第29話 倒した相手、加わった者

「共存。奴らは、周囲しか見ていなかったんだよ。」

「簡単に、共存など出来るものではないわ。人間さえいなければ、平和共存出来れば、我は苦労はないわ。」

 勇者ズウと魔王ギィが、憐れみを込めて言った。それぞれの隣に座るナマ王女と女勇者ウナが肯いた。

 この4人は、あの戦いの直前、チーク達の傘下に加わったのである。あの戦いでは、彼らからの情報が役だった。

 傷だらけで疲労困憊のチークは、彼の姉妹に抱きかかえられ、

「大丈夫か?お前は無理し過ぎだ。」

「もっと、自分のことを大切にしてよ。」

と二人に文句を言われながら、彼は皆と共に撤収していったが、勇者、魔王が揃っている彼のチームの状況はどこでも、大なり小なり、似たりよったりの状況の撤収になっていた。それだけ、相手に勇者、魔王級が揃っていたのである。だから、糧食、兵器が焼き払われたこともあったが、彼らを失ったのを見て、残りの将兵は、戦意を喪失てしまい、あとは総崩れしてくれたのである。

 そして、新たに加わった4人と共に、今後のことを話し合っていた。ズウとナマは二人だけだが、ギィーとウナは、魔族、人間達からなる数千の一団を引き連れていた。

「共存…、保護もし、自治も認めてやったのに、人間達は度々反乱は起こすわ、大変だった。まあ、オーガやエルフよりは、物わかりはよかったがな。」

 彼は人間型魔族で、魔族としては、堂々とした体格ではなく、精悍さよりも知的な印象を与えるが、それなりの威厳があった。勇者のウナは、勇者だと言われると、小柄かなと思えるくらいの体格だった。年齢よりあどけなく見える可愛い美人だった。何故か、2人とも似たような赤い髪だった。

 先代の時から、魔王も、相対するカーバ帝国も戦意がなく、何となく停戦状態になっていた。彼が魔王になった時、帝国の皇太子との間で和平交渉が始まり、和平条約が成立した。皇帝が政治に飽いて、長男の皇太子に政治の実権をまかせていたからだが、彼は性格が穏やかで、平和を好み、学問、芸術を愛し、亜人だけでなく、魔族との共存も信じていた。お互いに、単純に上手くは行かなかったが、実際の政治力が彼にも十分あったことから、両勢力の和平、共存は上手くいくものと思われた。しかし、それは数年で終わった。その理由は、お互いの内部から発生した、つまり、共に反乱が発生したのである。

「あやつも、頑張っておったのだがな、わし同様。学問、芸術を愛して、哲学者や修行僧、錬金術師との対話を好んで、取りまとめた本の編集などの事業もしておったが、民政、民衆の生活への配慮も怠らなかったし、自身は質素だった。奴も我も、確かに理想の政治などしなかったし、出来なかったがな、今になって思えば。とはいえ…。」

「いい人だったんだよね。かと言って軟弱というわけでなく、私ら戦士の人気も悪くなかったんだよね。でも…。」

 勇者ウナが補足するように言った。魔族と人間の間が平和でも、勇者の力を持った者が現れるし、その一人である彼女は、人間界・魔界にとって迷惑で、手をこまねく魔獣退治に魔界に赴くことが多かった。それで、親しくなり…。

「一緒にいてくれ、と懇願されて~。」

「いや、逆で、こいつがベッドに潜り込んで…。」

「あ、そんなこと言うなら、その前に…。」

 勇者と魔王が、そんな関係になる前に、彼の一族の女で、かなり高位の魔族の女が、カーバ帝国皇太子の妃になっていた、正式にというのではなくなんとなく。学問好きの彼女が、皇太子のところに行って、意気投合して入り浸っているうちに、そのまま、そのような関係になったのである。

「あの学問好きの、女に興味ないと噂の皇太子さんが、女と色恋沙汰、しかも魔族の女と、なんてみんな驚いたものさ。」

「あの女だって同じだぞ。美人だが、並み居る求婚者達に無関心、それを人間の男が堕としたというので、話題になったもんだ。」

 はじめは、二人して幾晩も同室で学問を論じても男女の関係などとはほど遠い二人で、皆が半分呆れながらも、納得していたくらいだったが。それがいつの間にか、イチャラブ、バカップル化していた。古いセックスの奥義に関する古代文明の書を見つけて二人で読みあさってるうちに…という話や、幾晩も学問について語り合っているうちに、寝ぼけて床を一つにしていて、気が付いたら、他害の体臭を嗅いでたまらなくなって…とか、幾晩も夢中になって、体も洗わず、論じ、書物を見ているうちに、

「この一文をどう思いますか?」

「どういう文ですか?」

と二人は体を密着させて、その文を一緒に読んでいる内に互いの体臭が鼻をくすぐったが、それが互いの性欲を刺激して…、とか様々な見てきたような噂が流れた。まあ、イチャラブバカップルだが、学問への情熱はさらにたかまっていた。

「一度、俺のところに不満顔で来たことがあるんだがな。古文書の解釈で対立したと一方的に言いたててな、“自分の間違いを認めないんだから。ひどいわよね、あんな小さな男とは思わなかったわ。”とか言って、自分の解釈を延々と聞かせた挙げ句、まあ、我もよく分からなかったから、いい加減に聞いおったのだが、突然叫び声を上げたかと思ったら、“彼の解釈が正しかったかも!”なんとか言って、そのまま帰っていってしまったのだ。一体、何だというのか…」

 ただし、皇太子には、子供の頃から、帝国内の有力者の娘が正式な皇太子妃とされていたし、運命の日の1年前に、正式に皇太子と結婚した。

「皇太子妃と魔妃と呼ばれたけど、仲は悪くなかったよ。皇太子妃は魔妃をお姉さんのように慕い、魔妃は彼女を妹のように可愛がった、て感じかな。でも、そうでなければ…。」

 魔妃に出会う前には、学問と政治だけの人で愛人など影もなかったほどの皇太子は、この二人しかいなかった。

「本当かどうか分からないけど、聞いた話だと…。」

 弟の三男である第三王子が、父皇帝が重体となったと聞き、すかさず大軍を集め反乱を起こして、王都に迫った。皇太子は、初戦の段階では陣頭指揮で、一矢どころか、二矢、三矢、いや、四矢は報いたとはいうものの、所詮は戦略的に瞬く間に圧倒的に不利な状況となった上、弟の側に次々に兵も将も、宰相、官僚も寝返り、加わり、遂には追討を命じた軍が、司令官ごと一糸乱れず彼に寝返ってしまう事態となった。

「あなたの父上は、敵側に加わっています。妃になり日も僅かですし、あなたの意志ではありませんでした。ここから逃げて、投降すれば、丁重に迎え入れてもら得るはずです。」

「そうおっしゃる魔妃様は、どうなさるのですか?」

「私は自分の意志で、皇太子様の元に参りました。それに、もう日々がかなりになります。その上、私は現魔王の一族です。あちらにも、私には死しかありません。」

 そう言いながら、武装しはじめている魔妃に、皇太子妃は、まだ、この時少女でしかなかったが、だから、皇太子とは性的関係にまだなかったのだが、

「私、魔妃様とはいえ、天国で、皇太子妃を譲るつもりはありませんわ!」

 しばし見詰め合った二人は、噴き出して笑い出した。

「二人とも何をしている!早く今の内に…。」

 鎧を着た皇太子がドアを開けて、目にしたのは、甲斐甲斐しくも武装姿の妻達の姿だった。

「天国で、他の女を妃にはさせませんわ。私と魔妃様だけですからね。」

「皇太子妃様と二人で離れることなく、監視させていただきますからね、黄泉の国まで、いえ、黄泉の国でも。覚悟なさって下さいませ!」

 皇太子は、まず呆気にとられ、次には噴き出し、最後は涙を流しながら笑った。

「そして、最後、戦いで血みどろの3人が、互いに体を支え合いながら、炎の中に身を投じた…、そういう話。誰が見たのか、本当かどうか…。でも、私は、あの3人を知っているからね、ありそうなことだと思うね。」

「援軍を求められていたが、何も出来なかったよ。こちらも、反乱軍が押し寄せて来ていて…。こいつの。」

 ウナを指さして、

「こいつの獅子奮迅の活躍で何とか切り抜けられたんだが。」

「あなたも頑張ったわよ。だから、皇太子側からの避難者も含めて、人間、魔族、亜人達を連れてここまで来られたんじゃない?」

 ウナが、彼を優しく抱きしめた。

「共存に反対する側に、人間界の魔族も亜人も、魔界の人間も、亜人も加わるんだからな。皮肉なもんさ、反乱を起こして、俺やあいつに鎮圧されたとはいえ、もっと厳しいやつを選んで…。我もあいつも、上に立つものとしては、甘過ぎたかもしれん。薄っぺらい博愛など、民は役に立たないと見抜いていたのかもしれない。」

「私は、少なくとも、そうは思わないよ。魔妃だって、そうだったと思うよ。」

 弟を慰めるように、ウナはギィを慰めた。ウナの方が、かなり小さかったが。

 寂しそうに言った。途中、数を減らしながら、数千人を率いて流れてきた。

「そのあんたが、共存を標榜する奴らを見限ったんだ?」

 チークが、質問した。

「あいつらの後ろにいる奴が、我々の追い落としを謀っていた奴だと分かったのだよ。これだけの数を傘下にしているから、それなりの奴がきてな、それでわかったのだよ。」

「魔王様達の判断は正しいよ、保証するよ。」

 勇者ズウだった。彼は、異世界からの転移者だと自称していた。そのためヤクスとかなり話し込んでいた。見事な黒髪の、20代半ばくらいのゴウと似た民族タイプの中肉中背の男だった。ナマ王女はというと、彼に似た黒髪を、女性としては短く切りそろえた、小柄だが、如何にも意思の強そうな、少しボーィティッシュな印象だが、それが魅力感じさせる美人だった。

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