第4話 義理妹からの依頼 3
そう言えば軍人が外で暴れると後々問題になるんだっけ。
とまるで他人事のように思い出した和也。
そう言った意味ではやはりフリーの傭兵は誰にも縛られない点で素晴らしいと言えよう。
なぜならまず権力に縛られない。
次に発言、行動が全て自由。
なにより全て自己責任で行えるのだから。
「お前ら、先に言っておくが俺をやり過ごして奥に行くなよ?」
岩陰を利用し、奥へと進もうとする気配が二つ。
殺気は隠している。
だけど和也には関係ない。
だって丸わかりだから。
「どこで気付いた。我らの気配に?」
「そうだな――」
和也は大きな岩に寝転んだ事の思い出す。
「結構前かな。もっと言えばお前達ずっと採掘してなかったろ?」
「……」
「道具は持っている。だけどその道具はなぜか傷が一つもない。そうなるとカモフラージュかなと誰だって気付く。そう言った意味ではここに来てからかな」
「……なるほど」
「そこでだ。頼みがある」
「なんだ?」
「この先にいる人間のアイテム奪取止めてくれない?」
「理由は?」
「別に他のやつのなら面倒くさいし止める気はないんだけど、個人的に縁がある奴のはちょっと見過ごせなくてな。どうだ?」
これは話し合いだけで解決かなと思った和也。
わざわざ相手に理由を聞いてくると言う事はそれだけ前向きなのだろう。
今日は運がいいと早くもニヤニヤしていると。
「断る。お前が我らと同じ目的なら見逃すがそうじゃないならここで排除する」
「そうか。ならお前達を俺が排除するしかないな」
「我らは二人。対してお前は一人。この状況がわかっているのか?」
「あぁ。ってことでお前達ケツをだせ」
「「……えっ?」」
「だからケツを出せって言ってるんだ」
「……い、嫌に決まってるだろ!」
女の一人が言い切った。
だけど和也も負けていない。
「なぜだ!?」
「恥ずかしいからに決まってるだろ!」
「人間誰しも生まれた時は裸だろうが! 何をそんなに恥ずかしがる!」
「ならお前はできるのか?」
「できる!」
ドヤ顔で言い切った和也。
どう反応して良いかわからない金髪美女二人。
それもそうだろう。
見知らぬ男、それも今あった男から急にそう言ったお誘いを受ければ誰だって困る。
なによりそう言った行為をしたいのかと勘違いする。
日本語とはとても便利なもの。
それと同時に難しい言語でもある。
本気の眼差しを向ける和也。
和也はそれだけ本気なのだが、相手に中々思いが伝わらない事に言い方がまずかったかと反省する。
ならば言い方を変えて、again!
「一発ずつでいい。頼む! それで全てが平和的に解決するんだ!」
男は思う。
浣腸一発。
金髪美女二人は思う。
みだらな行為で一発。
主語がない為に、両者の間にできた溝。
「私には旦那がいる」
「私は彼氏がいる」
「「だから無理!」」
「そうか。先に言っておくが俺にだってな……」
和也の目から涙が零れた。
ただ見栄を張ろうとしただけ……。
でも無理だったから……。
「「いないなら意地張るな!!!」」
「それとお前はここで死ぬ運命。あの世で変態の女でも見つけて幸せになれ」
金髪美女の一人が和也に突撃してくる。
どうやら交渉決裂のようだ。
相変わらず気が抜けた顔のまま二人に視線を飛ばす。
「なるほどな」
一人は近距離、一人は遠距離。
バランスの取れた二人組だなと判断する。
だがそれはあくまで一般人レベルでの話し。
後方に立つ女の背後に青色魔法陣が出現する。
そして氷の礫が雨のように一斉に放たれた。
それは仲間を避け、和也一人に向けられる。
「へぇ~、魔力制御上手いんだな……」
一人感心する和也。
だが――。
「油断したな。そこは我らの奥義『氷の舞』の効果範囲だ」
