第15話 義兄妹の時間と皇族護衛編 5



 謁見の間を出て皇族専用の第二プライベートルームへと向かう二人。

 榛名と育枝は別件で今は別行動をしている。

 皇族は皇族で仕事があると聞いた時点で和也はそれを素直に受け入れた。

 念の為に和也と育枝はスマートフォン以外にもすぐに連絡が取り合える用に育枝に魔術で作られた御守りを渡しておいた。これは魔力を注入すると、和也にそれがわかる仕組みとなっている。


 そしてアルトリア国の王子様のように外客が来た時のようの人を通す前提として作られた部屋である第二プライベートルーム。とは言っても、魔術帝国の者達はプライベートルーム同様に皇族の許可がなければ基本的に出入りすることすらできない。


「さて、問題児の相手でもしますか……」


 めんどくさそうに呟いた女王陛下。

 そのままアルトリア国の王子様が待っている部屋の扉を開けて中へと入っていく。


 それから近くに合った椅子に腰を下ろした。

 和也は少し離れて見守る。


「戻って来たか? 随分遅かったな」


「えぇ。相手は客人。流石に話しを急かすのは失礼だからね」


「それもそうだ。ところでその男は誰だ?」


 青髪、ピアスに豪華絢爛な装飾品に包まれた男――カイト。

 それでいて長身且つ美男。

 なによりそのイケメンスマイルは反則だと和也は見て思った。


「コイツ? コイツは従者兼私の護衛って感じで認識して頂戴。今うちは人手不足でね。私の身の回りの世話を出来る者が少ないのよ」


「なら俺の護衛にさせてもいいぞ?」


「それはできないわ。これはこっちの都合だから」


「まぁ見た感じあれだな……」


 すると和也と視線が重なった。

 だが、カイトが困ったような顔にすぐなる。


「うん?」


 小首を傾げる女王陛下。


「なんか見るからにバカそうだな……それと弱そう……」


「あははは!」


 大笑いを始めた女王陛下。

 和也は今すぐにこの場から逃げたくなった。


「よくわかったわね!」


 グサッ!


 和也の心に見えない矢が一本突き刺さった。


「なにも心配しなくてもバカだから安心しなさい」


 グサッ!!


 さらにもう一本言葉の矢が飛んでくる。


「そうなのか……。魔術帝国も大変なんだな……」


「まぁね」


「今すぐに結婚を受け入れるなら式は遥が十八になってからするとしてもなんとかならないか俺から父上に進言してやらんこともないが。どうする?」


「何度も言ってるけどそれは十八になるまで考えるつもりはないわ。結婚できない立場で結婚を考える余裕があるなら私は少しでもこの国が繁栄出来るように全てを捧げる。結婚を考えるのはそれから。でないと民からの不安で溢れかえっちゃうからね」


「相変わらず真面目な性格だな」


 ここにきて少しずつ状況が理解出来てきた和也。

 昨日遥が他国に圧をかけて欲しいと言ってきた理由が見えてきた。そして政略結婚の話しが和也が思っている以上に話しが先に進んでいるのだともわかった。今は上手い事、遥が誤魔化しているがそれも後少ししか使えない手段を使っているのだと知った。これは育枝が言っていたように見てて辛い物がある。

