第10話 遊び心が大事
「おお!待ってました!今日の主役!」
はらちゃんが満面の笑みで、扉を開けて志成を迎え入れる。
「すいません。遅くなっちゃいました」
「いいっていいって。今日は色々災難でしたし、みんなで飲みましょ」
駆けつけの一杯ということで、はらちゃんが私の冷蔵庫から秘蔵のビールであるエ□スが勝手に取り出され、志成に渡される。
おい、私の所有物だぞ!一言くらい断れよ!
「ありがとうございます。じゃあ皆さん今日は色々ありましたけど、なんとか乗り切れました!飲んでスッキリしましょう!乾杯!!」
「「「乾杯~!!!」」」
「まさか本当に来るとは・・・・・・今日はもう真っ直ぐ帰った方が良かったのでは?」
私が冷笑すると、志成は微笑み返した。
「まあ、アイツはいつものことですし、覚悟はしてました。でもあの立場になってああいう振る舞いをされるのは、さすがにやり切れなくなりましたね。だからお酒でも飲んで忘れようかなと」
私は志成の話を聞きながらビーフジャーキーを頬張る。
さっきからはらちゃんの偏見に満ちた目線が刺さってくるんですけど。だからやましいことは無いって。疑い過ぎだろ!
「社長になるのも色々大変ですね」
「考えることが多くて大変ですよ・・・・・・アイツのこともあるし、会社の将来の目指すべき所とかを考えなくてはいけないですし」
前の社長は何も考えてなかったな。とりあえず部下から上がってきた企画で面白くて採算性が取れそうならホイホイ通してたし。
ホイホイ通しすぎた結果、全く統一性の無い商品ばかりが並んでしまった。
何に効くかよく分からないネックレス、UFOが呼べる笛、未来が見える眼鏡など、オカルト雑誌○ーの広告に乗っていそうな摩訶不思議グッズばかり作って、赤字を垂れ流していたが、私が企画した『アロマジック』でなんとか帳消し、どころかこうやって財閥に買われるレベルまでまともな体を成す企業になった。
そういえば真面目に働いていたのって、実は私だけだった・・・・・・?良く考えたら、みんな周りを見渡せばファッション雑誌とかエリア51について延々とネットサーフィンしてたり、自由気ままだったな。
よく私、この会社辞めようと思わなかったな。
「まずはコンセプトをまとめて、その後何の役に立つか分からない商品のカットですかね」
「それも良いと思ったんですけど、こういう変なグッズとかを真剣に作って、それを従業員とか、マニアなお客さんが面白がって買ってくれているのも、良いなと思って」
「もしかして、志成社長ってオカルト信者ですか?」
「別に信者ってワケでは無いけど、結構こういうのってユニークで良いじゃないですか。子供とかが好きそうですよね、こういうの」
志成が無邪気に微笑む。
確かに、UFOが呼べる笛とか子供のグループの間で持っていたら、話のネタの一つにはなりそうだ。
持っていた奴のその後の扱いがどうなるかは保証できないが。
「夢とか妄想で商品作らせたらうちの会社の右に出るものはいないからね~」
「それがあの会社の唯一のウリみたいなところもあるしね」
私の会話にはらちゃんが被せて来た。
はらちゃんも結構過激な企画を出しまくってたからな・・・・・・
確かはらちゃんが定める基準以下の男を2次元イケメンに変換して投影するゴーグルとか、好みのイケメンを生成出来るアプリとか作ってたな。
はらちゃんの企画はそこそこ売れていたはずなんだけど、その後何も続報を聞いたことが無い。一体何があったんだろう?
「そういえば、はらちゃんがやってた企画って結局どうなったの?」
「ああ、アレだよね。色々実験して、かかる費用に対して収益が微々たるものになりそうって事で途中で没になったよ」
「結構楽しそうな企画だったのにね」
「アタシが鼻血垂らして自己満足して、そのまま砕け散ったよ・・・・・・はぁ。アタシの恋人達を現世に召還出来たのに」
腹いせなのか、はらちゃんが私の酒コレクションの棚から、ウイスキー瓶を取り出して来た。
私のお気に入りのアードベッグ10年を無造作にショットグラスに注ぎそのまま口に運ぶ。
「あぁ~スモーキーたまんねぇ~」
「どれどれ、ワイも一口」
ジジイもはらちゃんの感嘆に誘われ、グラスに注ぎ炭酸水で割って飲み始める。
「これが昭和の酒場の味・・・・・・」
「昭和の酒場の味ってなんだよ。古びた机でも舐めた味か?」
「ほら、あの空間に漂う独特の『空気』ってあるじゃない?あの『空気』が口の中で広がるって感じ」
「うーん、まあ言わんとしてることは分かる。煙たい感じね」
さきいかとビーフジャーキーを交互にむさぼりながら、はらちゃんはジジイの自説に適当に返答する。
意外とジジイとはらちゃんって、相性合うのかな?いや気のせいか。
私が飲むのを制止した頃には、既にアードベッグの瓶の中に酒は一滴も残っていなかった。
今度二人には山崎18年をお詫びに調達させよう。
あまりの値段の高さに目が飛び出るだろう。覚悟しておくんだな!
「ウイスキー、だいぶ集めてらっしゃるんですね」
不意に志成が私に尋ねてきた。
「まあ、にわかですけどね」
「おすすめとかあるんですか?」
「このアホ2人が飲み干した、アードベッグ10年ですかね」
「あまりウイスキーを飲んだことが無いので、昭和の酒場の味がどういうのかが分からないですが、是非飲んでみたいですね」
「・・・・・・すいません。また買い直すので、今度飲みましょう。きっとこの2人が最高のウイスキーを持ち寄ってくれるはずなので」
槍玉に挙げた2人の目線の焦点は、既に合っていない。
肩を組んで何故か『蒲田行進曲』を口ずさんでいる。
「是非とも。私もワインとかお気に入りのものを持って来ますよ」
志成の持ってくる酒って、一体どんなグレードのものなんだろう。
期待に胸が高鳴る。私史上初のドンペリ?
ホストクラブかっ!!!
「お気遣い無く・・・・・・」
「いえいえ、明日から神を相手にするので、その捧げ物として」
なるほど、御神酒か!
ってちゃうわ!
その酒で汚い口閉じてくれるんならいくらでも飲ませるわ!
「はあ・・・・・・憂鬱です」
「あなたならきっと大丈夫でしょう。私みたいなポンコツより」
「ポンコツが社長名乗ってて大丈夫ですか?」
二人は乾いた笑いを浮かべ、ブルックラディ クラシックを片手に夜更けまでお互いを慰めたのであった。
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