第34話 防衛戦3

 防衛戦は長引いた。撃退していたが、それ程重要でないはずの戦線のはずらしかったのだが、かなりの強者達が投入されてきた。カントンメンの戦略も、対峙する相手国側の反撃で、各地で戦線が降着状態となり、その打開のため、弱いと思われる戦線に梃子入れを計りつつ、陽動を図ろうとしていた。その一つが、迷惑なことに、チーク達のところとなったのである。

 チークは、巨大なトマホークを自在に操る水牛型獣人、ミノタウロスより人間に近い亜人の獣人である、に防戦一方になっていた。彼は、格闘戦用のコンホーなどでは応じていたが、何とか凄まじい力とスピードで繰り出されるトマホークを受け流すので精一杯だった。カーマも、ボカも対峙する相手に防戦一方になっていた。

 カーマの相手は、凄まじいスピードの拳を繰り出す、一方自分の周囲を絶対防衛結界で護る少年にも見える格闘家だった、実は女だったが。

 ボカは、瞬時に再生される鎧を纏う女格闘家相手に押されまくられていた。

「危ない!リーダーよ。」

 カユが、大楯で防いでくれなかったら、倒れたチークは、真っ二つにはならなくとも、かなりの傷を負って、次は確実に、最低でも致命傷を負っていたところだった。

「こんのを、糞オヤジが!」

 トマホークが輝き、再度叩きつけられた。その一撃で、カーユは吹き飛ばされた、大楯ごと。魔法石を付けて硬度を強化していなければ、楯ごと真っ二つにされていたところだった。

「リーダーが、高級な魔法石を三つ付けておけ、と渡してくれていて助かったよ。」

 叩きつけられた衝撃で体中が痛んで、しばらく動けなかったが、誰に言うでもなく呟いた。

「命拾いしたな。しかし、これで終わりだ!」

 素早く逃れて、態勢を整えたチークの方向に、輝くトマホークを大地に叩きつけた。衝撃波が彼に向かって走った。チークは、それを何とか、防御結界で受け流したが、

「これで終わりだ!」

 あれはフェイントだ、とばかり飛び上がりトマホークを振り下ろそうとした。その時、多数の衝撃弾が飛んできた。慌てることなく、トマホークに別の魔法を発動させて、その全てを弾く。その間隙を縫って、形の異なる複数の手裏剣が飛んできた。それも、次々に弾き返した。2本当たったが、それも聖鎧に防がれ、体には何のダメージはなかった。

「次々に小細工を…。しかし、これだけ、わしを相手に生き延びた奴はおらん、今まで。それだけは、褒めてやろう。」

“だが、本当にこれで終わりだぞ。”とばかり、再度構えた。

 チークは、黙って、トンフーを捨てて、空間から大剣を取り出した。

「ん?逃げ足が遅くなるぞ?」

 せせら笑った。

「三対一なら、私が少しは足が遅くなっても大丈夫さ。」

「何を言っている。え?」

 余裕で周囲を見まわした彼は、驚愕の表情になった。

 自分の仲間二人が、動かなくなっていた。

「ゲフ。」

 血を口からあふれ出させ、

「何故?」

 自分の神速の拳が炸裂した相手が幻覚で、自分の胸が拳で貫かれていた。幻覚に惑わされるはずはない、絶対防衛圏が何故発動しなかったのか、身軽にするため薄いものにしていたとはいえ、聖鎧が拳で貫かれるはずはない、全てがあり得ない、あり得ない、絶対あり得ないという叫び声が喉で止まった。

「残念ね。弟がちゃんと助けてくれていたのだ。それが発動する瞬間を待って、全力をぶつけた。それだけさ。しかし、本当に平野胸だな。」

 カーマは、拳を一旦引き抜き、顔を一撃した。頭蓋骨まで砕けて、血を噴き出しながら、彼女は倒れた。

「顔もブスね。」

「胸は結構大きいじゃないの?でも、形が悪いわね、それに、ブヨブヨね。」

 その女の聖鎧は、切り裂かれて体から落ち、半裸になって、切り刻まれて絶命していた。自慢げになびかせていた金髪も、ズタズタに切り裂かれていた。

「私とお兄ちゃんで、その聖鎧の再生力を、一瞬、中和したのよ。それができるまで時間がかかったけどね。」

 ボカが返り血を浴びながら、声をたてて笑った。

「この卑怯者!」

 感情にまかせた攻撃が、チークを襲った。それを巧みに避けながら、大剣を叩きつけた。それは、全て防がれ、押し返されたが。

「チーク!」

「お兄ちゃん!」

 カーマとボカが加勢に入った。

「3人になっても変わらんわ!」

と叫んだが、反撃に転じたチークも含めた3人の攻撃に、瞬く間に防戦一方になっていた。

「どういうことだ?こんなはずは…。」

 その叫び声をあげた時、彼の命の炎は吹き消された。カーマとボカも加わり、彼の、トマホークの、聖鎧の力が抑えられたのである。さらに、取り乱した攻撃の隙に、チークによって、体に少しづつダメージを与える魔法攻撃を受けていたのに気がいていなかったダメージ部分に、これまた気がつかないうちに致命的になる魔法攻撃の打撃を受けてしまっていたからである。

“冷静さを失わなかったら、まだ戦えていたかもな。”

 この戦いの最後は、その翌々日だった。

「あれは、聖装甲騎兵だよ。」

 ズウが警告した。馬も特別、乗り手も精鋭、装甲にも対魔法耐性を与えられている。

「カルビの隊よ。あれをここに投入する?」

 これを言ったのは、ウナだった。

 約300騎。それは、陣形を整えると、一直線に突進してきた。

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