目の前まで来た女が懐から短刀を取り出し、魔術を使う。
魔術で強化された短刀が高速で正面、後方、右、左、上、後方……と不規則に襲ってくる。
「身軽だな。それに氷の礫が全て避けるようにして動いている。お見事」
和也は攻撃を躱し続ける。
それと一緒に反応が遅れたものや反応が間に合わない攻撃に対しては魔力を媒体に作られた障壁を使う事で対処していく。
「見切った!」
和也が両手を重ねて銃の形にする。
一見不規則な攻撃に見えるが氷の礫の動きから次どこから短刀が襲ってくるかを判断する。そしてその短刀の先にもう一人の女のお尻がある。
「吠えろ! 俺のゴッドフィンガー!」
人差し指を第一魔術(初歩)の硬化を使い強化する。
それから一回パワーを溜めて放つタイミングを慎重に見極める。
そして――。
「燃えろ! これが俺のオリジナル魔術、ケッツ・ザ・ファイヤー!!!」
和也の人差し指が女の穴をズブリッと音を鳴らし一刺しした。
そこに狂いはなかった。
ちゃんと間違いなく、狙った方の穴へと貫通した。
これは数え切れないほどの戦場を超えてきた男の感覚があってなせる業(わざ)。
さっきまで顔色が良かったはずの女が青白くなっていく。
「まだだ! 水鉄砲」
相手に出来た隙を和也は見逃さなかった。
目の色を変え、到来したチャンスをしっかりと掴む。
「……ひぇ!?」
全方位に障壁を展開し身の安全を確保した和也は人差し指を勢いよく抜く。
慌てて女がお尻を抑えて内股になりながらも後方に大きくジャンプ。
だが妙な違和感がお尻にある為か、着地と同時に地面に座り込んだ。
「安心しろ。サービス込みで八百CCにしておいた」
優しさと言う残酷なサービスをした男はドヤ顔で微笑みながら言った。
「…………」
涙目になり、黙る女。
仲間がすぐに駆け付けるが、お腹も抑えている辺りかなり苦しいらしい。
「漏らすなよ? こんな所で漏らしたら旦那に嫌われるぞ?」
「あ、あんた……」
目から零れそうになる涙を堪える女。
「今までの経験でわかった」
「な、なにを……?」
「お前今便秘中だろう。これでスッキリできてよかったな!」
人助けをしたと実感した和也は満面の笑みで答えた。
唇を噛みしめ最早戦闘どころではない女とそれを心配する女。
「逝け。今回は見逃してやるよ」
「お、覚えておきなさい。次会った時は絶対にアンタを殺してやるんだから!」
「そうか? なら覚えておくよ。それと相方はそんな事よりも今はって顔して何か色々と我慢の限界にきてそうだけど大丈夫か?」
「お姉ちゃん動ける?」
最早言葉すら発せないのか頷く姉。
ここでようやく和也は知った。
この二人姉妹だったのだと。
そして見た目は自分と変わらないのに相手がしっかりといるのだと。
膝を折り、急に痛み始めた心臓を抑える和也。
「くっ……リア充なんて爆発してしまえばいいのに」
あまりの羨ましいさから目から涙が零れた。
この日。
勝負に勝ち、人生の幸福度で負けた。
そんな一人苦しむ和也の元に育枝がやって来る。
「なにやってるの?」
「……リア充が憎い」
深刻な顔のまま今の気持ちを伝える和也。
「バカね。てかキモいから早く立って」
そんな事はどうでもいいと割り切る育枝。
「はい……」
「後変人と知り合いとか思われたくないから距離は空けて」
「わかりました」
胸の奥深くを抉ってくる育枝の言葉に和也が従う。
そのまま二人は歩いて帰宅した。
途中二人の間に会話は一切なかった。
『はぁ……独り身つらい』
『最悪私が貰ってあげるわよ、バカ兄貴』
帰り道二人の義兄妹、それぞれの想いがさり気なく目に見えない形でシンクロした事を二人は当然知らないし気付かなかった。
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