世界で戦い続けているんだな。

 いつもはあんなヘラヘラして家出もしてしまうけど、それは普段頑張っている裏返しなんだ。

 どうにかして志成と神を支えてあげたい。

 この会社がマシになるように、私ももっと頑張んなきゃ。




 ーーーーー



 一通り業者との打ち合わせも終わり、神のマウンティングも落ち着いたところで、昼食に出かけることになった。


 神はいつも何を食べて生きているのだろうか?

 やはり高級肉とか幻の魚とかしか受け付けない体になっているのだろうか。

 もしかして、料理人ごと出前で会社に呼ぶとか?

 一体どんな食事をしているのかとても気になる。


「お昼何食べるの?」

「お昼はレストラン予約してるわよ。一緒に来る?」

「え?いいの?」

「別にいいわよ。今日はアンタのお世話になってるし、お礼って程じゃ無いけど」


 そう言うと、神は近くに居た黒服に耳打ちし、私に微笑んだ。


「迎えが来ているわ。準備して頂戴」


 誘われるがままにオフィスビルの一階のロータリーまで連れられ、黒塗りのリムジンに押し込まれた。

 一体何処に連れて行かれるのだろうか・・・・・・?


「ここから少し距離があるから、急いで行かないと」


 リムジンは静かに走り出す。

 生まれてこの方、こんなふかふかの座席に腰掛けたことは無かった。

 加速の衝撃が全く無い。これが高級車というやつか。

 

 夢心地の中、体感時間で5分くらいだろうか。

 あっという間に目的の場所に到着した。

 中々座席から離れようとしない体を無理矢理起こし、彼の地へ赴く。


 そこは昼食に気軽に来れるような所では無い、豪勢な装飾がされたレストランであった。

 ロビーにはドアマンが駐在しており、そこからエスコートする係員の所作はまさに洗練されたものだった。

 私みたいな奴が来ていい場所なはずが無い。

 今すぐ逃げたい衝動に駆られるが、神が作ってくれたこの機会を逃したらこのような華やかな世界に二度と踏み入れることは無いであろう。


 思いっきり満喫して、はらちゃんやジジイにいっぱい自慢してやろう。


「さっきからソワソワしてるみたいだけど、ひょっとしてこういう店は初めて?」

「あいにく稼ぎがないもんで・・・・・・」

「あら?もっと自分にご褒美与えないと、持たないわよ」


 いやいやいや、自分にご褒美与えすぎじゃないのか?!

 こんな昼間っから高級レストランに通ったりするなんてさ。

 フツーのサラリーマンならコンビニか定食屋でパパッと済まして、ササッと仕事に戻るんだぞ?

 もしかして、私がストイックなだけなのか?


「ご褒美ばっかり与えてたら、財布が持たないよ」


 神はその言葉に嘆息を漏らした。


「アンタ、もっと上を目指しなさいよ。何周りを気にして縮こまってるのよ」


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