第12話 神自身を知れ

 業者とのオンライン会議は神のマウント未遂以外は、つつがなく進行した。

 

「途中でマイクが入らなくなったのはなんなのかしら?」

「まあオンラインなんでね。良くあることだから。切り替えていこう。くよくよしない」

「特に異常は見当たらなかったんだけど・・・・・・そういうこともあるのかしら」


 何とか強制マイクミュートの件についてはごまかせたようだ。

 とはいえ、毎回業者とのオンライン会議の冒頭で、いちいち特技のマウンティングを披露されてもらっては、こちらの精神が持たない。

 私の手で神がマウンティングをかますのを、なんとかして止めさせなくてはいけない。


 人は何故、マウンティングという愚かな行為に手を染めてしまうのか。

 動物であるがゆえの習性なのだろうか。人間は理性を手に入れたはずであるのに、この空虚な行為に時間を浪費させてしまうのだろうか。


 自己満足の世界か。

 他人より自分が上位であることを見せつけて、自分が悦に入るということか。

 お願いだから他人を巻き込まないで勝手に独りで悦に入っていて欲しいものだ。


 そもそもの根本的な意識改革は追々やるとして、直近はお客さんに対してマウンティングをさせないということだ。

 なぜあんな行為に出てしまうかといえば、相手に上位に立たれないように威嚇するためだ。

 つまり相手がそういう敵意が無く、神を尊敬していることを事前に伝えておけば、そのような行為に出ずとも、ご機嫌な状態で鎮座してくれるだけになるはずだ。


 神の尊敬できそうなところを探っておいて、相手先の企業にもご機嫌を取らせて、なんとか場が荒れる事だけは避けていこう。


「神様って今までどんな仕事してたの?」

「どうしたの?いきなりアナタらしくないわね」

「単純に気になっただけだよ」


 神がキョトンとした顔で私を見つめ、何か自身で合点したのか段々と笑顔に表情が変わった。


「あら、やっとアタシの有能さに気づいたのね!やはりアナタは人を見る目があるわね~」

 

 さっきまで散々貶していただろ!手のひら返しすぎてねじ切れるわ!


「やっぱり初対面の人に自分の有能さをアピールするところから只者じゃないと思ってたよ」

「そうでしょ!なんせアタシは今まで10以上の会社を渡り歩いて経営コンサルティングしてきたんだから」

「コンサルティングやってたんだ~!すごーい」

「どれもこれも利益の出し方をまるで知らなかったみたいだから、どうやったら利益の出るビジネスが出来るか叩き込んでやったわ」

「カッコいい~!具体的にどんなことを教えたの?」


 調子に乗った神は、今まで渡り歩いてきた会社で起こしてきた武勇伝を雄弁に語り始めた。

 既になんとなく予感はしていたが、刺激的な新規事業の話ではなく、単なる現場に対するコストカットによる利益創出の話であった。


「全く何処の会社もお金の使い方をろくに知らないのよ。少しはバランスシートを読めるようになりなさって話よ」

「なるほど~。無駄な費用を削って節約して、色々出来るお金を増やす。家計と同じだね」

「確かにそうね。節約して貯めたお金で楽しいことが出来たら嬉しいものね。会社も同じなのよ。次に新しいことをしようとしても、お金が無ければただの絵空事で終わってしまうわ」


 あれ?実は意外と将来を見据えている良い経営者なのか・・・・・・?


「いつもアタシの役割は節約で、志成の方でその自由になったお金を新しい事に回す。そんな感じなのよ」

「凄い!絶妙なチームワーク!」

「そうでしょ?『神』がかり的でしょ?」

「やっぱり名は体を表すって言うからね」


 『神』がかり的とか、自分で言ってて恥ずかしくならないのか?

 自分の過去を美化して言う奴は、だいたいその栄光にしがみついて自滅していく。

 今は絶えず変化しているし、未来なんかどうなっているか予測がつかない。

 大事なのは過去をひけらかすのではなく、今や未来をどのようにより良いものにするかだ。

 

「ちなみにこの会社でどういうことをやろうとしてるの?」


 神の意志を探って、化けの皮剥いでやる。


「まずは無駄の一掃からかしらね。取るに足らない不採算企画ばかりだから、まずはそれを整理しなくてはいけないかしらね」

「まあオカルト系はそもそも色々な法律に引っかかりそうだしね」

「全く、前の社長はあんな企画よく決裁したわね・・・・・・正気を疑うわ!」

 「あの人は当たる当たらない以前に、自分が好きかどうかで判断してたんでね」

「それで良く今まで会社が成り立ってたわね。『アロマジック』が無かったらとっくに潰れてたんじゃないの?」


 言えたものではないが、それに関しては全くもって同感である。

 神って経営に関してはまともなのか?

 性格はともかく。


「まあ・・・・・・そうですね。みんな好き放題に遊んでる会社だし」

「だから、アンタは一目置いてるのよ。志成も、アタシも」


 いきなりどうしたんだ、神!

 ここでデレても、何もイベント起きないぞ!

 何か私から引き出そうとしているのか?

 金は持ってないぞ!アンタの方が余っ程持ってるから他を当たってくれ。


「いやいや、アレはたまたま当たっただから」

「企画書も読んだけれど、これはたまたま当たったものでは無いわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る