第33話 防衛戦2

 戦いは、この世界でも、基本は集団戦である。ただ、魔法、魔力、魔王、勇者などが存在することもあり、個人の戦力、武勇が大きくものをいう面があった。保元の乱の為朝などのような場面が、その勝敗が大勢を左右するすることが至る所で現出した。

 野戦陣地で、攻めあぐねた軍は、色々な方向から迂回してまわりこもうとした。道がないに等しい場合もあり、比較的少数精鋭ですすんだが、チーク達も待ち構えていた。そして、至る所で遭遇戦、一騎討ちではない一騎討ちが展開されていた。

「クソ勇者が、俺達の夢を邪魔するな!」

「確かにクソ勇者だが、お前に言われると腹が立つな!」

 二人の聖剣が何合も火花を発した。火球と電撃が交差して、互いの剣が、相手の体を斬った。血を噴き出す勇者の一人に、

「勇者様。今、回復を。」

とエルフの女が駆けよる。

「そんなことさせるか!」

 駆けてきた女が、彼女を蹴倒した。

「どけ!」

 女騎士の剣を女が、自分の剣で、受け止めた。

「早く!ここは、私が食い止めてるから!」

「もうやってる。」

 クソ勇者と呼ばれた男に、女が素早く回復魔法をかけていた。

「卑怯だぞ!」

 3人の男女が怒鳴ると、

「愛の差よ!」

と3人の女がハーモニーして、怒鳴り返した。回復したクソ勇者は、苦笑しながら立ちあがり、すぐにまだ、血を噴き出している勇者に躍りかかった。

「勇者様!」

 悲痛な声を上げた二人は、3人の女に殺された。

「悪魔め!」

 二人の死に涙する男に、とどめをさしながら、

「俺達をお前達が殺していたら、お前達は悪魔か?それとも聖人か?」

 ヤクスは、複雑な表情で自分達が殺した人間達の死体を見渡した。人間の勇者を筆頭に、人間、エルフ、オーガ、ドアーフからなるチーム。どういう経緯があったのか、ここで自分達と戦うまでの間に、そんなことを思った。同時に、3人のことも気になった。

「3人とも大丈夫か?」

 スー、イーカ、スキアは、血を流していたが、どれもかすり傷に毛が生えた程度だった。

「大丈夫、たいしたことはないわ。」

「うん。みんなかすり傷ばかりよ。」

 スキアは、突然フラフラとよろけるようにヤクスのところに歩みよった。

「痛い。」

「あ、私も傷が痛み出して、苦しい。」

 スー、イカヤがハーモニーして、ヤクスに抱きついてきた。周囲に彼の手勢が集まってきた。8人の男女が整列しかけていた。

「二人を捜せ。」

“死体でも連れて行かないとな。”

「そちらも終わっていたか?」

 女魔王ペアナが声をかけてきた。

「流石だな。クソ勇者とは思えんな。3人も大してもんだ。」

「褒めてくれたんですよね?」

「当たり前だよ。」

 返り血でいっぱいのハーンが、笑いながら妻魔王の言葉を補正した。先程、

「こ、この魔族の恥さらしめ、裏切り者!」

「先に逝った部下達に謝れ、自称魔王。」

 最後の力を振り絞って、ペアナに斬りかかったが、隙だらけで、かなり傷ついていたためだが、簡単に火焔で火達磨になってしまい絶命した。

「待たせたな。」

 相手の魔王の親衛隊を、一手に相手をしていたハーンを振りかえった。既に、全員倒していた。その彼を見て、相手は精神的な圧迫感を受けていた。彼女の手勢、すべて魔族だったが、二人欠けていた。

