第11話 社会性見学
うわー飲み過ぎた。
めちゃくちゃ頭痛いし気持ち悪い。
どんだけ飲んだか、途中から覚えていない。
今日から遂に神と行動を共にしないといけない。
酒でも飲んでいないとやってらんないよ・・・・・・
「おー、おはよ」
はらちゃんが出社してきた。
目の下にはがっつり黒い影が出来ている。
「昨日途中から記憶が無くなってて、気がついたらジジイの家に居て・・・・・・一体何があったの?」
「それ言われても、私の記憶も結構曖昧だからな・・・・・・なんか楽しそうに騒いで私のウイスキーコレクションをガブガブ飲んでたのだけは覚えてる。あとで買い直せよ」
「そ、それはゴメン。許して」
はらちゃんは直ぐ様頭を垂れ、徐にウイスキー箱を差し出してきた。
「何これ?」
「ボウモア15年です。これでお許しを・・・・・・」
「さては最初から用意してたな?」
「バレたかてへぺろ」
確信犯で高い酒ばかり空けてたのか。やりやがったな。
「次はボウモアじゃ済まないからな。覚悟しておきなさいよ」
「分かりました」
結局私は山﨑とは言い出せず、ボウモアで手を打つことにした。
私のお気に入りはアイラウイスキーだということは、入社直後での飲み会から知っている。
はらちゃん自身は普段は日本酒党なのだが、私との飲みの時は結構ウイスキーで付き合ってくれる。
本人曰く、『ウイスキーに浮気する時が一番スリリング』だそうだ。
さて、こんな与太話している間にそろそろ神が降臨する頃だと思うのだが。
あれ?もう始業時刻だぞ?
「神は遅れてやってくるのか」
「肝心な時に神は人間をお救いにはならない。試練ばかり与えてくる。恋愛ものの定石」
二人でぼやいていると、それは突然現れた。
モーゼの海渡の如く、人の群れが二手に分かれ、進むべき道を示したのだ。
「おはよう下賎の民。今日も時化た面でアタシを出迎えるとは、本当にアタシの相手が務まるのかしら?」
「は?朝一番に遅れてきて言う言葉がそれ?どうかしてんじゃないの?」
いきなり開口一番から喧嘩を売ってきた。
あいにく二日酔いの私にそれを受け流すだけの度量はないのだ。
「アナタ、アタシがどういう立場の者か分かっていて、その口の利き方をするのかしら?」
「あーはいはい。そういうマウントはいいので、さっさと業務始めましょう」
案の定激昂したので、無視してそのまま神の背中を押してデスクへ案内する。
「ここを自由に使って大丈夫だけど、今日はほぼ商談と社内の会議なんで、それに参加してもらう形になるので。PCからオンライン会議なんで。使い方分かります?」
「オ、オンラインカイギ?温泉か何かかしら?」
う、嘘だろ・・・・・・?
今まで良くそれで仕事出来てたな。もしかして意図的にハブかれていた?
確かに会議に出ても文句とかイチャモンとかワガママくらいしか言わないしな。
参加させるだけ無駄どころか害悪だから、今までの人達が外していたのだろう。
先人はリスクヘッジに長けていたと見える。それはある意味正解。
だが、それでは神はいつまで経っても裸の王様、いや女王様だ。
自分の行動や発言の愚かさに、誰がが気づかせてあげないといけない。
そうしなければ、未来永劫神は祟りしかもたらさない、居るだけで皆を不幸にする存在であり続けてしまう。
ここで私が不幸の連鎖を断ち切る。
明日が希望に満ちあふれる日にする為に。
「分かった。とりあえずやり方は一から教える。その代わり今後一切私に口答えしないで。時間とエネルギーの無駄だから。いいね?」
「な、何よ、オンラインカイギが分かるからって、調子に乗らないでくれる?」
「返事はハイかYES」
「ちょっと!アナタ何様のつもりよ!さっきからアタシのことコケにして」
神は怒りを口にし始めた。
このまま口から火を噴いた状態で当たり散らされても、周りにも迷惑だ。
「コケにはしてない。むしろ褒めてる。無知の知って言うでしょ?まさにあれ」
「・・・・・・そうなの?言葉の選び方は気を付けて頂戴」
多分言葉の意味を分かっていないだろうな。
無知である事を自覚することを『無知の知』というのだ。
無知である事を自覚しないどころか、わめき散らして暴れるなんて、言葉の定義からすれば真逆である。
まずは無知である事を自覚し、そこから『善く生きる』社会人としての一歩を踏み出して欲しい。
何も知らない神の為に、オンライン会議のやり方を一から叩き込んだ。
PCの使い方もおぼつかないようだが、これが出来ないようではこの先が辛い。
とはいえ、レクチャーには素直に従ってくれたので、ものの10分程度で一通りの操作を覚えてしまった。
やっぱりやれば出来る人なんだな。
そりゃそうだよね。志成の隣に居る人なんだからさ。
いよいよ、相手先企業とのオンライン会議の時間になった。
私と神が相手先からの会議参加に応答する。
「どうも~お久しぶりです」
『アロマジック』の開発委託先の企業の営業の方が先に挨拶を始めた。
「お久しぶりです~元気でしたか?」
「お陰様で『アロマジック』の御陰で会社が元気です(笑)」
「それは良かったです~」
いつもの社交辞令を一通り終えて、いよいよ本題に入る。
かに思えたが、今日は嵐が潜んでいることを失念していた。
「神です。ひれふ・・・・・・」
神が空気を読まずに例のマウント挨拶をぶっ込もうとしたので、即私の方でマイクミュートを掛けた。
滑稽にも金魚のように口をパクパクさせて必死に喋る神の姿が、妙に哀愁を誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます