第32話 防衛戦

 確かに、援軍は来た。僅かに500人であり、正規騎士だけにチーク達の中で戦うことを嫌い、公都防衛につくと言って聞かなかった。彼らが加わらなくとも、彼らが持って来た武器~食糧などの物資はそれに余り在るものだったし、帝国諸王国からの周辺環境地域への協力についての布告が大きな意味があった。これだけでも、チークは騎士団の隊長に土下座して感謝してもいいと思っていた。周辺地域、都市から、続々というわけではないが、各種物資や資金が送られてきた。 

 もう一つ、騎士団隊長は、チークへのパンからの手紙も持ってきていた。それを読んだチークは、ふらついたように見えた。何とか、踏みとどまって、心配する姉妹達にそれを手渡した。

「あの馬鹿。死んだんだ。」

 ボカが呟くように言った。彼女も、カマも、さすがに哀しそうな表情になった。幼馴染みであり、かつては仲が良かったのである。言葉を察して、ミカエラ達もしょぼんとした。手紙には、リーノが死んだことが、詳しい理由はなく、簡単に記されていただけで、ただただ自分がいたらなかったことへの詫びが長々と記されているだけだった。イークとスージァはことさら無表情だった。

「殺されたわね。」

「そうね。多分、パンのあずかり知らぬところで、彼への遠慮もあるから、殺しただけ…。」

「勇者が、魔王が来たって、私とお姉ちゃんが、絶対、お兄ちゃんを守るからね!」

「その通りだ。3人で何時までも一緒だ。ミカエラ達も。」

 最後は、ついでのようだった。チークは、そんな二人を両脇に抱いて、上にタオルを羽織っただけで、浴室から出て行った。

「ようやく出て行ってくれたわね。お兄ちゃん。」

 イークの背中に乳房を押しつけながら、スージァが耳元で囁いた。浴室の端に、隠れて3人が出て行くのを待っていたのだ、隠れるようにして。

「2人で、幸せになろうな。」

「うん。」

 幸せにそうにしている二人を覗き、

「仕方がないな、考えることは皆同じようだ。」

「お互いに。」

 4人が、浴室の外にいた。

「魔王様達は、民も捲き込む形になるが、こちら側で戦っていいのか?」

「使い捨てのように使われてきたし、今後も同様だろうからな。ジリ貧よりはな…。それに、我らが、過去の策謀を知ることは予想しているだろうからな。いつかは処分しようと思っていただろうよ。」

「みんなの総意だよ。それに、共存のとか言ってる連中の横暴さには、耐えきれなかったんだよ。それにさ、あの皇太子さん達をはじめとする人達への無念も果たしたいという気持もね。」

 女勇者が、魔王を補強した。

「そういうお前の戦う目的は、復讐か?しかし、それなら、死んだ王女への復讐は考えなかったのか?」

 魔王が切り返すように尋ねると、勇者は、

「復讐か…。それもあるかな。ただあいつの兄弟姉妹はやるか、やられるかの関係でもあったから、あまりな…それに、あの連中も操られた、してやられたわけだし…共存を言いたてる連中には虫酸が走っていたし…。やっぱり復讐だな。あいつと一時見た夢が壊された悔しさへの復讐かな。」

 遠くを見るような目で吐き出すように言った。

 それを聞いて、

「順番待ちは嫌だから、我は帰る!」

 魔族の王女は、背を向けて駆け出した。溜息をついて勇者は追いかけた。

「大丈夫かな?」

「いつもの痴話げんかさ。」

「そうか~。ところでさ、魔姫はさ、魔王の初恋の人だって聞いたんだけど~。」

「誰だ、余計なことを…。」

「ゆっくり、部屋で聞かせてもらうよ。」

 その後、

「だから、お前は我とのかつての夢も、これからの夢もどうでもいいのだ!単なる身替わりなんじゃ!」

「だから、あいつとの夢の思い出を持ちながら、お前との、これからの夢を守りたいんだよ!」

「本当だな?本当だな?」

「本当だ!本当だ!」

という叫びと体を打ちつけ合う音が響き、

「へえ~、とってもロマンティックだったんだ~?私の時はそんなんじゃなかったよね~?」

「我はまだ、何も知らぬ少年だったのだ。気恥ずかしくて、その後はな…。」

「ほお~、そこのところを詳しく話して欲しいんだけど?」

 長い会話も聞こえていた。

 数日後、三重、四重に掘られ壕、同様な数作られた土壁、柵、壕に植えられた逆茂木、さらに塹壕、大小の櫓などが建ち並ぶ陣地に、四万の兵力が押し寄せてきた。

 本格的砦ではないが、堅固で重層な野戦陣地である。一柵を突破しても、いつの間にか、取り囲まれ、思わぬ方向から攻撃されて、突入した部隊の多数が倒れ、結局は押しかえされることが繰り返されていた。それ以上に、最初の壕を乗り越えられず、撃退されることの方が多かった。

 しかし、万里の長城のように、延々と長い野戦陣地なぞ構築できることは出来ない。主要な街道、進み易い、侵攻し易い場所に構築している。相手も、それは当然なこととして十分わかっているので、その狭間からの侵攻を、当然試みる。

「この卑怯者!」

 礫を得意技にした女指揮官が罵った。相手をしていた女剣士が、姉妹らしい格闘戦士に入れ替わって、自分に激しく攻撃をかけてきたからである。剣士はと謂うと、姉妹が相手にしていた同僚の棒術の戦士の相手をしていた。入れ替わってしまったのだ。入れ替わる直前に、何処からともなく攻撃を受けて、それを弾くのに隙ができて、二人とも、遅れをとり、防戦にまわっていた。

「どうして、分かった?」

 仲間の女魔道士が、血を流しているのに気がついた。

「我が波動を、我が敵の。」

 詠唱を唱え終わる前に、女格闘家の拳が貫いていた。

「馬鹿なお、ば、さん。後ろががら空きよ。」

 いつの間にか、自分の相手は、又女戦士に戻り、男の戦士が棒術戦士の動きを止めていた。3人を援護する兵士達は、あの3人の男女の戦士に、次々倒されながら、動きを止められなかった。

「馬鹿な。聖木から作った棒が。」

 真っ二つになり、女の剣に体全体を貫かれた男は、呻いた。

「聖木の力が、抑えられているのが分からなかった?少しづつお兄ちゃんがやってたの!」

 大きな音をたてて、女が地面に叩きつけられた。“どうして?”分からない、という目だった。

「貧弱な胸は見てられないわよ!」

 魔力を貯めた足で、胸を踏み破られ、断末魔の声もなく女は、絶命した。

「ああ、結構大きかったわね、ごめんなさい。でも、ぶよぶよだったけど。」

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