 正体を隠す為に傭兵とはカイトには黙っている。

 その為、向こうもそこまで警戒はしていないように見える。

 おかげでペラペラと色々と向こうから話してくれる。


 だが遥の作り笑顔はよく見ないとわからないがとても切なそうだった。

 だから和也は思った。


 コイツの穴に怒りのゴッドフィンガーをお見舞いしてやりたいと。





 和也が女王陛下の護衛をしている頃。

 第二王女のプライベートルームでは仕事の息抜きとして榛名と育枝がソファーに座って紅茶を飲みながら話していた。


「やはり心配ですか?」


「えぇ。でも今日の和也を見て少し安心した私がいるわ」


 その言葉に育枝が驚く。


「え?」


「一つ気になったんだけど田中隊長って和也の事殆ど知らないんじゃない?」


「えぇ、まぁ……。本人に聞いてもいつか時が来たらなと言って教えてくれないので」


「なるほどね」


「それがどうかしましたか?」


「別に。ただ本当に知らないのかな? って思っただけよ」


 そう言って榛名は紅茶を口に含む。

 その姿を見た育枝は上品だなと思う。


「なら一ついいお話しをしてあげましょう」


 榛名は一度深呼吸をして育枝の顔を見て微笑む。

 それから少し間をあけ、口を開く。


「これは世界のパワーバランスについてのお話し」


 それから育枝は真剣にその話しを聞いた。


 初めて聞く話しに興味をそそられる。

 まずは分かった事は、世界には魔術が存在する。

 そしてその魔術の頂点とも呼べる第七魔術(神災級)を極めた者で軍人として戦う者を大魔術師と人々は呼ぶと言う事だ。そしてその大魔術師の中でも特に才を光らせる者を人々は帝王の魔術師と呼ぶ。育枝もそこまでは知っていた。


 だけどそこから先は育枝にとっては未知の世界の話しだった。


 国が国として存続していくには最低でも第六魔術(災害級)を扱える者を数人維持するか、第七魔術を扱える者を常駐させておく必要がある。第七魔術とは別名神災級と呼ばれるように神の災いと呼ばれるぐらいに破壊力を秘めている。その為、一人でもその魔術師がいれば近隣諸国から警戒される。だけどそんな第七魔術を扱える者を幾ら揃えても世界最強にはなれない。

 世界最大の国エルメス国、世界第二位のアルトリア国が魔術帝国が属する大陸の中で圧倒的に強いのにはそれなりの理由がある。それは帝王の魔術師をそれぞれ一名ずつ保有しているからだ。ただ国が大きいと言うだけでなく、帝王の魔術師が存在し、軍事兵器も最先端だからこそ世界でも一桁代の強さを常に維持出来ているのである。世界第一位から第六位まではこの帝王の魔術師が存在する国。かつてはその第三位の座にまで上り詰めた魔術師帝国。

 しかし本来は七人いるはずの帝王の魔術師が今は六人の理由。

 それはかつてエルメス国の刺客により一人が殺されたから。

 それが和也の父である。


 その後すぐに七人目の帝王の魔術師は生まれなかった。

 六人の帝王の魔術師がこう言ったからだ。


『全員候補者にすらなりえないと』


 それだけ帝王の魔術師とは偉大な存在。

 その気になれば数百から数千の命を簡単にかき消してしまうようなそんな力の象徴でもあるからだ。


「そうだったんだ……」


 育枝はつい言葉を漏らした。

 だけど榛名は続けた。


 今まで魔術帝国が独立国としてやってこれたのは和也の父親の力があっての事だった。坂本総隊長はタイミングを見計らいその座を和也の父親に譲ろうと過去に考えていた。だけどそれは叶わなかった。殺されたからだ。その時ぐらいから魔術帝国が窮地に立たされ始めた。それでも坂本総隊長を中心に頑張っていた時の事、アルトリア国の王子が求婚を求めてきた。最初は考えさせてほしいと言い時間を稼いでいた。すると同盟国として受け入れると向こうが言ってきた。それを機に他国が警戒し、戦争の火種が小さくなった。だが時は進み再び窮地に陥っているのが今の魔術帝国だと榛名は語った。これは本来国の重役しか知らない事実。


「驚いたかしら?」


「はい」


「でも田中隊長は知っておくべきだと私は思ったの。和也は帝王の魔術師の子供なのよ……。その父親は国に全てを捧げて頑張ってきた。だけどその末路は……死。きっと和也は言わないのだと思うけど田中隊長をいつも気に欠けている理由はここにあると私は考えたわ。だから今の内に言っておくわ。和也が国の命運に興味がないと言った理由はきっと国と言う物が大切な人の命を奪っていくと思っているから。もっと言うと和也の母親は今の貴女と同じ隊長をしていた。それでも末路は父親と変わらなかった。だから覚えておきなさい。和也がいつもふざけている感じがするのは私達にそれを隠す為だと。そしてこれは和也の優しさなのだと」


「ならあれはわざとだったんだ……」


「それはともかくね。国の命運には興味がない癖に私とお姉ちゃんの護衛に着くと言ってくれた時点で安心しちゃうのよ、私達姉妹は。この意味を考えなさい。そうすれば私が少し安心している理由がわかると思うわ」


「わかりました」


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