「引き揚げるぞ。」

 ペアナは言ったが、それでも手早く戦利品を剥ぎ取ってからの出発となった。

「リーダー達のほうはどうだろうか?」

「さっき連絡があったがな、もう引き揚げているそうだ。向こうも、無事だそうだ。」

 壊滅させたのだから、長居は無用だった。野戦陣地では、人手が余っているわけではないのだから。 

 魔族で合流した方がいいのではないかと、チークから提案があったが、ペアナ、ギィ両魔王も、魔族のフィアも、

「他の部族とは…。」

で、それぞれ別行動になっていた。

 そのような個人の戦いは、野戦陣地での攻防戦でも展開されていた。

「このダークエルフが!」

 本陣の手前まで突き進んできたエルフの勇者の男が、ミアの魔力を込めた拳と蹴りを受けて吹っ飛び、下の第二陣地に落ちた。

「だからハイエルフはウザいのよ!共存が呆れるわ。だいたい、おっさん、ハイエルフの血なんて入っていないでしょう?立派なダークエルフじゃない、自分こそ?」

 彼以外の、本陣まで迫った一隊は、サシ達の奮戦により壊滅、後続も同様に押し返されてしまった。

「クソ!餓鬼の小娘が!」

 普通の人間なら30前くらいに見えるから、外見も、実年齢も20歳のミアは、餓鬼、小娘だったかもしれない。イケメンとまではいえないが、整った顔立ちで、女が強く惹かれる何かを持つ、エルフとしては堂々とした、逞しい金髪の戦士だった。

 立ちあがった彼に、槍が突き出された。それを弾くと、目の前に記憶がある顔がいくつもの見えた。

「ご領主様の仇!」

「人間なのに、温かく、私達を護ってくれたご領主様とハイエルフなのに優しかった奥様の仇!」

 “このダークエルフ共が。”心の中で唸った。目の前にいるのは、一人オーガもいたが、ハイエルフではないエルフやハーフ・エルフ達だったが。

「俺は、カントンメン様の命でお前達を解放し、善政を施してやったのに、この裏切り者!恩知らず!」

「あれのどこが善政だ!」

「酷政の間違いよ!」

 立ちあがって、繰り出され攻撃を弾いた。体全体が痛んでいて、いつもなら瞬殺も可能な連中に苦戦していた。“少し回復すれば。”だから、勇者なのである。その時、連続で衝撃、火球の魔法攻撃を受けた。悪いことに直撃で受けてしまった。聖剣?魔剣?を落としてしまった。イーク兄妹が参戦したのだ。槍が次々突き刺さった。“こんなもの!”と思ったが、イーク兄妹がとどめのように、聖槍を突き刺した。

“何で、俺は愛する者に、信じていた者に裏切られ、全てを失うんだ!”心の中で絶叫し、“国を救ってやり、愛し合ったダークエルフの女王も、政略結婚から解放し、国も解放してやり、愛し合ったハイエルフの女王も、助けた人間の王女も愛し合ったのに、女達はみんな、みんな、俺を裏切った、あの人間の王は俺の全てを奪った、王女は俺を裏切り追放した。魔王を倒した俺を、愛する聖女達と共に、あの兄妹王子王女は裏切り、殺した。闇に落ち甦った俺は、出会ったカントンメン様の理想に共鳴した。なのに、また、裏切られて全てを失った!”の走馬燈が終わった時、彼の生命の火は吹き消された。

「噂だと、勇者として、評価できる実績はあったようだね。それでダークエルフ、というよりは雑多なエルフ達の国の女王の婿になったけど、格上の同盟国の人間・ハイエルフの二重国のハイエルフの女王を夫の人間の王から寝取って駆け落ち。両国内に色々扇動、画策したけど、上手くいかなくて、ハイエルフの女王を捨てて、ある国で手柄を立てて、取り立てられたけども、権力闘争に積極的に介入したけど、敗れて出奔。確かに魔王は倒したけど、王女暗殺に失敗して死んだらしいよ。甦って、カントンメンに拾われて、共存、平穏に暮らしている村々を攻め落としていたらしいね。女王は二人とも、迷惑をかけた王様に、許されて三人仲良く、夫婦生活、まあ、噂ではね、お人よしだね。この屑エルフ勇者は、女好きというより、上昇志向が強すぎだったようだね。まあ、女達は利用されただけだったわけだけどね。」

 


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