陰キャ野郎のお楽しみ

通学路に椿の木がある

毎年、赤い花を咲かせ

道路に顔を出す

今日はつぼみを見た

まだ薄緑のどんぐりみたいな


今日もつぼみを見た

先端が赤く染まっていて

もうすぐ咲くのかと

どきり、とした


今日は道を変えた

赤はもっと染まっているだろうか


今日は道を歩いた

あまり変わらないように見える


出会うたびに迎えるのも迎えられるのも

この人様の家に植えられている

椿だと思うと

なんとなく愛おしく思えた

(家には薔薇があるのだけれど)


彼女の成長を見るのが楽しみになった

開花した時は自分にプレゼントを買おう

かんぱい、と食べるのだ


今日もさびしく歩いている

小さな少女が上を向いて

椿のつぼみを見ていたので

自分も自然と見た

まだ咲いてはいない

先端が赤のまま

彼女も少女も何を思っているのか

知らないけれど

自分は避けるように彼女たちの脇をすり抜けた


少し、通り道を変えても彼女に変化はないだろう

わざわざ開花時期を調べたのだ

気温などを注意していれば一番に咲いた椿を見られるはず


冬が本格的になってきた

豪雪地帯のニュースと大雪になってしまった地域のテロップを見た

雪に椿は物語のようで楽しそうだ


実は、椿は咲いていない

今もつぼみのまま、通り道にあるだけだ

少女は自分で開花時期を調べただろうか?

花なんていくらでもあるのに

あの子は庭に植えられた彼女を目にして

不思議そうな顔をしていたけど

そんな小さな変化を見つけてくれるなんて

ちょっとだけ秘密をもったみたいだ


気持ち悪い、と言われる前に言っておきたい

少女に何かしないし、彼女にも何もしない

自分はただ咲くのを待っているだけで

咲いたら少しばかりイイ想いをして

イイ感じに眠りたいだけなんだ


それを少女と分かち合うのも

それを彼女に告げようとも


陰キャな自分であろうとも

とりあえず彼女が咲くのを待っている

ごくごく一般的な陰キャ野郎だと思ってくれ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る