第9話 仕事終わりに飲む酒は旨い
地獄のような一日が終わった。
志成のあのときめく笑顔に丸め込まれて、難題を突きつけられしまった。
新基軸の商品企画と、神の調教。
なんでいつも私ばっかり・・・・・・
流石に一人では耐えきれないということで、夜にジジイとはらちゃんを呼び寄せ宅飲みすることとした。
飲みに誘った際、SMSではらちゃんからは『大変だったね』と同情のコメントが寄せられ、ジジイからは『ドンマイケル』と心ない言葉が投げつけられた。
「一体うちの会社はどうなってんだよ。副社長を一介の社員に教育させるなんてさ」
コンビニで買ってきた缶チューハイを開け、口に運ぶ。
喉がアルコールの暖かさで満たされる。
たまんね~!やっぱり仕事終わりにはこれですわ。
「いやーあの空間に行く勇気が凄いよホント。わたしだったらうずくまって嵐が過ぎ去るのを待ってたね」
はらちゃんが、買ってきたあたりめの袋を開けて、手でイカを放り込む。
それを日本酒で流し込んで、ご満悦な赤ら顔を見せる。
「みんな大変だねぇ」
ジジイはビーフジャーキーにかぶりつき、ハイボール片手に私達を達観している。
今日も仕事は無かったようで、緑色のゾンビが大きくあしらわれたステキなTシャツと穿いているうちに勝手にダメージを受けたジーンズをステキに着こなしている。
「ジジイおかわり」
一本すぐに飲み干してしまった私は、ジジイにストックしているスト○ングゼロを冷蔵庫から出させる。
「はいよ」
「あざす」
手渡されるや否や、プルタブを開け口に流し込む。
焼けるような刺激に生の実感を得る。
そして飲んだ後に訪れる、この世が倒錯するようなトリップ感。
これが合法だなんてどうかしている。
「二人は本当に付き合って無いの?」
はらちゃんが赤ら顔で聞いてくる。
こういう飲みの席だと必ず聞いて来るんだよな。
「ないよ。何度言わせるの」
「とか言って、裏では付き合ってるんでしょ?」
「はらちゃん私の表も裏も知ってるんだから、それくらい分かるでしょ」
「でもこの間の時呼んでくれなかったじゃん!どうして?」
あ~、もしかしてそういうこと?ヤキモチ?
「それは、はらちゃんが危ない目に遭ったら嫌だからさ・・・・・・」
「心配してくれたんだ。それはありがと」
「はらちゃん別に格闘技とかやってないでしょ?本当にヤバかったら殺されてたかも知れないし」
「それは二人もそうでしょ?少しは命の心配してた?」
はらちゃんは立ち上がり、私を見下ろしながら日本酒を一気に飲み干す。
ため息に似た長い呼吸の後、言葉を続ける。
「まったく・・・・・・最初聞いた時は映画か何かでも見てきた話でもしてるのかと思ったけど、その後の社長とかの話しを聞いて、『え?ホントだったの?』って現実味が出てきて、震えたよ。さすがのあたしも漫画とかアニメとかでそういうの慣れているかなと思ったけどさ、実際にあったら案外何も言葉が出ないもんだね」
普通はそう思うよな。
あの日は結構端折ってはらちゃんに話したけど、その内容でも充分刺激的話だよな。突然誘拐とか、ハリウッド映画のベタ脚本かよとか思うよね。
「ホント、私って物好きが過ぎるよね・・・・・・反省してます」
「ほんとよ!安易に人の事情に首突っ込まないでよね。命がいくつあっても足りなくなるよ」
はらちゃんが私の側に寄り、肩を無理矢理組んでくる。
「それで、男2人と逆ハーレムした感想は?」
「ハーレムっていうか、成り行きっていうか・・・・・・特に何かあるってワケじゃないよ。志成がめっちゃ困った様子で喫茶店に居座っていたから、つい助けたくなっちゃっただけだし」
「はいはい、イケメンだから助けたんでしょ、わかります」
「イケメンだからとか関係ないから!」
「全く往生際が悪いんだからこの子は。というワケで本人をお呼びしております」
はらちゃんがいつの間に志成と連絡先を交換していたようだ。
というか、いつの間にか志成とジジイ、私含めたチャットグループ作ってるし!
既にはらちゃんが謎のスタンプをグループに送信している。
なんだこれ、スライムで作ったミッ○ー?気持ち悪っ。どこでこのスタンプ買ってきたんだよ。てか使い時分かんないし。
「もう既に招集したので、そのうち来ます」
「いやいや、社長なんだからこんな場末の飲み会に来るわけ無いでしょ。ただでさえ忙しいんだし」
「まあまあ、答えは待ってれば出るからさ」
予言者はらちゃんは志成の到来を予知した。彼女の笑みは玄関の扉に向けられている。
ジジイは独りで勝手に持ってきたシーバスリーガル12年をグラスに注ぎ、ロックで飲み始めている。私達の様子を眺めてほくそ笑んでいる。さすが元人間観察サークル出身者。少しは私の立場を考えて助けてくれるってコトは無いのかね、キミは・・・・・・
はらちゃんも適当なことばかり言ってるんだから。
とはいえちょっと期待してしまっている自分がいる。なんでだろう。
ため息をついて2本目のストゼロを冷蔵庫から出そうとしたその時、その予言は現実のものとなったのだ。
「どうも志成です。まだ飲み会やってますか?」
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