第36話 愛なき者への裁き
チーク達の前から敵兵は去った。攻撃を撃退した過程で、かなりの戦死者を、相手方に与えた、残した死体の数も、捕虜にした負傷者の数もかなりの数に及んだし、反撃に出た夜襲も成果は、かなりあったと思いたかったが、これ以上戦えなくなって撤収したとは、チーク達にも思えなかった。しばらくして、彼らにとっての主戦線である勇者パンがいる方には、和議の使節が来て、交渉が始まったとの情報がもたらされた。そして、チーク達が、戦った地域は、預かり知らぬという態度であるということだった。
「以上、約4割の戦線で勝利、成功を収めました。約4割ではある程度の成果を得たというところで、1割強で不利、敗北、失敗となりました。ほぼ想定内であり、我が三分の計の態勢が出来上がりました。」
カントンメンは、恭しく説明した。しかし、肯きながらも、皇帝チンジャオは、沈鬱な表情だった。そして、
「カルビ…。」
とつぶやいた。
“あの方ことを気に悩んでいるのか?お優しい御心だ。カルビ殿はお止めする陛下や私を振り払っていったのだが、彼女なりに、陛下の理想の世実現につくしたい、あのような卑怯者を許さない正義感からだった。”カントンメンは、小さく溜息をつきながらも、
“特定な人への愛情も強い。だからこそ聖帝なのだ。やはりあの策を実行しなければならないな。後で、お話ししよう。あのような卑怯な輩には、陛下の悲しみ、慈しみを打ち壊した者には相応しい罰を。”
「その策とは?」
二人っきりになってから、チンジヤオはカントンメンに尋ねた。
「愛を踏みにじる卑怯者には、相応の報い、復讐を受けることが当然です。それにつけても必要なことは、既に準備出来ております。それは…。」
カントンメンが耳打ちすると、チンジヤオは満足そうに頷いた。
カルビの顔が、脳裏に浮かんだ。小柄過ぎるが、それにもかかわらず、なみいる猛者達をなぎ倒した実力。女としても、体に不釣り合いなほど大きい胸、魅力的であった。孫ほどに歳が離れていたが、彼は決して好色家というわけではないが、彼女を抱いた。彼女のたっての希望で、激戦地への出陣を許し、再会を約した。それが叶わなかった。その原因を作った者が許せなかった。それが、カントンメンのいう聖人の心なのかは、彼にはどうでもよかったし、それにいつまでもクヨクヨしていても仕方がないと謂うことも分かっていた。カントンメンが、裁きを下すということで、その策に、彼は満足した。
カントンメンは、皇帝チンジャオの前から退出すると、自宅に戻った。大国の宰相の邸宅としては、あまりに質素だった。彼の妻が侍女を一人だけ連れて、彼を迎えた。賢女にして良妻の誉の高い、小柄な美人とはとても、どう見ても言えない女だった。
「カルビ様の仇をうたれるのですね。」
彼女は、夫の顔を見ただけで分かったというように言った。
「思いのほか、よい素材でしたから期待できると思います。やつめに裏切られ、全てを失い、愛する者も奪われた彼女が、カルビ様の無念、チンジャオ様の悲しみを晴らしてくれるでしょう。」
カントンメンは、妻の言葉に満足そうに肯き、
「通常の手段でも試みたが、ロリ婆のために失敗したようだ。」
「ロリ婆ですか?」
「使者はそう言っていた。」
2人は笑い声をあげたが、侍女は、無表情のまま控えていた。
「鮮血の姉妹戦姫とは、とても見えないのお。奥ゆかしい美人姉妹だな。」
オヒタシ国王妃は、年齢不詳の小柄なロリ、まあ美人、は揶揄うように笑った。カーマとボカは、微笑みのまま受け流した。二人は、流石に鎧姿ではなかったが、騎士の正装で、彼女の前に座っていた。
「戦場以外では、優しい、淑女ですよ、二人とも。」
二人に挟まれた、チークが穏やかに言った。
魔族その他の軍に蹂躙された地域は、ギイ、ウナの率いた魔族その他の一団にその一部が、チーク達に一部が与えられ、復興が始まっていた。その間に、オヒタシ国は、亡命貴族も含めたクーデター、反乱が相次いだが、チーク達による鎮圧された。それも一段落し、王都を離れ、与えられた地に戻る彼らを王妃が茶会に招いたのである。
「チンジャオは、陛下に女の服を贈って寄越しおった。」
オヒタシ国王に、チーク達を粛清するよう進言する使者を送ってきたが、聞き入れられなかったので、送ってきたのだ、“女みたいな軟弱野郎”という意味での挑撥にみせかけた権威失墜を狙った宣伝行為だった。彼が扇動したクーデター、反乱勢力はもちろん国中に、この事実を広めさせた。クーデター、反乱を起こした連中は、勢いづいて、行動をおこし、このことを掲げて、軟弱な国王を退位させるべきであると、大義名分にしていた。疲れきっていた国民の多くは、軟弱野郎の平穏をもたらせてくれそうな国王の方を選んで動かなかった。チンジャオの策が失敗したのか、最初から狙っていたのは、この程度の混乱だったのかもしれない。この後、嫌がらせのように王妃のことを、
「ロリ婆」
と広めさせたことから、彼女の扇動が目的だったのかもしれない。女が、妻が、“軟弱野郎”という罵りに反応して、それを否定させる行動を男達、夫に扇動することは、ままあることである。それに、彼女が乗らなかったので、“ロリ婆”という悪評を送ったとも考えられる。これまた、国民が愛称のように使うようになっただけであり、彼女も取り合わなかったのでそのままとなった。
「どこがロリじゃ?」
と本人は、大いに不満だったが。遠い、あまり重要ではない方面で彼自らの工作でなかった結果で、彼自らの工作であったら、どうなっていたかは分からない、王妃もチーク達も思っていた。
「陛下も、お前達は、国に必要不可欠な者達と思し召しじゃ。これからも頼むぞ。」
チーク達は、頭を下げ感謝の言葉を返した。
「それからな、意味は、分からないが、他人の愛を裏切り、全て奪い、愛する者達を殺した者には、相応しい報いを、代わりに与えてやりますので、御安心を、と言ってきおった。余程、あのチビ女のことで恨んでいるらしいな、お主のことを。気を付けるようにな。」
と付け加えるように言った。
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