第6話 スパイ容疑の者に告ぐ、頭隠してなんとやら? 2


 その日の夜。

 和也は一人夜の街を歩いていた。


 別に行く宛がなく、ただなんとなく歩いているわけではない。


「はぁ……あんな顔されたら心配になるじゃねぇか」


 一人文句を言ってみた。

 だけどそれは本心ではなかった。

 本当はただ自分が気になるだけ。


 今から一時間前電話を掛けてみた。

 だけどその相手は出なかった。

 とっくに就業時間は過ぎ、プライベートの時間になっているはずなのに折り返し電話もない。

 残業かなと一瞬思ったがそれにしてはタイミングが悪いような気もしたのだ。

 もしかしたら今日謁見の間で言っていたスパイに拉致られた?

 そう思うと居ても立っても居られなくなったのだ。


 こうゆう時は軍に連絡をして動いて貰うのが安全で確実なのだが、それだと時間がかかるのだ。それに気になる相手が相手だけに下手に事情を聞かれると少々面倒な事にもなることから大急ぎで向かったのが、今目の前にある天空の城オシリスと呼ばれるタワーマンションである。


「何度来ても思う。相変わらず金持ってるよな……」


 フリーの傭兵をしている和也はボロイ一軒家に住んでいる。

 しかし義理の妹育枝はタワーマンションの上階に住んでいる。


 これだけでも財力と言う面では育枝の方が上だとわかる。


「さてどうするか……」


 和也は悩む。

 ここから先、方法は二つに一つ。

 一つ目は、何か合った時の為に貰っている合鍵を使い部屋に行く。

 これだと仮に育枝に何か合っても相手にバレずに部屋まで行くことができる。

 むしろ敵がいた場合、全員不意打ちで瞬殺できる。

 二つ目は、インタホンを鳴らしちゃんとした方法で行く。

 この場合部屋で拉致られていた場合、最悪相手に逃げられしまうかもしれない。

 それだけでなくもし育枝まで連れ去られたら最悪の展開になる。


 だがもし着替え途中などプライベートの時間を過ごしていた場合。

 一つ目の方法を使い部屋に行った場合、ボロカスに言われ心が病む事態になりかねない。


「どうする……どっちで行くか……」


 和也は考える。

 スマートフォンを見るが、未だに電話の折り返しはない。


「うーん、どうするかな……」


 腕を組み、エントランス前でクルクルと回転するとうにして歩き悩む。

 なんとなくここまで来て思ったのは。

 仕事で疲れて寝てるとかではないのかと言う事だ。

 ここに来て一安心したと言うか、今まで考えても出てこなかったものが急に見えてきた。

 それもあってどうするか悩んでいるのだ。


 ――そう思い、三十分が経過した。


「お前こんな所でなにしてる?」


 不審者を見つけたような声が聞こえてきた。

 和也が振り返るとそこには育枝がいた。

 その隣には……見てはいけないお方がいた。

 そして全ての事情を察した。

 軍人とは大変だなと自己解決した和也は赤の他人を装い一礼してやり過ごす。


「なんでもありません」


「似合わないな……それで、何故ここにいる?」


 話しがループした。

 ドラクエ式のループだ。

 これは選択肢があってないときにおこるパターン。

 となると素直に答えるまで大人しく帰してくれそうにない。

 てか育枝早く家に行け!

 と心の声を殺し言う。


「なんでもいいだろう。おたくら軍人には関係ないことだ」


「そうか。それでどうしてこんな時間にここにいる?」


「しつこいな……お前」


「それで元大魔術師様はこんな所で何をしているのですか? の方がいいか?」


 急に寒気がした。

 全身から鳥肌が立った。


「頼む。見逃してくれ。てかなんでここにこの人がいるんだよ……」


「私か? 別にいいではないか。軍人に女は少なくてな。こうして事情ありきとは言え一緒に行動するなら女同士の方が色々と楽なんだ。てかお前さっきはよく話しを断ってくれたな」


「その件はすみませんでした。って事で俺はもう行く。ならまたな」


 そう言って動こうとした矢先手首を掴まれた。

 それも女王陛下に。

 ここで下手に振りほどけば……想像しただけでも恐ろしい事になりそうな予感に和也が苦笑いする。


「なんの冗談ですか、これは?」


「まぁ、遠慮するな。お前とは少し話したいと思っていた。とりあえず一緒に来ないか?」


「断る」


「お前女王陛下の願いを一度ならず二度も断るのか?」


「…………はぁ。わかったよ。大人しくいけば、いいんだろう」


 こうして自然な形で和也は育枝の部屋に行くことに成功した。

 そして思った。

 こんなことなら心配して来なかった方がよかったなと。


 その後、二人はエレベーターの中で。


「ありえねぇ……自ら地雷に足を突っ込むとか……」


「それでここに来た理由は?」


「電話に出なかったからスパイに拉致られたかと思ってつい心配で……すまん」


「そう……」


 二人は女王陛下には聞こえない声で会話をした。



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