第8話 蟻と蜂
何やら会議室に籠もり、役員だけで話をしている。
あの朝の問題発言のことで、神が咎められているのだろう。
自業自得だ。よくあんな性格で生きてこれたもんだ。
時折、神の怒鳴り声が漏れ聞こえてくる。
なになに?コックローチを売ってた?
あの流行を紹介するTV番組やY○utuberが激推ししたにもかかわらず大爆死した、ある意味伝説のお菓子だ。
アレを商品として売るなんて正気の沙汰とは思えなかったが、まさかあの神が世に送り出していたとは・・・・・・無人島にでも住むつもりだったのだろうか。
いつまで経っても志成社長に突っかかっているようだ。
社長は割とピュアなところあるからなー。
いっちょお姉さんが人肌脱ぎますか。
「そういう問題じゃ無いだろ!!!」
話の展開にやきもきして、会議室に思わず飛び込んでしまった。
また余計なコトに首を突っ込んでしまった。
ホント難儀な性格してるわね、私。
「なんだよ、いきなり入って来て」
志成は飛び上がり、声を裏返す。
横に居る神は苦虫を噛んだ顔を浮かべる。
「会話聞いててイライラしてきたのよ」
神の発言がね。
ふざけたコトばかりやってきたみたいで・・・・・・
「何が気に食わないのか、言ってご覧なさいな」
神が私に問いかける。
「なんだよ、コックローチなんて下らない企画出して悦に浸りやがって!そんなの売れるワケ無いだろ!」
「それは今昆虫食というトレンドがありまして、それを元に商品開発をしたのです。皆が求めるモノを先取っただけですわ!何がいけないんですの?説明してくださいな」
神は突然意味ありげに扇子を広げ、私を睨み付ける。
扇子には『絶対王政』と書かれていた。これは即ギロチンですわ。
全部白髪になって震えて眠れ。
「昆虫食はまだそこまで一般的じゃないでしょ?それを普及させるために始めるなら良いけど、ただ目新しいだけで売ろうとしても、お客さんは定着しないですぐに離れてしまうわ」
神は押し黙った。
眉はつり上がり、顔がゆでタコのように紅潮した。
「何よ!そんなに責めて何が楽しいのよ!だったらアンタがやってみなさいよ!」
「私はもう、一つ当てたし。知らないの?『アロマジック』」
「ご冗談を。全くハッタリもここまで来ると呆れて物も言えませんわね」
神は鼻で笑っている。
今からその伸びきった鼻をへし折ってやる。
私は持ち込んだノートPCで当時の開発についてをまとめた記事をインターネットから引っ張り出してきた。
もちろん、開発者として私の名前がハッキリと書かれている。
「全く、もっと会社のことを調べてから着任してくださいよね。上に立つ者の責務でしょ?」
「ぐぬぬ・・・・・・生意気な!!」
神が優雅に広げていた扇子を畳み、私を小突こうとしたところで、流石に見かねて志成が止めに入った。
「はいはい。二人とも落ち着いて。この会社に対する熱い思いはよーく分かったから、ね、落ち着こう。落ち着かないと会話にならないからさ」
志成になだめられて、私も少し落ち着いてきた。
神様はまだご不満のようだ。握りしめられた拳が小刻みに震えている。
「じゃあ、こうしよう。お互いに新しい商品の企画を持ってきて、それで雌雄を決するってことで」
「それは名案だわ。この世間知らずのお嬢様に目に物言わしてあげるわ」
良く言ってくれた志成!これで神が生意気言わなくなるぜ。
やっぱり志成はなんだかんだで人の気持ちの持って行き方心得てるな。
「分かりましたわ。完膚なきまでに叩きのめしてあげますわ」
神も望むところと言ったところだ。
その笑顔が全然笑っているように見えないんですが。それ人を殺すときの表情ですよ。
「よし、なら来週のこの日の夕方までに企画書を持ってきて、各自プレゼンしてね」
「テーマは何でもいいんですか?」
「何でもいいってなると際限無くなっちゃうから、そうだな・・・・・・この会社の持っているモノを生かして新基軸を打ち出せる奴、ってところでどうかな?」
私の方が圧倒的有利!社歴や繋がりは私の方が上よ!
神よ、私の前に平伏し給え。
「ちょっと待ちなさいよ!それだと彼女の方が圧倒的有利じゃない!ちょっと彼女に入れ込みすぎじゃなくて?アタシが許嫁であることを忘れないでちょうだい!」
「忘れては無いさ。当然そこで相当なハンディキャップになるだろうから、この一週間、彼女と行動を共にしてもらいます」
おい志成。今なんて言った?
この神と一週間過ごせって?
無理だ!途中で発狂してどうにかなるだろ絶対!
そうだ、はらちゃんとスクラム組んで、この神を押さえ込めば何とか・・・・・・
まあ私の方が会社では先輩だし、新人研修のつもりで取り組めば、行けるか?
まずはマナーとかを教え込まなきゃな。相手を威嚇しないように調教しなければ。
マナーどころか実務も知らなさそう。仕事は基本罵倒すれば終わりみたいなスタイルっぽそうだしな。・・・・・・てかこんなのよく副社長に据えようと思ったな志成。
「分かりました。社長きってのお願いですから、引き受けましょう」
「ありがとう。感謝するよ」
志成が見せた不意の笑顔に、私の心が吸い込まれそうになった。
そんな優しい顔見せられたら、たまんないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます