第3話 みんな困っている
そんなこんなで、休日は男とジジイの介護で吹き飛んでしまった。
日曜日は、男を泊まらせる為の道具をジジイと買い出しした。
食材も足りないし、寝具や衣類も無い。
本当に何も持たずに逃げ出したんだな。それか追い剥ぎされたか。
本人が特にそれについて話したがらないので、突っ込んで聞いていないが。
っていうか、男は何もしないで家で寝ているだけなのが許せない。
買い出しとか、手伝いとかする気には少しはならないのだろうか。
なっていたら、今のような居候生活はしないだろうな。
そもそもの生活の成り立たせ方を知らないと見た。
一日で一通りのものは揃った。
お金は私とジジイで折半した。元々私が拾ってきてしまったやっかい事を、引き受けてくれた上に色々と支援してくれるジジイには、頭が上がらない。
そもそも私がお節介を焼かなければ済んだ話ではあるのだが。
嗚呼、もう明日から仕事だ・・・・・・
ーーーーー
翌日、休日に貯まった疲労を繰り越したまま出勤の時間を迎えた。
ジジイに生存確認と称して男の様子を寝顔つきのショートメッセージでもらった。
こうして比べてみるとカッコいいな。ジジイと違って。
暫くの間はニートであるジジイが男の相手をしてくれるだろう。
ジジイは何もしようとしてないくせに、実家から仕送りを貰い続けているので、その辺の心配はない。
・・・・・・昨日の金は全額ジジイに請求すればよかった。
私はジジイや男と違って、仕事をこなさなければならない。
勤め先は『アロマジック』という、巷ではCMで名が通り始めた会社だ。
つい5年前に創業したばかりだが、私が企画した「時間に応じて変化するアロマ」がトレンド紹介のTVに連日取り上げられ一般消費者の心を掴み、毎年倍以上の成長を見せている。
「おはアロマジック!」
「「おはアロマジック!」」
ビデオ会議で朝会が開かれる。
お決まりの挨拶を従業員同士交わしたところで、社長から話始めた。
「今日は重大ニュースがありま~す!なんと、会社が買収されま~す」
軽いノリで言われたが、どうも社長が会社を売ったようだ。
その売却先が、誰もが知っている超がつくレベルで金持ちの企業グループ。
いわゆる財閥と世の中から形容される部類のところだ。
来月からあろうことかその一員となれるようだ。やったぜ!
「なので、俺は社長では無くなります。また違う事業でも始めようかなーと」
あーわかった。
月に行こうとしたり、知らない人にSNSから金配り始めるパターンだこれ。
せめて友達より大事かもしれないパートナーくらい守ってやれよ・・・・・・?
「まあ新しく来る社長も優秀みたいだし、大丈夫だよ、大丈夫」
お前は会社売れば終わりだけど、現場の私達は買われた先でどうなるか分からないんだけどね。首切られたり給料下げられたりするかもしれないし。
少しは従業員のことを
「新しい社長は今忙しいみたいでまだ会えてないんだけどね。ハハハ」
ハハハ・・・・・・じゃねーよ!
少しは新しい社長に引き継ぎしてから辞めろよ!
もう来月には居ないんだろ?そんな笑ってる余裕あるのかよ!
あるから笑ってるんだろうな。
「じゃ、宜しく~」
会議は強制的に打ち切られた。
恐らく全従業員が、画面の前で呆然としているだろう。
私は少なくとも、3分は制止した。
当然、社内のグループチャットは大荒れになった。
会社の同じ部署の女の子(はらちゃん)から、怒濤の攻撃を受けた。
はらちゃん「あたしたちどうなっちゃうの?クビ?」
社長「クビにはなんないよ。それはない。保証する」
はらちゃん「でも社長とまだ話してないんでしょ?確約出来る?」
社長「悪いようにはしないって、先方の親会社から言われているから大丈夫だって」
社長は本当に何も話しが出来ていないようだ。
そもそも次期社長と会話出来ているのかは怪しい。
私「その次期社長はいつになったら会えるんですか?」
社長「それがここだけの話、その社長とまだコンタクト取れてないんだって」
え?コンタクトが取れていないのに、うちの社長に宛がわれているってこと?
随分舐められたもんだな・・・・・・
私「早くコンタクト取ってくださいよ。もう一ヶ月切っているのに、このまま逃げるつもりですか社長」
社長「いや・・・・・・、そんなつもりは無いよ。元々は社長残留の条件だったんだけど、先方が新しい社長を付けたいって突然言い出してね。でも、その社長は『多忙』らしくて先方でも連絡が全然付かないらしい」
私「それは暗にうちの事業だけ吸い取って、殻はポイするって言ってるのと同義では?」
社長「それもないよ。先方はこの会社を伸ばそうとしてその社長を指名したみたいだから。どうも先方の社長の御曹司で、ヘッジファンドを渡り歩いて数多くの企業を成功に導いた『カリスマ』らしいよ」
そうか。会社を掛け持ちし過ぎているパターンか。
自分の家を経費で買っているのがバレて国外にトンズラされなければ良いけど。
とりあえず、超がつく程うちの社長と違って多忙みたいだから話し合いが出来ていない様子だ。
来週には話合いの場を持てるよう、先方が調整をかけているようだ。
既に私方手た企画を何本か走らせてしまっている。
指揮陣が変わるとなると、全没になる可能性も捨てきれない。
あー、ホント心臓に悪い。救○飲もうかな。
ーーーーー
朝の社長の衝撃ニュースが入り、その日は仕事がほとんど手に着かず、はらちゃんと腐談義をしてそのまま業務終了とした。
というか、次期社長に企画を切られないよう対策を練っているという、全くもって無駄な時間を使わされた。
そんな殺伐としている中でクソほど暇なジジイは一時間に一度、定期報告を送ってきてくれる。
男とは仲睦まじくご飯を食べている姿や筋トレをやっている姿を、毎度写真で提供してくれている。ウホッ、たまんねー。はらちゃんにも送っとこ。
とはいえ、その定時報告も、15時を境に、ぱったりと無くなっている。
もう飽きたのか。だから職に就けないんだよ。
もう時間は19時を過ぎている。
今日は料理するのだるいからカップ麺で済まそーっと。
ヤカンに水を入れ、ガスコンロで沸かし始めたその時。
ドアチャイムが鳴った。
今日は別に通販とか来る予定無いけどな。
あ、もしかしてジジイかな。ご飯たかりに来たか?
「はいはい、ちょっと待って今開けるから」
といって、玄関のドアの鍵を開けたその瞬間。
ドアが蹴破られ、私はその場に転げてしまった。
「ちょっと、何?」
姿を現したのは、黒服の男三人組。
「ここにマッチョな男はいないか?中肉中背の」
「は?私一人暮らしですけど」
「そうか。ちょっと探させてもらうぞ」
そう言うと、ズカズカと私の部屋に土足で侵入してきた。
「ちょっと、勝手に何やっているのよ!警察呼ぶわよ」
「ああ、すいません。すぐ終わりますので」
言うことを一切無視して、私の部屋を物色し始めた。
キッチン、冷蔵庫、洗濯機、風呂場、ベッド・・・・・・
あらゆる場所にチェックが入り、モノがあっという間に床に埋め尽くされた。
「あったぞ!やっぱり来てた!」
「わかった。よし連れてけ」
私はスマホで110と押した矢先、手足を縛られ手と口を布で隠され、
男に担がれてどこかへと連れ去られてしまった。
え、このまま海に沈められるパターンですか?
やっぱりあんな男と関わらなければよかった・・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます