第27話 大浴場にて

 チーク達は、当主をはじめとして、主要な一族が戦士等で、四散して行方不明になってしまっている前公爵の別邸で、共同で生活していた。かなり損壊していたが、生活できる程度に修復していた。そこにある大浴場で、

「姉さんは、悪党王女に見えるのは分かるけど。」

体を洗いながら、ボカが聞こえるように言った。

「それは、お前だろうが。」

 カーマが睨みつけるが、誰もが笑っていた。それが、二人のじゃれあいのようなモノだと分かっていたから。

「まあ、悪党王女らしい顔などやつらも、頭にあったわけではあるまい。それに、二人の悪行は、あやつらも認めたように、又聞き、命じた奴からの話だ。お前達を慕って、ここまで耐えてきた奴らがいたのだ。前にも言ったが、やったことは、我も同じじゃ。優しいばかりの名君などおらん。残酷なこともできなければ、勝ち残るような奴でないと、自分も、国も、民も滅ぼすものだ。我のようなざまになる。」

 ペアナは、後半はキアとターミアを慰めるように言った。二人とも、過去の自分に暗くなりがちだった。

「魔王様も慕われていたから、言葉に含蓄があるよね。でも、元王女様達や王子様がいるから、心強いと思ってるよ。」

「ボカの言うとおりだ。あいつらを相手にするのには、元王女様達、元王子様が頼りだ。チークも感謝しておったよ。それに、私達の父は、地方の小領主、というより地主だったが、小作人に対しても、職人に対しても、商売相手にも、優しいばかりでも、真っ正直でばかりではなかったな。それでも、それだから慕われておった。ま、下々の話だが。」

 既に、浴槽に入っていたミカエラとクロが肯いた。

 体を洗い終わった二人が、浴槽に入って、湯に浸かった。姉妹なだけに、顔だけでなく、背格好も、スタイルも似ていた。平均より大柄だが、そんなことは感じさせない、繊細な美しさを持っていた。階層は同じだが、続いて入ってきたスージィアは、彼女達より小柄なため、より可愛らしさを感じさせた。戦いでは、繊細とか、より小さいとかは全く感じさせることはなかったが。

「女達が、やっかいね。」

「性悪が揃っているしね。」 

「あの妹と同じだわね。」

「同感ね。」

 キアとターミアがいうことに、“まーあ、そうだわな。”という顔を皆がした。同時に、“まあ、下々だって、偉そうなことは言えないしね。”とも、ペヤナ以外は思っていた。

 オヒタシ王国は、小国ではある。国王は既に妻をもっているが、愛人はいない。小国でも、宮廷という空間はあるものだが、幸いこの国にはない。かなりの貴族が消滅したものの、その女達がいる。また、周辺で滅亡した小国で、魔族が駐留していない国がいくつかあるが、オヒタシ王国がとりあえず管理しており、その地の王族、貴族を受け入れている。近い将来、然るべき者を王位に就けて、その者にその地を返還する予定である。これ幸いと、自分の領土にするわけにはいかないのである。そのこともあり、他領の王族、貴族の女達も暗躍している。父、兄弟、息子、甥のためだ。

「王様は、頼りないけど、しっかりしているところはしているようだから。」

 スージィァが指摘した。30代半ばだが、軍人としても、政治家としても卓越したところはないし、威厳もカリスマ性も、外見の見栄えも指導力もないが、質素で、愛人はもたず、という美点と他人の意見を聞き、正しい判断は下せた。

「ロリ巨乳好きだけどね。」

 スキアの言葉に、皆は肯いた。王妃のことである。20代半ばなのでロリではないが、外見はロリ巨乳なのだ。然るべき家柄の女性であるから、王様が選んだわけではないが、あの溺愛ぶりからはそうとしか見えない。

 そのロリ巨乳であるが、自分達のことは、愛馬くらいにしか思っていないようだった。餌をやれば走ってくれる。

「私達のことは、女とさえ見ていない。」

「まあ、姉さんは仕方がないけど~。痛い!」

 カーマがボカをすかさず小突いた。それを見て、また笑い声が響いた。王も似たようなものだ。この二人は、心配は、あまり必要がないが、国内外の女達がうるさい。変にライバル視したり、嫉妬したり、追い落としを謀ろうとしたりしていた。彼らがいなくなったら、誰が守るのかが分からないのだ。その連中の相手は厄介だとキアとターミアだけでなく、皆が感じていた。

「まあ、皆、美人揃いだからのを。」

 ペヤナが豪快に言うと、“そうよね。”と言うように、皆が和して笑い合った。

「姉さん?お兄ちゃんと、今度、二人っきりで一緒にお風呂に入ろうと思っていない?」

「そ、そ、…それはおまえの方だろうが。」

 そのやり取りに、ミカエラとクロが二人とも、それを考えている、と言う目を向けたが、他は下を向くか、横を向いて黙ってしまった。

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