第2話 義理妹からの依頼 1


「今日も平和だといいなぁー」


 早朝、目が覚めた和也。

 ベッドから起き上がり窓を開ける。

 窓が空いたことでまだ肌寒い四月の風が身に染みる。

 全身で朝の新鮮な空気を太陽の陽と一緒に浴びる。


「うぅぅぅぅーーー」


 大きく背伸びをして窓の外を見渡す。

 大空は晴れ、太陽の陽が眩しい。

 雲は一つなく、綺麗な水色の空。

 なんと清々しい朝なんだ。

 そう思い、和也は大きく深呼吸する。


 それを三回。


「やっぱり朝の新鮮な空気は美味しいよな!」


 それから朝の身支度と朝食を手際よく終わらせる。

 特にこの後予定はないが、こんなに天気が良い日はお出掛けしたいなと思ったからだ。

 さて、今日は何処に行くかなーと考えながら朝のテレビを見て情報収集をする。

 ニュースなどでもし自分や軍で働く義理妹――育枝の身になにか災いが起きそうだったらいち早く動かなければならないからだ。


「だけどまぁ、育枝は育枝で第五魔術(災害級)まで使えるし過保護になり過ぎてもなー」


 魔術は第一魔術(初歩)~第七魔術(神災級)に分けられる。

 一般的には第三魔術(ノーマル級)もしくは第四魔術(能力者級)までを扱えれば一人前に見られるし周りからも認められる。つまり可もなく不可もなしと言った所だ。


 そんなわけで実は心配と言えば心配だし、そうじゃないと言えばそうじゃない和也。


 すると。


 ――ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴った。


「居留守でいいや」


 見向きもせずにテレビを見ながら決断する和也。


 ――ピンポーン!


「しつこい。新聞ならいらん」


 別にお金がないわけじゃない。


 ただ新聞を読まなくても今のご時世テレビとネットで十分と言うだけだ。

 なによりわざわざ自分の目で見て読むのが面倒くさい。


 ――ピンポーン!!!


 だが相手も中々引き下がらない。

 しょうがない、と諦めて玄関へと向かう。

 渡り廊下を歩き、ドアにある覗き穴から外を確認する。


 するとそこには――ある人物。


「……しまった」


 ――義理の妹、育枝が立っていた。


 大きめのダボッとしたねずみ色のパーカー。下は茶色のロングスカート。

 色気がないと言いたいが、化粧をしているのか整った顔立ちが凛として煌めいている。

 何やらご機嫌が悪いらしく、眉間に皺が寄っている。

 すると今度は逆に覗き穴を覗き込んでくると言う行動に出た。

 おぉー、これイライラしてるやつだ。


 ――ガチャ。


「お待たせ」


「遅い! てか居留守使う気だったでしょ?」


 鋭い眼光と共に放たれた言葉。


「すまん」


「まぁ、いいけど。とりあえずお邪魔するわね」


「あぁ……」


 外部には義理の兄妹と言う事を隠している。

 これは家族の事情が絡んでいて、それを周囲に説明するのが面倒くさいからだ。

 でもそれで困る事もないので、お互いにそれで良しとしている。

 それも合ってプライベートと職場では少し雰囲気が変わる二人。


 外見は長い黒髪で腰下まであり、艶がありとても綺麗だ。

 それでいて整った容姿に、目つきはおっとりとしており黙っていればかなり可愛い系の女の子。

 体系は小柄。だけどモデルのように大きな胸が特徴的。

 だからと言って軽い気持ちでナンパでもしようものなら大抵の人間が即返り討ちになる実力者でもある。


「それでどうしたんだ?」


 渡り廊下を歩き、リビングにあるソファーに対面になるようして和也と育枝が腰を下ろす。その時に和也は二人分の珈琲を渡し、その内一つを差し出す。


「先日はありがとう。おかげで助かった」


 髪の毛を触りながら照れくさそうに育枝がお礼を言う。


「そっかぁ。ならよかった」


 和也はチラッと育枝に視線を飛ばしてから淹れたての珈琲を一口飲む。


「それで、どうしたんだ?」


「今日暇?」


「俺はシスコンじゃない!」


「私だってブラコンじゃない!」


「そんな……!?」


 和也がわざとらしく驚く。

 これも和也なりの兄妹のコミュニケーション。

 少し無理があるように見えるが、これも育枝の事を思っての行動だ。

 まぁ……一言で言うなら不器用。

 それがわかっていない二人でもないのでこれはこれで成り立つのだ。


「……じゃなくて暇かって聞いてるのよ」


「まぁ……暇ちゃ暇だけど?」


 和也は正直に答えた。

 そして珈琲を口に含みながら育枝を見つめる。


「なら今日デートしない?」


 和也はこれはなにかあったなと予測する。

 和也と育枝の関係は義理の兄妹。

 別に恋人の関係ではない。

 それでも育枝がこうして貴重な休みを削って誘ってくると言う事はなにか悩みがあるのだろう。こうして見ると色々不器用な兄妹ではあるが、お互いに相手の気持ちを考えると言った面では人思い兄妹でもあるのだ。

 なので和也は興味がないような素っ気ない声で聞く。


「今日がいいのか?」


「う、うん」


「そっかぁ。ならこれ飲んでから行くか」


「ありがとう」


「ちなみにどこに行きたいんだ」


「国境を超えた先にある炎魔山(えんまやま)」


 それを聞いた時、和也はニコッと微笑んだ。

 なんで育枝がデートを誘ってきたのかがわかったから。

 国境を超えるとなると敵国の人間と遭遇することもある。

 だからボディーガードが欲しかったのだと。

 育枝は確かに強い。

 だけど女の子であることには変わりがない。

 女となると、人質、人身売買、性欲の吐き口、……と敵国の人間に捕まると、ただ殺されるより辛い経験をさせられることだってある。そう言った意味で一人では不安なのかもしれない。それに今はちょっと別の問題も問題視されている場所でもあるのだ。

 そんな炎魔山は魔術の補助アイテムとなる鉱山がある場所でもある。

 なのである程度強くなった実力者達が更なる成長を求め色々な場所から訪れるスポットでありどの国にも属さない場所の一つでもあるのだ。

 兄として妹が成長したがっているのであれば手伝ってあげるのは当然と言えよう。

 なので――。


「喜んで付いて行くぜ!」


 親指を立てて、満面の笑みで答えた。


「あ、ありがとう」


「可愛い妹からのデートを断る兄はいねぇからな!」


「別に私可愛くなんかないけど?」


 和也の言葉を全否定するかのような冷たい声。

 だけど――。


「んなわけあるかよ。可愛いから力になりたいと思うし、助けてあげたいと思うんだろ?」


「そうなの?」


「当たり前だ。それに今日の育枝化粧してていつもより綺麗で可愛いと思ってるぐらいだ!」


 ドヤ顔で自信満々に言う和也。

 すると、育枝の頬が朱色に染まり、頬の筋肉が緩んだ。


「ばかぁ……」


 育枝はボソッと呟いた。

 その後、二人は玄関を出て目的地へと足を進めた。


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