第30話 裏にいる者

「竜神の軍団だ。」

「竜神?」

 誰も聞いたことのない名だった。

「詳しいところは、私も分からないのだが…。」

 当初、500名ほどの一団だったらしい。その頃から、高貴で、大望を持った、正義の、無敵の雑多な集団だった、と称していたらしい。実際には、魔族にも、人間達にも雇われて戦う、単なる傭兵的な存在だった。その点でも、ひどく異質な集団だった。だから、昨日戦った陣営に移ることも、度々あった。まあ、それは傭兵部隊にとっては、よくあることだが、人間でも魔族にでもということは滅多にないことだった。

「まあ、正義のため、義のために戦ってきた、奴らが言うにはだが。今では、パーコ帝国、皇帝チンジャオ、この下に天才的宰相にして希代軍師・謀略家のカントンメンがいる。全ての構想は、そのカントンメンからきているらしい。チンジャオは、全てを慈しむ皇帝様だという噂が流れているがな。」

 彼の言葉には、“疑わしい”という感じを漂わしていた。

「彼らの追い落としも、俺たちの追い落としも、奴の策だったんだ。ある時、使者の顔を知っている者がいたし、彼からの話もあってな。」

 ズウを見た。

「奴に姫さんと共に拾われて、俺達も、魔王さんの件で係わっていたんだ。魔王さんを通じて、姫さんのことで奴らが係わっていることを知ったのさ。」

 転移者だというズウは、ズウはこちらでつけられた名だ、何人もの召喚者の一人に過ぎなかった。他の者達はグループでされたのに対して、彼は一人だけでの召喚だった。宮廷魔道士の見立てでは、だからといって、特段優れているとは言えない、色々な能力はあるが、かえって突出したものがないというものだった。だからなんだ、というところだったが、その国の王位継承問題が絡んでいた。魔王を倒したチームの王子なり、王女が王位を継承するというものだった。迷惑至極だったが、当然のごとく彼は最後まで選ばれないだろうと思われた。が、まっ先に選ばれた。選んだのは、第二王女。黒髪の、美人だが、傲慢そうな感じの19歳、そして自ら同行すると言いだした。

“ああ、彼女の気持ちは分かるわ。”と若干一名、“ああ、俺も。”と一名。

「一発逆転を狙っていたんだ。あいつは、馬鹿で、権力欲が強くて、尊大で、聖女の微笑みの裏に悪魔の顔を隠した、人を陥れ、人を道具としか見ない、目的のためなら手段を選ばない、冷酷で、残忍で、執念深い、そして、賢く、寛大で、優しく、寂しがり屋で、面倒見がよく、よく気がつき、頼もしい、弱い者下の者に思いやりも、配慮もある、可愛い美人だった。」

 彼と二人でかなり無理し、無謀なほどの行動でライバル達を出し抜こうとした。

「初めの頃はともかく、彼女との冒険を楽しむようになったんだ。あいつも同じだった、と思う、少なくとも、そう言ったよ。」

 幸運もあって、満身創痍になりつつも、魔王を討ち取り、その首を取ることに二人は成功した。その時には二人とも、二人でささやかな幸せがあればいいと考えるようになっていた。

「権力争いが怖くなったんだよ。今、考えれば最悪の選択だった。魔王の首を取りました、権力は、もう要りませんから、スローライフをさせて下さい、なんて通用するはずがなかったんだよ。信じるかい?あくまで、権力を、求めて戦えば、まだ、可能性があったかもしれないのに、最初から勝ち目を全て捨てていたんだ。結局、俺達は孤立無援、多勢に無勢、俺は、彼女の首を抱いて死んだ。彼女を守れなかったんだ。」

 彼の顔は、涙など涸れつきたというように感じられた。が、

「?」

 チーク以下、ちらっとマナを見た。“彼女ではないのか?”

 死んだが、魔族の元で甦った。そのズウを拾ったのがマナ、彼に倒された魔王の第二王女だった。

“身代わり?”誰もが思った。

「魔族の一員として生まれ変わったようなものだけど、魔族として恨みを果たそうとも思わなかった。魔族も、同じようなものだったからな。まあ、拾われた恩義もあるし、命令には従うおうかとは思ったけどな。」

「後継者を巡る争いになって、私は孤立無援になっていて、彼だけだった、味方は。二人で何とか、切り抜けたのよ。」

 マナが説明した。彼女も、本来なら第一王女であるべきだったのに、第二王女とされていた。彼にとって、多くの点で重なる物語であった。だから、彼女を守ろうとしたのだ。マナは、複雑な目でズウを見た。彼も似たような目で見た。

「そして、あいつらに拾われて、奴らの元で働いた。そして、知ったのさ。」

「共存の実体と私達をこんな境遇に堕としたのは、やつらだったらしいということを。」

“人間型とはいっても、魔族っぽい感じがしないんだが。”

 その疑問は、

「あの魔王様と勇者様と所に来た連中が漏らしたことから知ったし、あの皇太子さんの時には、俺達も使われた。ハーフ魔族の国を潰し、共存を進めた皇太子と魔王を潰したんだからな。」

皆は、“彼女は、人間の血の入った魔族か。”と肯いた。“魔族の血を引く王侯貴族などもいるからな。”

「共存の里は、各地にある。人間に限らないが、領主が保護している場合も多い。独立した所も、隠れ里的な所や公認された自治都市、自治農村だったりするなど色々だが。中には、博愛精神に近い動機で行う領主もある。大部分は、税の取り立ての関係もあってだが、それでも共存の里を保護したことは変わらない。逆に、単に他の種族を複数支配する、雑多な構成の一団が支配しているだけの場合もある。奴らが、複数の部族を支配している所を、共存として喧伝している場合も多い。さらに、共存派の領主を直接潰す、他の領民を唆し、俺達のような者を送りこんで倒し、共存の里を襲撃させる、領主は倒さないが、襲わせる場合もある。前者なら、救世主のような顔をして解放して支配下にする、後者であれば、やはり救世主のように現れて、彼らも率いて、領主を倒し、襲った村々も焼き払う、そして支配下に入れる。どちらも、対立感を煽って支配する。」

「純粋な共存する人々に救われた勇者達というのは?」

 チークの問いに、

「ここに来た連中で、そんなのはないと思うな。」

「我も、知っている連中に限れば、疑わしいな。」

「そうよね。私なんか、ハイエルフの連中と付き合うなんて、絶対嫌だもんね。」

と若干約一名。

 パーコ帝国は、カントンメンが加わって、十数年、国々を乗っ取り、攻め落とし、急速に大きくなっている。

「多分、魔族を先頭にたてて、押し寄せてくるだろう、近いうちに。魔族の国々と人間・亜人の国々と提携して、まずは世界を三分して、その後、吸収、乗っ取り、内部崩壊させて、世界を支配するつもりだろうな。まあ、恐怖の帝国ではないし、カントンメンの政治はちゃんとしている。それなりに豊かだ。だが、理想郷ではない。」


 

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